華麗なる伯爵の最期 - ゴッドチャイルドの感想

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ゴッドチャイルド

4.934.93
画力
4.83
ストーリー
4.77
キャラクター
5.00
設定
4.83
演出
4.70
感想数
3
読んだ人
6

華麗なる伯爵の最期

5.05.0
画力
4.5
ストーリー
4.5
キャラクター
5.0
設定
4.5
演出
4.5

目次

ゴシックロリータ的世界観

由貴香織里が得意とするエッセンスをふんだんに詰め込んだ、伯爵カインシリーズ。本作はシリーズ最後の物語だ。『ゴッドチャイルド』が以前の物語と違う点は、思い切りゴスロリ趣味に振りきれたことと、オカルト要素が濃くなったことだろう。伯爵カインシリーズの古い作品では、ドレスはフリフリでありつつもまだどこかイギリス風の古めかしいデザインであったが、今作ではいわゆるゴシックロリータファッションになっている。これが連載されていた当時、まさに世はゴスロリ全盛期。この漫画の連載は2001年に始まり、嶽本野ばら著『下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん』が発売されたのが2002年のことだった。ゴスロリ&パンクファッションムック『KERAマニアックス』に由貴香織里のインタビューが掲載されたこともあり、ゴスロリファッション好きな女の子からの支持が集まったのだろうと推測される。マリーウェザーは白ロリ風、ミケイラはゴシック風の衣装を着ていることが多く、また二人はいわゆる“ロリータ”にあたる年齢であるため、余計にゴスロリ要素が目立った。第一話の殺人事件は不思議の国のアリスをモチーフにしており、少女趣味(「アリス」は少女の記号である)と血なまぐさい事件がうまく融合し、独特の世界観が構築されている。第二話では大量の人形が登場し、これらもゴスロリ趣味の人々に好まれる要素であるが、作者自身は人形が苦手だということなので、明らかに読者サービスであろう。余談だが、舞台となっている時代の十九世紀後半のイギリスに、球体関節人形は存在しなかった。

リフの裏切り

シリーズの初期から登場していた執事のリフ。まさか彼が最大の裏切り者だったとは! カインの理解者であり、カインが絶対の信頼を置いていたリフの真実を知った時、読者とカインは同じくらいの衝撃を受けたに違いない。表の人格のリフと、本来の人格のリフが全くの別人格とはいえ、長々と続けてきたシリーズのメインキャラクターが最後に正体を現すというのは、「してやられた!」という感じである。もちろん一番悪いのは、裏で手を引いていたアレクシスであるが。リフの元婚約者がリフを殺そうとするエピソードの際は、「なんだ、元婚約者の勘違いか」くらいにしか思わず、スルーしていたが、まさかの伏線だったとは。ずっとカインを騙し続けてきたアレクシス、そして読者を騙し続けてきた由貴先生。アレクシスがカインに向けて笑ったように、由貴先生も笑っていたのだろうか……。

名前のない関係

リフの本来の人格が消え去り、カインのよく知るリフの人格に戻った。再会を喜ぶ二人だったが、二人は塔から逃げる途中で、とうとう力尽きてしまう。ハーグリーヴズ家の人々の知らない所で、クレハドールだけが二人の最期を見ていた。クレハドールは二人の姿を見て「愛ではない」とハッキリ言っている。忠誠や信頼、色んな名前のついた関係は沢山あるけれど、この二人の関係には名前がないのだと思う。ただの愛だと言い切ってしまうのは、あまりにも安っぽい。ただの信頼では、あのような最期にはならないだろう。このシーンを読んでから、何とかあの二人の関係に名前を付けてみようと試みてみたが、結局何も思い浮かばなかった。少なくとも日本語には、しっくりくる単語がないのだろう。あまりにも美しい彼らの最期が、読んでから何年も経つのに、まぶたの裏から消え去らない。彼らが本当にあのまま息絶えていたのか、それすらもはっきりとは描かれていない。どこかで実は生きているのではないか……と、ほんの少しだけ期待してしまうのだ。

血が繋がっていなくとも愛せる

かつてカインは、「血が繋がっていないと愛せない」と言っていた。それはおそらく、両親の姉弟相姦が原因の異常なのであろう。溺愛している妹のマリーウェザーも、血が繋がっている妹だからこそ愛しているのだろうと思われていた。ところが物語のラストで、マリーウェザーとカインは全く血が繋がっていなかったこと、そしてそのことをカインもニールも知っていたことが明かされる。「毒の伯爵」と呼ばれ、残酷なことを平気でやり、妖しい魅力を振りまいて、短い生涯を閉じた伯爵カイン。彼は血の繋がらない者を悪から守り抜き、愛を抱いたまま死んでいった。それは彼にとっては、ある意味で幸せなことだったのではないだろうか。マリーウェザー本人がそのことを知らないままだというのも、彼女にとって優しい展開である。この物語で、最終的に一番幸せになったのはマリーウェザーであろう。大人になったマリーウェザーは、クレハドールが用意したお茶会のテーブルと指輪を見て、兄カインの生存を確信したようだった。真実は重要ではない。クレハドールは、彼女にとって幸せな、優しい嘘をついたのだ。そして霊媒師のクレハドールにお茶会の準備を頼んだのは、美しく散った後のカインである。

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マザーグースを知ったきっかけの作品です。

ワガママおぼっちゃまの美しいお話です。とにかく絵が怪しくてきれいです!19世紀後半、ヴィクトリア時代のイギリスを舞台に、主人公のワガママおぼっちゃまカイン、彼の忠実なる執事であるリフ、カインの異母妹マリーウェザーを中心に、童話やマザーグースをベースにした物語が展開していきます。カインは貴婦人たちがため息をつくほどの美少年、彼の信頼する執事、リフとの距離感がまたたまりません!マリーウェザーはとにかく可愛らしくて、カインが溺愛してしまうのも納得できます。一つひとつの物語が魅力的です。カインの周りではいつも怪しげで美しい事件が溢れています。カインは父親に虐げられていた悲しい過去を持っていますが、リフやマリーウェザー、マリーウェザーに求婚しに足しげく訪ねてくるオスカーなど、温かい人々に囲まれながら暮らしています。自身の過去や、最大の脅威である父親と対峙し、ときには誘拐され、ときには大怪我をし、と...この感想を読む

4.84.8
  • めぐめぐみめぐめぐみ
  • 335view
  • 1070文字
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