歪み
目次
エンターテインメントとしての映画
『世界の中心で、愛をさけぶ』の行定勲さんが監督をされているということで、観たい気持ちになった。
原作は吉田修一さん。吉田修一さんの書籍を拝見したことはない。この作品を観た後、活字でも『パレード』を味わいたくなった。
『パレード』という作名から、イメージしたことはなく、パズルのような広告の不気味な印象に ひきつけられた。
小出恵介さん演じる杉本良介と、貫地谷しほりさん演じる大河内琴美が、作品全体を通して、観ている側を飽きさせない。前半の2人のやりとりが、物語の最後と、ギャップがあり、物語の最後を一層引き立てている。
近所で起こる事件との関係性が、最後の最後で明かされる。事件と、一緒に住んでいる5人がどう関わっているのか。そのことが頭の片隅に残ったままになるため、観ることを途中で止めることはできない。
映画がエンターテインメントであることを改めて感じた。例えばコメディ映画を観た後は、「観てよかった」と言える。しかし、この作品を見た後は、確かに観てよかったと思ったが、それとは、ニュアンスが違う。
ヘリの音と良介と琴美のやりとり
物語は、ヘリの音から始まる。冒頭にヘリの音が大きく聞こえるため、不気味さを感じる。
TVでの近所の事件のニュース。作品の雰囲気を感じ取った。
しかし、そのあとの良介と琴美のやりとりで、緊張が解ける。
違う物語になったかのように、微笑ましい雰囲気が流れ出す。
コンビニの帰り、隣の部屋から 野口良夫が出て来て、2人は急いで部屋の中に入る。
玄関のドアの内側での良介と琴美のリズム感がいいやりとり。観ていて楽しい。
シェアルームでの良介、琴美、未来、直輝
この場面を観て、1人1人の登場人物の役割は、周りとのやりとりの中で生まれるんだなと感じた。特に、良介の役割は観ている側が飽きさせないための刺激になっている。演技は、自然にお芝居をすることが大切だと思っていたが、良介と琴美をみると、画面でのキャラクターの役割をこなす事が大切だなと思った。
貴和子と良介
中村ゆりさん演じる松園貴和子に、魅了された。綺麗な女性で、いたずらっぽく、品がある。
ベットの上でのシーンで、良介の息づかいが中心にきこえるのは、演出だろう。良介の心情をあらわしている。
良介が貴和子に、自分の父の話をする。
『いいお父さんだね』(貴和子)貴和子の言い方が、柔らかくて優しくて心地いい。
『俺、親父に心の中で金沢の公務員の息子は確保しましたって』(良介)リズム感がよく、聴いていてほっこりする。
良介と琴美
物語全体を通して、良介と琴美のやりとりのシーンが、一定の時間の間隔を空けて配置されている。
良介と琴美が、ごはんを食べに行くシーン。やはり、面白い。
この2人のシーンが入ることで、前後の場面とギャップが生まれる。
「はー」と息の音が聞こえて来そう
良介が友達との電話で、後輩が死んだことを伝えられる。その後、琴美と話し、自分の部屋に戻る。その時の表情。力を抜いてベットに倒れこむ様子。このシーンがなんとも言えない。
琴美の、丸山くんが出て行った後の、ベットの上での表情。
この事が何を示しているのか。
ああ、この気持ち分かるなあとなった。
サトルは誰?のシーン
シェアルームで、良介、琴美、未来、直輝の4人はサトルは、一体誰なのかという話になる。
何か盗まれていないか、という事で、良介が500円貯金は無事だった〜と言うシーンは、もちろん面白い。
4人がそんなに慌てていないのが、気になる。
最後の最後のシーン
事件を起こしていたのは、直輝だと明かされる。物語の冒頭から使われている音楽、私には関係ないと俯瞰しているような音楽が使われていて、不気味である。
サトルに犯行現場を見られた直輝。車の中での2人。直輝の息が上がっている。藤原竜也さんの演技がやっと来たかとなった。圧巻である。
サトルに、みんな直輝さんがやってるって事 知ってるんじゃないのと言われる。
「え?」と、観ているこっちも絶句する。本当に、みんなが知っていたかどうかは分からない。そのことが、また恐怖感を生む。
部屋に戻るサトルと直輝。
4人は、旅行の話をしている。直輝が泣き崩れているときの、他の4人の表情。
「直輝も、行くよね?」と未来が言う。
この4人の表情は、なんなんだ。睨んでいるようにも見える。同調しないといけない。圧。
『パレード』
映画化されたものと、書籍は全くの別の作品になる。書籍では、この最後の最後の表情 等をどのように表現しているのかが気になった。
直輝が犯人だと知った時の衝撃が大きい。もう時間的に、犯人が明かされる時だろうと予想はしていたが、まさか、という気持ちである。直輝でなくても、誰が犯人でも、衝撃は大きかったとは思うが。
それくらいに、犯人を明かすまでの、シーンのやりとりが、自然なものだった。ごく普通の人たちという印象だった。
最後の最後の表情を見るまでは。
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