序盤のスピーディーな展開が見事な、東野圭吾の「プラチナデータ」
警察の通常の捜査に対して、新たな捜査方法が提示された。それは、DNAを特殊なプログラムにより解析し、犯人像を予想し、さらには犯人に近い血縁のものを特定するというもの。このプログラムにより、犯人のDNAを示すことができるものが現場に落ちていれば即、犯人を捕まえることができるようになった。これにより警察の捜査は大きく変わることになったのだが--------。
このシステムをあざ笑うかのように、DNAから犯人像を特定できないという事例が現れることになる。システムに欠陥があるのか? 詳しく調べていこうとすると、そのシステムの開発者が殺害されることになり--------。
読んでいる途中で、東野圭吾の作品というよりは、大沢在昌の作品を読んでいるような感じになった。基本的には警察機構の話と言えないこともないのだが、なんとなくスパイ小説のように感じられないこともない。
これは東野圭吾の作品としては普通の出来栄えで、よくできていることは間違いないが、とりたてて秀でているところもないというような気がする。DNAを用いた特殊な捜査とそれに反発する刑事。システムの管理責任者でありながら、とある問題を抱えていることにより、事件の容疑者として追われることになる研究者。
事件を追う人々と、DNA管理プログラムを守ろうとする者、またはそのプログラムの秘密を暴こうとする者。そうした、様々な登場人物の思惑が錯綜しながら、物語は結末へと向かっていくことになる。
この作品で感じたのは、序盤のスピーディーな展開が見事だということ。序盤にDNAシステムについての説明がなされることになるのだが、そこに極力ページ数を割かないで、読んでいる者を退屈させないように、あっという間に話が進み、メインの事件が起き、物語が展開していくことになる。
東野圭吾の作品としては普通だと書いたが、こうした読者をうまく話に惹きつける手腕は、今さらながら見事と言えよう。これと同じ内容のものを、他の人が書いてもさほど面白いと思えないかもしれないのだが、東野圭吾が書くと普通のミステリ作品でも、それなりのものに仕立て上げてしまう。これだから東野圭吾の作品は、なかなか読み逃すということができないのだ。
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