音を感じない静謐さの漂う短編集
第一印象をくつがえした「鉄橋」吉村昭を初めて知ったのはこの「星への旅」だった。図書館で不要になった書籍を譲ってくれるという機会があり、そこで手に入れた数あるうちの一冊だった。そうやって手に入れた本によくあるように、パラパラとめくった後しばらく我が家の本棚で眠ったままになっていた。この本を取り出して読んだのはそれから大分たった後だったけど、それを後悔したくらいたちまちこの本の世界感のとりこになってしまった。始めパラパラめくって本棚に戻したのには訳があり、一番最初に収められている「鉄橋」という話は、主人公がボクサーだったことにつきる。私はあまりスポーツなどをテーマにした小説を好まないのもあり、当時の私はボクサーという文字を目にした途端読む気をなくしたのだと思う。でもきちんと読んでみると確かに物語のテーマの一つはそれであるけれども、それ以外にも多くの要素を含んだ話で、緻密な描写で書き込まれて...この感想を読む
4.04.0
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