現代において失われてしまった悔恨と贖罪の念を描く、映画史に残る傑作「エクソシスト」 - エクソシストの感想

理解が深まる映画レビューサイト

映画レビュー数 5,784件

現代において失われてしまった悔恨と贖罪の念を描く、映画史に残る傑作「エクソシスト」

5.05.0
映像
5.0
脚本
5.0
キャスト
5.0
音楽
5.0
演出
5.0

この映画「エクソシスト」の製作、原作、脚色は、ウィリアム・ピーター・ブラッティで、彼は、それまでにも「暗闇でドッキリ」とか「地上最大の脱出作戦」等、数多くのコメディ映画の脚本を書いていますが、コメディと違ってこの「エクソシスト」が、果たして成功するのかどうか、全くわからなかったと彼は語っています。


彼の両親は、シリアとレバノンの生まれで、映画の冒頭に出てくる中東の廃墟の場面は、彼の出生とアメリカ情報局勤務当時の、その地での記憶と深く関わりがあると言われていますが、映画の本筋からは少しそれた感じを受けました。

それより、むしろ、この映画の実質的な、本当の意味での主役ともいえる、ギリシャ移民の子であるカラス神父(ジェーソン・ミラー)の、アメリカ社会から疎外されたような孤独な姿の中に、ウィリアム・ピーター・ブラッティの生い立ち、人間像、系譜といったものが生かされているような気がします。

この映画が、初めて公開された当時の日本では、ユリ・ゲラーの"スプーン曲げ"がもてはやされ、超能力やオカルト現象がブームを巻き起こしていました。
科学万能やエレクトロニクス革命の時代への反動のように、超常現象への関心が異常な程、高まっていました。

この事が「エクソシスト」を頂点とする、いわゆる"オカルト映画"のブームとなって現れたことは間違いありませんが、それは単に表層的なオカルト映画や見世物の恐怖ではなく、神と悪魔の存在を信じる欧米人にとっては、「エクソシスト」を始めとする一連のオカルト物は、彼らの心に奥深く突き刺さり、恐怖と戦慄を呼び起こしたのではないかと思います。

この映画のストーリーは、1949年のメリーランド州のある町で、14歳の少年の身に実際に起こった事件が元になったという事で、この少年は、3カ月に渡って悪霊に苦しみましたが、カトリックの"悪魔祓い師"(エクソシスト)によって解放されたそうです。

しかし、本当にこのような事実があったのかどうか、そして、カトリックの秘法によって人間の心が救われるのかどうか----我々、現代人にとってはなかなか信じ難い事です。

ましてや、キリスト教の歴史や背景や教義について、ほとんど知らない我々日本人にとっては、この映画の宗教的な本当の深さは、到底、わかりようがない気がします。

映画「エクソシスト」で描かれる、悪魔に取り憑かれた12歳の少女リーガン(リンダ・ブレア)の異常でおぞましい振る舞いは、むしろ滑稽でもあり、生理的な嫌悪感しか感じさせません。

悪魔の所業を示す音響効果や特撮も、反対にその実在感というものを希薄にしているような気がします。

むしろ、病院で再三再四繰り返される、脳や脊髄の近代的な医学検査の残酷さこそショッキングであり、また、カラス神父が自分の老母を貧窮の中に死なせる、ニューヨークの精神老人病棟の悲惨な状況の中にこそ、現代の悪霊そのものの姿を感じてしまいます。

カラス神父の、神に一生を捧げたばかりに、精神病の医者の資格を持ちながら、愛する母親を生ける屍のように放置しなければならなかった苦しみは、少女の悪霊に白髪の老母の姿を見て、その声を聞き間違う程に深いものがあったのだと思います。

そして、少女に巣食った悪霊を自らの心に受け入れて、身を捨てるカラス神父の壮絶な最期は、"現代において失われてしまった悔恨と贖罪の念"を我々観る者の一人ひとりの魂の奥底に突き付けてきます。

この「エクソシスト」は当時、評判になったような少女リーガンの異常で、怪奇的なオカルトタッチの姿にその興味を持つのではなく、悪魔祓い師(エクソシスト)の"カラス神父の絶望の淵に深く沈みこんだ心"にこそ、焦点をおいて観るべきなのだと強く思います。

半ば壊れかかったアパートで、一人ラジオを聴き、病院のベッドで顔をそむけ、そして、地下鉄の入り口に幻のように現れる老母の姿は、カラス神父にとっては、少女リーガンに取り憑いた悪霊そのものです。

そして、この悔恨の悪霊は、乱れた男女関係その他、諸々の人間関係から生まれた、この世の邪悪と共に、この純粋で無垢な少女の身を借りて、醜い悪魔となって、この世に現われて来たような気がします。

そして、メリン神父(マックス・フォン・シドー)とカラス神父の二人の死というものを代償にして、やっと追い祓われる悪魔は、実は"現代社会の中で、人それぞれに歪められてしまった心そのもの"である事を暗示的に示しているのだと思います。

原作、脚色のウィリアム・ピーター・ブラッティと監督のウィリアム・フリードキンの、この映画に情熱をかけた真の狙いもそこにあったのだと思います。

なお、この映画は1973年度の第46回アカデミー賞の最優秀脚色賞、最優秀音響賞を受賞し、同年の第31回ゴールデン・グローブ賞の最優秀作品賞(ドラマ部門)、最優秀監督賞(ウィリアム・フリードキン)、最優秀脚本賞(ウィリアム・ピーター・ブラッティ)、最優秀助演女優賞(リンダ・ブレア)をそれぞれ受賞しています。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

他のレビュアーの感想・評価

ホラー映画の傑作【エクソシスト】

ホラー映画の傑作といえばこの作品が一番だと思います。公開当時【サブリミナル効果】がアメリカで流行していて、この映画にもいくつかのシーンに使用されていたのは有名ですね。ポスターの写真はマグリットの絵画からインスパイアされたと言われていますが、これもまた芸術性を高めていて素晴らしいと感じました。この映画は「母親と子の愛」を表現したかったのではないかと、淀川長治さんがむかし日曜洋画劇場でコメントされていたのを思い出しました。私もなるほどと思いました。リーガンとカラス神父の二人それぞれの母親との関係が描かれていましたが、それがこの映画の重要なところなのでしょうね。この映画が公開された1970年代アメリカでは離婚率が上昇し、子供たちにも少なからずいろいろな問題があったと聞きました。悪魔祓いなどの恐ろしいシーンもありましたが、最後にはリーガンは以前の子供らしい表情に戻り、穏やかな結末をむかえほっとさせ...この感想を読む

5.05.0
  • ありすありす
  • 143view
  • 515文字

オカルト・シュッキング映画の代表作、「エクソシスト」

オカルト・シュッキング映画の代表作、「エクソシスト」可愛いくて可憐な少女が悪魔に摂り付かれ、本物の悪魔の形相になっていしまい、観客のドキモを抜く。 この悪魔にとり憑かれた少女・リーガン役を演じたのがリンダ・ブレアで、新人少女ながらこの映画で助演女優賞を受賞している。数年後、月曜ロードショーか何かで、リンダ・ブレアが主演する映画と云うことで、拝見したが、セクシー女優に変身していたのには驚いた記憶がある。「少女が悪霊に取り憑かれたと知った神父が、悪魔払いの儀式を決意し、そして二人の神父と共に少女リーガンから悪霊を追い払うための壮絶な戦いに挑むことになる。少女の声は如何にも悪魔が発する邪悪な響きを帯び、形相も怪奇なものに変身、荒々しい言動は日を追って激しくなり、ついに悪魔はリーガンに十字架で自慰行為までさせる。」この映画の余りに生々しい映像に、当初アメリカでは17歳未満は保護者同伴、イギリスで...この感想を読む

4.54.5
  • orimasaorimasa
  • 153view
  • 527文字

感想をもっと見る(5件)

関連するタグ

エクソシストが好きな人におすすめの映画

ページの先頭へ