近現代史上で実際に起きた事件を背景に、謎解きや冒険小説のプロットを展開した「五十万年の死角」
伴野朗の第22回江戸川乱歩賞受賞作の歴史ミステリ「五十万年の死角」が、すこぶる面白い。
昭和16年12月8日午前6時、日本の海軍航空部隊が、真珠湾を攻撃。太平洋戦争の幕が切って落とされた、ちょうどその頃、日本軍が北京の医科大学を急襲する。
北京原人の化石を接収しようとしたが、保存されているはずの金庫から、化石は跡形もなく消えてい
た。
同じ頃、天安門広場で一人の日本人の射殺死体が発見された。そして、被害者の側には、北京原人の頭蓋骨のレプリカが転がっていた。
日本軍特務機関、中国共産党組織、国民党秘密結社などが暗躍する中、徒手空拳で調査を進める軍属通訳の主人公の活躍を描いたこの小説は、江戸川乱歩賞を受賞した冒険小説の先駆的な作品だが、冒険小説的プロットがミスディレクションになっている、プロット型本格ミステリとしても、十二分に楽しめる。
天安門広場で殺されていた人物の背景を調べると、意外な人間関係が明らかとなり、それを基に推理を重ねて犯人を突き止める展開は、フーダニット趣味にあふれている。
トリックの面では、お馴染みの言葉の解釈をめぐる暗号趣味が、すでに見られるのも嬉しい。
また、化石のレプリカをめぐって二重三重の欺瞞が仕掛けられており、最後に明らかになる隠し場所も、ちょっと気が利いている。
歴史上の人物が意外な登場の仕方をするという、歴史ミステリならではの楽しみも味あわせてくれる秀作だと思います。
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