ミステリでもヒューマンドラマでもない、人殺しとの話
「その夜わたしは人を殺しに車を走らせていた。」という書きだして始まる物語は、しかしミステリでもサスペンスでもない。 小学校の教員である「わたし」が、ひとつの出会いをきっかけに巻き込まれていった人間関係の「なりゆき」を、時間を行ったり来たりしながら読者は見守る、そういう構造の小説だ。 佐藤正午作品にしばしばあらわれる「巻き込まれ・なげやり」型の主人公が、この話のなかでも存分になげやりに生きている。悪人に徹することもできず、そもそも殺人の計画など計画倒れではないか、と汗びっしょりになるような主人公。 そして、やはりしばしばあらわれる、しれっとした美しい悪女が話の鍵を握る。 いわゆる普通の「起承転結」をのぞむ人にとっては、このうえなく読みづらく、すっきりしない話であろうかと思われるが、ハードボイルドとミステリのかけあわせのようなこの作品に、それではどんなカテゴリを用意すればよいのだろうか? 緻密な構成と圧倒的なリーダビリティ、時間の往還を愉しむ覚悟のある人は、どうぞ、ページをめくってみてください。
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