プレゼント
目次
私が 今までの人生の中で、もらったプレゼントは、なんだろう。
「名前」「濃い赤色のランドセル」「駄々をこねて買ってもらったリュック」「遠足に持っていくお菓子が 可愛いやつがよくて やっと見つけたピンキー」「cmで ああ可愛いなあって ずっと思ってた コンバース」「可愛いっていう言葉」「仕事仲間のおばあちゃんが買ってくれた缶ジュース」「初めての ぎゅー」「初めてのキス」「好きな人と学校から一緒に帰ること」「初めて 好きな人と手を繋ぐこと」「親に聞こえないように、夜中 布団をかぶりながら 好きな人と電話をしたこと」
こんなにも じんわりと温かいものを 私は、もらったんだ。
SEKAI NO OWARIさんの 「プレゼント」という曲がある。
その曲の 「何十年か好きに生きていい特別なプレゼント」という歌詞を思い出した。
家族、友だち、今まで 関わって生きてきたのに急に 嫌になることがある。だけど、私 家族にも、友だちにも、たくさんのプレゼントをもらったなあ って 。いっぱい笑った時も、意見がぶつかった時も、あった。きっと、これからも、たくさん喧嘩することも、やっぱり 一緒にいると落ち着くなあって感じることも、あると思う。でも、それでいいよね。分かり合えなくてもいいんだって。
私は、あなたが 涙を流した時、ああ綺麗だなあって思った。美しいなあ。温かいなあって。
体温がある。触れると、その熱が伝わる。
ときどき忘れてしまう。体温があるということ、血が流れていること、生きている ということ。
角田光代さんは、幸せに生きてきたから、このような優しい言葉が書けるのかなって、ひねくれたことを思っていたけれど、読んでいくうちに、私が もらったプレゼントを思い出して、ああ 私 幸せに生きてきたんだなあと思った。
忘れていたことを 1つ1つ丁寧に思い出してみる。
私のみる世界は、いつのまにか 勝負だけの世界になっていて、それは それで 楽しい。
だけど、『Presents』を読んで、急に あなたに 会いたくなった。理由なく 会いたくなった。きっと 会っても、明日の仕事に役立つことは 何にもないけど、あなたに会いたい。ただ 一緒に映画を観て、美味しいご飯を食べて、「また、遊ぼうね」って バイバイしたい。
『アルケミスト』という本の中で、年老いた王様が語ってくれた物語がある。
賢者は注意深く、少年がなぜ来たか説明するのを聞いていたが、今、幸福の秘密を説明する時間はないと、彼に言った。そして、少年に、宮殿をあちこち見てまわり、二時間したら戻ってくるようにと言った。
『その間、君にしてもらいたいことがある』と、二滴の油が入ったティー・スプーンを少年に渡しながら、賢者は言った。
『歩きまわる間、このスプーンの油をこぼさないように持っていなさい』
少年は宮殿の階段を登ったりおりたりし始めたが、いつも目はスプーンに釘づけだった。二時間後、彼は賢者のいる場所に戻ってきた。
『さて、わしの食堂の壁に掛けてあったペルシャ製のつづれにしきを見たかね。庭師のかしらが十年かけて作った庭園を見たかね。わしの図書館にあった美しい羊皮紙に気がついたかね?』と賢者がたずねた。
少年は当惑して、『実は何も見ませんでした』と告白した。彼のたった一つの関心ごとは、賢者が彼に託した油をこぼさないようにすることだった。
『では戻って、わしの世界のすばらしさを見てくるがよい。その家を知らずに、彼を信用してはならない』と賢者は言った。
少年はほっとして、スプーンを持って、宮殿を探索しに戻った。今度は、天井や壁にかざられたすべての芸術品を鑑賞した。庭園、まわりの山々、花の美しさを見て、その趣味の良さも味わった。賢者のところへ戻ると、彼は自分の見たことをくわしく話した。
『しかし、わしがおまえにあずけた油はどこにあるのかね?』と賢者が聞いた。
少年が持っていたスプーンを見ると、油はどこかへ消えてなくなっていた。
『では、たった一つだけ教えてあげよう』と世界で一番賢いその男は言った。『幸福の秘密とは、世界のすべてのすばらしさを味わい、しかもスプーンの油のことを忘れないことだよ』
解釈は、人の数だけある。
私は、このスプーンの油は、家族や友だち のことだと思う。
スプーンの油は、目を離すと いつのまにか なくなってしまう。だけど、スプーンの油だけを見ていたら、世界を見ることができない。
スプーン油は、危うい んだ。
家族や 友だち も 危うい んだ。
ずっと 一緒にいたら、大切なこと、目に見えないこと 忘れちゃう。
勝負の世界だけに生きていたら、友だちは 必要ないね。だって、友だちは 何の役にも立たないんだもの。
世界を見ながら スプーンの油を忘れないのは、
とても むつかしい。だけど、私も それは 幸福の秘密だと思う。
二つの本が結びついた。『presents』も、スプーンの油の1つ。
角田光代さんと、松尾たいこさんがくれたプレゼント。今、私の心は じんわりと温かい。母のお腹の中にいるときのことは、覚えていないけど、母のお腹の中にいるときみたいに 温かい。
温かい 水の中。ぷかぷか。
明日から、また仕事がある。
負けられない ことは、もちろんたくさんある。
だけど、スプーンの油のことは忘れない。
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