どの作品から読んでも楽しめる海堂尊作品 - スリジエセンター1991の感想

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スリジエセンター1991

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どの作品から読んでも楽しめる海堂尊作品

5.05.0
文章力
5.0
ストーリー
5.0
キャラクター
5.0
設定
5.0
演出
4.0

目次

どのシリーズから読んでも楽しめる

「ブラックペアン1988」「ブレイズメス1990」「スリジエセンター1991」のシリーズですね。海堂尊さんの作品では様々なシリーズで共通の登場人物が出てきますね。そのシリーズを未読でもどの作品も楽しめるのが本当にすごいと思いますし、その他作品を読んでいればその作品を何倍も楽しめるという点が海堂尊さん作品の楽しみと言えるような気がします。このシリーズの世良は極北クレイマーや極北ラプソディでかなり成長した姿で登場しますし、スリジエセンターでは新入医局員として登場する速水晃一は言わずと知れたジェネラル・ルージュの凱旋の速水晃一ですよね。この作品内に出てきた、「彼(速水晃一)は主役にしかなれない男なんです」というセリフは、他の作品も読んでいて速水晃一のキャラクターを知っているだけに鳥肌が立ちました。

挙げだすとキリがありませんが、このように、この時点での話があの作品のこの場面につながっているのか、ということや、あの登場人物はここでこのような形で登場するのか、というような発見がたくさんありとても面白いです。本来はこのシリーズを読んでから「極北クレイマー」「極北ラプソディ」のシリーズを読んだほうがいいらしいのですが私は逆の順番で読んでしまいました。しかし個人的にはその順番のほうが楽しめた気がします。もっと正確にいうと「ブラックペアン」→「ブレイズメス」→極北シリーズ→「スリジエセンター」というおかしな順番で読んでしまったのですが、この順番で読むことで、極北シリーズで地域医療の再建屋として急成長して登場する世良先生に感動し、その極北シリーズで世良先生と速水先生とのやりとりなどを見た後にスリジエセンターを読むと、極北シリーズを思い出しながら読むことができたのでとても楽しかったです。このようにおかしな順番で読んでしまっても楽しめる海堂尊作品、素晴らしいですね。 

世良と天城の信頼関係

「スリジエセンター1990」は「ブレイズメス1990」の続きのような印象がありました。ブレイズメスで世良が連れて帰ってきた天城雪彦のスリジエセンター創設までの道のりが描かれていましたね。「スリジエ」で出てきた村雨秘書やウエスギ・モーターズの会長はブレイズメスの第9章で出てきましたしここで公開手術のことも触れられていましたもんね。

また、今回の作品では天城がとても世良を頼りにしているというか好意的に見ているという点が印象的でした。好き勝手に振り回している印象だったのですが、公開手術に帯同できなかった世良をつい呼んでしまうところとか手術後、愛称である「ジュノ」と呼んでいるところなど印象的でしたね。読み返してみると「ブレイズメス」でも「何しろ私の味方は、今の東城大にはジュノしかいないんだから」というセリフがあったのを思い出しました。この時には2人の間にはきちんとした信頼関係が築かれていたのですね。

最後に天城雪彦を追い出したことを理由に退職届を高階講師に提出する場面では、そんなに天城のことを信頼しいていたのか、と意外が気持ちでした。少なくとも振り回されているけど嫌いじゃない、くらいの感情だと思っていました。それだけに天城が亡くなってしまったと知った後の話は涙なくしては読めませんでしたね。世良が天城をどれだけ信頼していたかもわかりましたし、天城が世良をどれだけ大事に思っているかもわかりましたね。 

天才は理解されにくい

天城の人物描写で「まごうことなき手術の天才。触れたくもない忌まわしい存在。」という部分がありましたが、天才は受け入れられにくいことをひしひしと感じましたね。読んでいて読者としても「なぜこんなに邪魔をするのか?」と疑問に思うほど天城の夢の実現には邪魔者が出現しますよね。

最後に「私は日本では愛されなかった。ささいなことに反発され、刃を向けられ、足を引っ張られる。患者を治すために、力を発揮できる場所を整えようとしただけなのに関係ない連中が罵り、謗り、私を引きずりおろそうとする」という部分を読んでかなり悲しい気持ちになりましたね。変化を好む日本人に、このような奇抜な発想と能力を持った天才は受け入れられにくいですよね。確かにやることは天真爛漫、唯我独尊な印象のある天城ですが確かに今までの言動を考えれば考えるほど「患者を救う」ということを最終ゴールに置いたものだったということが感じられました。

バチスタシリーズなどでは好印象だった高階講師ですが、この作品では本当に悪役でしたよね。天城の邪魔をするために権謀術数を尽くす姿には本当に嫌悪感がありました。好きなキャラクターだっただけに少し残念です。世良が高階講師に辞職願を提出する場面は気持ちよかったですね。

次回極北シリーズで世良を見るタイミングではすでに地域医療の再建屋として成長した世良の姿だったので、個人的には天城がいなくなってしまった悲しみから立ち直った世良がどのような形で成長していったのかその過程が描かれた作品も読んでみたいと思いました。

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