滅びゆくロシア貴族への限りなきノスタルジーを、彷徨えるインテリ貴族の心象風景を通して、ツルゲーネフ文学の精神と香気を伝える 「貴族の巣」
このアンドレイ・ミハルコフ=コンチャロフスキー監督の「貴族の巣」は、これがソビエト映画かと疑ってしまうほど、清新な映像感覚にあふれた作品だ。1970年度の作品ということで、映画史的に言うと、いわばソ連のニューシネマと呼ぶべき作品なのかも知れない。時代は19世紀のロシア。地方貴族のラブレツキー(レオニード・クラーギン)は、長く西ヨーロッパで暮らしていたが、華やかで空疎な社交生活のうちに妻の不貞にあい、傷ついて故郷に帰ってくる。したたる緑、光と影の交錯、むせかえる大地の匂い。その安らぎの風景の中で、彼は美しく成長した遠縁の娘リーザ(イリーナ・クプチェンコ)に会い、少年のような恋をする。リーザは心優しく、信仰心の厚い清純な乙女だ。だから、彼女は愛をおそれ、愛には罪が伴うものだと思ってしまう。その心が、深くラブレツキーに傾いた時、先に病死と伝えられた彼の妻バルバラ(ベアタ・トゥイシケヴィッチ)が姿を現わす。...この感想を読む
4.04.0