吉田修一の思惑通りに踊らされた感覚
ずっとある気持ちの悪さタイトルと扉の絵に惹かれて読み始めたこの作品は、冒頭からなにか不穏な空気を纏いつつ始まる。そして結婚している人間が恋愛として一線を越えるのはどこからかという話題から始まるこの話は、重くリアルで決して純愛ストーリーではないと思う。主人公である初瀬桃子は普通の主婦だ。日記をつけ続けることができるという奇特な性格と、手作り石鹸公講習の講師であるということ以外は特に変わったところもないように思えた。その日常に、夫真守の浮気疑惑という問題が持ち上がってくる。これに桃子が気づいた出来事がとても気持ち悪い。香港に出張して帰ってきた真守の荷物の洗濯ものが小さく丸められていたのだ。このようなことをするのは女性としか思えない上、その丸まり方が虫を思わせて実に気持ち悪い。この“気持ち悪い”という気持ちはこの作品の根底にずっとあるもののひとつだ。魚の脂で汚れたゴミ袋の結び口、蚊を叩いたと...この感想を読む
4.54.5
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