大人になった今観るべき映画の一つと思えた - レインメーカーの感想

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レインメーカー

4.004.00
映像
4.00
脚本
4.00
キャスト
4.00
音楽
4.00
演出
4.00
感想数
1
観た人
1

大人になった今観るべき映画の一つと思えた

4.04.0
映像
4.0
脚本
4.0
キャスト
4.0
音楽
4.0
演出
4.0

目次

大金を稼ぎ出す弁護士という意味

この映画は1998年公開されたあたりに見た記憶がある。当時はそれほど心動かされることもなく、さほど記憶にも残らなかった。記憶に残らなかった分、今回まるで初めて見たみたいに楽しめたのはラッキーだったとも言える。映画にも小説にも時々こんな時がある。観る側(読む側)のタイミングによっては、さほど評価が高くない時があるということだ。
今回観たこの映画は、ルーディの青いながらも誠実さが溢れているような好青年さ、DV夫に怯えながらも最後勇気を持って覚悟を決めたケリーの思いつめた表情など、多くの見所があり、どうして当時大してなにも思わずに観ることができたのか、自分でも不思議だった。
1998年といえば20年前だ。20年も経てば人の感じ方も成長するんだなと、しんみり思った映画だった。
「レインメーカー」とは、雨が降ってくるようにお金を稼ぎ出す弁護士と言う意味らしい。でもこの映画はそれだけでなく、そうもなれたのにその人生を選ばなかった青年の真摯な物語だと思った。

マット・デイモンの好演ぶりが光る

マット・デイモンといえば、有名な「ボーン・シリーズ」や「ディパーテッド」、「ヒア・アフター」といった、比較的新しい作品しか観ていなかった。それらがそれほど印象的でもなかったので、あえて彼が出ている映画を好んで観るというわけでもなかった。でも偶然、時期を前後してこの映画を観てみると、マット・デイモンを大いに見直す結果となってしまった。
マット・デイモンが演じるルーディは、苦労しながらロースクールに通う学生だ。なんとかうまくいって、悪弁護士と言われるストーンの元で働くことになったのだけど、ストーンは派手好きでまるでマフィアのような弁護士だった。圧倒されながらも働き始めたその矢先、ストーンは脱税疑惑で逮捕されてしまう。残されたルーディは先輩のデックと一緒に事務所を立ち上げ、手元の案件に取り掛かるのだけども、ここまでの展開がとてもスピーディで観るものを飽きさせなかった。
また、ルーディの経験がないゆえの必死さもよい。ストーンがいなくなってしまって、流されるまま法廷まで来てしまい、まごついているところなどは、微笑んでしまうくらいの初々しさだった。
他にも、世間知らずなところ、法廷のルールさえ緊張して頭から抜け落ちてしまっている凡ミスなど、まるで自分の息子を見るようでいちいち頬がゆるんでしまった。
ルーディの抱える案件の一つ、老婦人の遺書作成があるけれど、この老婦人もまるで孫を見るようにルーディを見る。ルーディはなにかそんな気持ちにさせられる青年だ。
初めて法廷に向かったときの心細げな顔、皆の不審者を見るような表情に戸惑う顔、そして拙い弁護。そういったものがすべてルーディを誠実に見せる。
そして、いつどこでも希望を失わず、逃げずにまっすぐ前を向いて生きようとする表情はきっとマット・デイモンがルーデイという役どころを完全に自分のものにしているからこそ演じられる表情に思えた。
もしこの映画でマット・デイモンを知ったら、もっと彼の作品を積極的に観たのかもしれない。

ダニー・デヴィートの存在感の強さ

勉強家で司法試験に受かったばかりのルーディは理想に燃え、エネルギーに満ち溢れているが、対して先輩であるデックはくたびれた中年で、経験豊富ではあるが司法試験にも受からず弁護士でさえない。だけど何より目の前のトラブルに臨機応変に機転が利き、知識ばかりが先に出てしまうルーディをうまく操縦している。こんな皮肉屋ながらも温かい性格がにじみ出ているデックを演じているのはダニー・デヴィートだ。「ツインズ」や「ローズ家の戦争」などコミカルな演技が印象的な彼だけど、今回の抑えた演技もまた彼らしいものだった。

クレア・デインズの控えめながらも強さを感じる演技

DVの夫に悩まされながらも希望を失わず、地道に生きていこうとするケリーをクレア・デインズが演じている。彼女を見るのは「ロミオ+ジュリエット」以来だ。あの水槽を挟んでディカプリオと見つめあう幻想的なシーンは、彼女の妖精のような愛らしさとあいまって記憶に残っている。意外にも、「ロミオ+ジュリエット」と「レインメーカー」は公開年が1年しか違わない。にもかかわらず、「ロミオ+ジュリエット」のときの透き通るような少女だった彼女はすっかり大人になっていた。
ケリーの夫は暴力的で、しかもバットを使う。バットでルーディとケリーに襲い掛かってきたあの場面はとてもショッキングで重々しく、長い間記憶に残りそうなくらいだった。でも正当防衛でルーディが夫をバットで殴ってしまったあと、隅で震えていたケリーは冷静さを取り戻しルーディを守るために、自分が夫にとどめをさす。ルーディには「家には来なかったことにして」と伝えて。この時のケリーの表情はどこか穏やかで、それでいて愛するものだけは守ろうと思う強い決意が感じられ、いい演技だと思った。

相手は悪徳保険会社と百戦錬磨の弁護士団

相手は膨大に資金がありながら、保険金を出し渋る悪徳保険会社だ。相手の弁護士からの盗聴など数々の妨害を受けながらも、ルーディは必死に、でもうまくこなしていく。ピンチになりながらも一つ一つクリアできていくところは、観ていて気持ちのよいところだった。
ルーディが初めて法廷に入った時、資格をとってから出直せとヒステリックにどなった裁判長はなにやら胡散臭いと思っていたけど、思いがけなく突然死してしまう。代わりに就任した裁判長は百戦錬磨の被告側弁護士よりもルーディに肩入れしているようで、これもまた小気味よいところだった。
ところで相手側弁護士が、ジョン・ヴォイドだったことも驚いた。アンジェリーナ・ジョリーの実父である。この人はこのようなエグゼクティブ感を出すのがとてもうまい。エリートで傲慢な弁護士がぴったりとはまっていた。

白血病の息子を持つ母親と父親の苦悩のリアルさ

低所得者向けの保険を、それこそコツコツと払い続けてきた結果支払い拒否され、挙句息子に最善の治療を受けさせることができなかった無念さを、この母親と父親の表情から痛いほど感じた。特に父親は現実から背を向けアルコールに溺れてしまっており、あまりよい父親には見えないのだが、その弱さこそがリアルで余計胸を締め付けられた。
法廷で証言する人が、「保険会社は支払い拒否をしても相手が訴えないだろうということに賭けた」と言った時の母親の、悲しみに圧倒されたあの表情は、かなり涙腺が緩んでしまった。
そういった両親の苦しみがあちこちから感じられて、それがこの映画のリアリティを引き上げているように思う。

完璧なラスト

最終弁論では、まるで芝居のような立ち居振る舞いのドラモンドに比べ、ルーディは目に涙を浮かべ、この場にはもう間に合わなかったドニー・レイのビデオを陪審員に見てもらう。これだけでもルーディの勝利は目に見えていたけど、結果は驚くべきものだった。現実的損害賠償金15万ドル、その上懲罰的損害賠償金5000万ドルという奇跡的な賠償金を勝ち得ることができたのだ。
この思いがけない金額を勝ち得た映画では、誰しもが「エリン・ブロコビッチ」を思いだすと思う。でもあれは和解金であって賠償金ではない。どちらもすっきりするラストだったのだけど、賠償金というところがすごいなと思ったところだ。
また新人弁護士の奇跡的な勝利でルーディは一気に有名になった。だけどその後大きな事務所を構えるわけでもなく、ルーディは弁護士を辞め、教える立場になるという決意をする。それがいつか自分もドラモンドになってしまうことを恐れ、いつまでも誠実に自分らしく静かに生きたいと言うルーディの決意だったのだ。そして正当防衛を示すことができたケリーと共に生きることも。
保険会社は倒産してしまい、結局お金は支払われることはなかった。だけどドニーの母親の、「一人の主婦があの会社をやっつけたのね」という満足げな表情が、勝利を変わりないものに感じさせてくれた。
この終わり方は、ルーディのルーディらしさが最後までぶれることなく、ルーディならそうするだろうなと納得できるよい終わり方だった。
個人的に映画は繰り返して観ることのできる映画が好きだ。そしてこの映画も、もう一回観たいと久しぶりに思えた映画だった。

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