賛否はあるが、戦時中の空戦の貴重な資料 - 大空のサムライの感想

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大空のサムライ

4.004.00
文章力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
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賛否はあるが、戦時中の空戦の貴重な資料

4.04.0
文章力
4.5
ストーリー
4.0
キャラクター
3.5
設定
4.0
演出
4.0

目次

こうも好き嫌いが分かれる戦争体験者の自叙伝も珍しい

坂井氏の大空のサムライは、近年永遠の0が映画化等でヒットした際に再注目された。永遠の0の著者百田氏が参考にした著書としても有名である。

初版は1972年と古いが、非常に読みやすい、若々しい印象の文体で古臭さを感じない。いわゆる第二次世界大戦中のエースパイロットの自叙伝なので、狂信的なファンもいるし、同時に物凄いアンチもいると知って驚いた。永遠の0は史実に基づくフィクションなので好みもあるだろうと思うが、一般的に自叙伝の様なものが批判されることは珍しい。

批判の原因は史実との若干の食い違いだったり、戦後の不祥事や、やや性格的には頑固一徹な著者とそりが合わぬ人たちとの間で見解の違いだったりがあったようだが、正直現代の私たちには何が真実なのかよくわからない。

文章や文学としての好き嫌いだけに焦点を当ててみると、次のようなことが言える。

坂井氏の自叙伝からは一切反戦の意志が感じられず、全体的に空戦の内容がメインであり、自身の活躍が物語の軸になっている。空戦の資料としては大変貴重なので、戦争を知らない世代が戦争を語る物語を作ろうと思った時に、坂井氏の著作を参考にしようと思う気持ちが非常にわかる本だと思う。

百田氏も戦後生まれのため、この本によって創作意欲を掻き立てられた一人なのではないだろうか。そういった人を引き付ける魅力はある本だと思う。

ただ、いわゆる反戦の気持ちだの、軍人として戦争をどう思っていたかなど、心情を・感情メインとする話ではないため、空戦やゼロ戦という戦闘機そのものに全く興味がない人には、受け入れにくいかもしれない。特に感情を読みたいと思う女性には、あまり興味をそそられないかもしれない。

搭乗員の手記の中でも、反戦や戦時中に多くの人を殺めたことを苦しみ続けることを訴えるような物とは訴えたいことの軸が全く違う本なので、どちらかというと航空史に興味がある人向けのわかりやすい資料と言えるかもしれない。

同じような自叙伝は他にもあった

昔、「よもやま物語シリーズ」という戦時中に軍人として活躍されていた方々の回想録の様な書籍があり、子供でも読みやすい構成で戦争のことを知るにはかなりの良書といえるシリーズがあった。

大空のサムライはこの「よもやま物語シリーズ」に非常に近く、さらに詳細に書かれた本であるという読後感を感じたが、よく見たら「よもやま物語シリーズ」と同じ出版社である光人社が出している書籍という点で共通点があった。

よもやま物語も、戦争は悲惨ですよという体裁の本ではなく、戦争中にもそれなりに青春があったのだという構成になっており、厳しい軍隊の訓練の中にも笑えるようなエピソードがあったことなどが豊富に紹介されている。言って見れば戦争の悲壮感のみにとどまらない、裏話的打ち明け話だ。これらのシリーズも、戦後世代が戦争を語るのに、資料とするには良い書籍、という印象がある。

発行は「よもやま物語シリーズ」の方が後であるため、大空のサムライのヒットから作られたシリーズなのだろうかという想像もしてしまう。

文章が非常に文学的

大空のサムライも、よもやま物語シリーズも、よくもまぁ当時の軍人たちは些末なエピソードを覚えているものだと感心するが、よもやま物語シリーズが文体に若干素人臭さを感じるのに対し、大空のサムライは表現一つにも非常に文学的である。

特に景色の背景描写などは、単に見えているものをつらつらと書いているわけではなく、擬人化をしたような手法での表現が多用されていて、非常に文章としては出来栄えがいい。もしかしたらゴーストライターの存在が疑われたのは、このあまりにも素人が描いたにしては出来過ぎた文章にあるのではないかと思う。しかし、内田康夫氏のように処女作からして天才的才能を発揮する人もいるし、この作品についてはかなり推敲をしているという著者の言い分が正しいとするなら、元々文才がある人だったのだろう。

仮に文章のプロが監修していたとしても、史実との少々の食い違いがあっても、当時を知る手段として興味深い作品であることには変わりないと感じる。

当時を生きる人の胆力

この本を通じ感じることは、当時の人にいかに胆力があったかという事である。あまり便利な物がなかった分体力があったのだろうし、やはり一番の違いは教育にあるのではないだろうか。

人は本能的に死ぬことを恐れる。自衛隊も、基本的には戦争を仕掛けて他国の人を攻撃し殺害するという事を目的としていない。そういう価値観の国に生まれた戦争を知らぬ世代に、仮に徴兵制度を復活させたところで、志願者などろくに集まらないだろう。しかしそれは、現代人が根性なしだというよりは、国のために命を懸ける教育を受けてないのだから仕方がない。

しかし、戦争を肯定し、自ら志願するような教育を受けていたとはいえ、壮絶な戦地での戦闘中の冷静な対応や、もうだめかと思っても生きることを諦めない底力というのは認めざるを得ない。(坂井氏の全盛期は、特攻の様な死んで当たり前のような作戦が肯定される以前であったため)

この作品を批判する人たちの言う通り、仮に若干の脚色があったにしても、坂井氏が優秀な成績で第38期操縦練習生を卒業したことやラバウルの戦闘を生き残ったことは事実であるので、驚異的な胆力があった人であることは真実であると思う。全く違う価値観を持った時代に生きた人の生きざまを知るのには良書である。

 

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