毒の効いたゴスロリ風刺 - ゴシック&ロリータ幻想劇場の感想

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ゴシック&ロリータ幻想劇場

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毒の効いたゴスロリ風刺

3.53.5
文章力
4.0
ストーリー
4.0
キャラクター
3.0
設定
3.0
演出
5.0

目次

ゴスロリファッションの本質を体現

本作のテーマはゴシックロリータファッションであり、ゴシックといえば退廃や残酷、黒、といったキーワードがイメージされるもので、ロリータは空想、少女性やあどけなさ、白といったイメージが抱かれる。一見正反対に思えるそれらがファッションという体系において融合したものがゴスロリであり、本作はゴスロリファッション、ひいてはそれを好む者の心理が物語として表現されている。

それが最も分かりやすいのは『巻頭歌』。エリザベス・カラーなるものを身につけたゴスロリ少女たちが次々と射殺され、やがてあっさりと人類は絶滅するというストーリーはまさに荒唐無稽で、それはゴスロリファッションがいかに地に足の着いていないファッションか、というものを体現している。

この物語がハッピーエンドを迎えないのも、ゴシックロリータの雰囲気をとてもよく表していると思う。

古風でダークなデザイン、少女性にしがみつくような過剰なフリルやリボン。ロマンチックながらも先見性の徹底的に廃除されたそれは、確かに美しく破滅へと向かう姿がよく似合う。

あなたたちはそれが望みだったのでしょう?と、それを皮肉に実現させたのが『巻頭歌』なのだ。

他にも第3編である『妖精対弓道部』では理にかなうことのみを自分に言い聞かせるように肯定し、それを処世術としていた隠れゴスロリ愛好家の少女トン子が、最終的には理にかなわない欲望に従って、同じく理にかなわない行動をとるゴスロリ衣装の妖精とともに破滅するという結末を迎えたが、これはゴシックロリータの社会性や協調性(共存性)の欠如を暗喩しているのではないかと思う。

現に同エピソードで数少ない生き残りとなった美和子は、美人で性格がいいと描写されており、誰からも好かれる性質であったと見受けられる。彼女はトン子とは対比的に描かれている。

随所に描かれたゴシックロリータの心理

上記の『妖精対弓道部』ではゴスロリ愛好家とゴスロリ姿の妖精が『理屈のない衝動と欲望に従う者』として描かれており、これはすなわち、好きなファッションに身を包むことに好きという以上の理由はない、というゴシックロリータの心理を表している。

また第4編の『メリー・クリスマス 薔薇香』では病におかされた妻が若かりし青春時代のようにロリータ服に身を包んでおり、それは一種の現実逃避的な行動で、作中の登場人物は『青春時代を追体験したい』という動機であったが、ロリータファッションを好む女性には『いつまでも少女のようでありたい』という心理が共通して根底にあるということが物語を通して示唆されていると思う。

それぞれのファッションはそれぞれの生き方だという主張

言わずもがなゴスロリもロリータファッションも個性的な服装であり、同じ趣味を持つ者以外からは理解されにくいジャンルの服装なのだが、作者はそういった服装とそれを好む人たちに辛辣ながらも、その悲哀と葛藤を描き、また時として物語にささやかな救い与えることで、その個性的なファッションスタイル、そして生き方を認めている。

傍目には奇抜で浮き世離れした変人でも、そんな人たちだって大いに悩み、他人の言動に一喜一憂し、地味なファッションの人々と同じように、必死に個人の人生を生きているのだと、ゴスロリ少女たちの葛藤や悲哀といった描写を通して主張しているのだ。

孤独で夢見がちな彼女たちへの批判と肯定の両方が、本書には詰まっている。

本書に掲載されている物語たちの結末は美しい破滅に終わるものもあれば未来を感じさせるものもあるが、それでもどこか心残りの拭えないというか、ややビターテイストなものが多い。

そんな中、最終章にあたる『ぼくらのロマン飛行』では、物語の結末が明記されておらず、いつになく爽やかな空気感のまま、その後のハッピーエンドを信じる筆者のモノローグで物語は幕を閉じる。

本エピソードが表しているのは、混沌たるゴシックロリータの概念の中でも最も明るい性質である『夢のある』という要素だ。

ゴシックロリータの少女たちが心のどこかで信じ続けているであろう夢を、そしてそれを信じることを、筆者は最後に肯定している。

同時に、恋とは理屈ではなく激情である、とも語っている。これは言葉通りの恋愛的な意味だけでなく、若気の至り全般に対する言葉だと思われる。

派手で奇抜な服装に身を包むのも、言うなれば若気の至りである。

それは愚かで痛々しくて美しくて誇り高くて、でもそれでいいのだと、作者は最後にそう言っているのだ。

ロックバンドとしての活動経験のある作者だからこその、奇抜な者への理解の深さ、それ故の辛辣な分析と温かな受容が本書からは伝わってくる。

ゴシックロリータを愛するという若気の至りと、奇抜と知りながらもそれを着る勇気とを誇りと思え。

そんなメッセージを、作者は本書に散りばめられた物語を通して伝えたかったのではないだろうか。

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