新感覚の女性漫画。
悪の水戸黄門さま的慎子さん。
聖千秋先生の大ファンで、先生の作品はずっと学生時代から読んでいますが、この漫画はいまだかつてないタイプの漫画でした。かなり性格が悪く、自分の事しか考えてなく、人に意地悪をするのが大好きで、復讐は徹底的にする悪魔のようなキャリアOL慎子さんですが、実は、これらのすべての彼女の行動、言動が人に結果的に人知れず幸せをもたらし、あちこちで問題が解決するという、水戸黄門様ような、でも、ワルヴァージョンのような、笑、何とも不思議なキャラクターを聖先生は誕生させました。主人公は妹の容子っぽいんですが、っぽいんですが、この慎子さんが強烈すぎて、影が薄い・・・と思いきや、ラストに向けてどんどんパワーアップしていったのは、やはりこの慎子さんのDNAが入ってるからでしょうか。(親子じゃないんですけど。笑。)よくTVドラマなんかで、昔は水戸黄門に始まり、一話完結でめでたし、めでたしな連続ドラマが結構ありますが、こういうドラマを見る爽快感とは違った意味も拍手喝采を、この漫画を一話読むごとにしてしまうのです。非常に面白い作品です。
カリスマ性と説得力の凄さ。
この主人公の慎子さん、これだけ”実は”性格が悪いんですが、全く憎めないのは、ほぼ「本当の事」を言ってるからなんですね。人が心の奥底にしまっていて、見ないようにしている事を指摘したり、心の中で思ってても口に出せないでいる事を、ずばっと言ってしまう。これって、本当は、どっちが正格悪いのかな・・・と読みながら考えてしまった部分です。思った事は口に出しちゃダメと言いますが、この漫画では、思った事を口に出したお陰で、事が良い方向に進んでいく・・・その何とも言えない爽快さは物語が進んでいけばいくほどどんどんハマっていきました。よくこれだけのお話をクリエイトできたな・・・と本当に感心するレベルの高い凄さの、日常の中で常に起こっている、事件とも言えない、事件を解決していく、人間のモラルの在り方なども問う、実は物凄く深い話なのです。間違っているようで、実は間違っていない。正しくないようで、実は正しい、これが慎子さんです。
慎子さんの名言の数々。
これがまた凄いです。私が最もガツン!と来た言葉は、
一流大学受かったことが偉いんじゃないんだよ。そこまでの努力が偉いって言ってんだよ
という部分でした。妹の容子が受験勉強中、愚痴ばっかり言って諦めようとしていた時に放った言葉です。そして、実際、いい大学出たって仕事のできないやつは一杯いるのだと。受験料もタダじゃない、無駄にするな。嫌なら止めろ、でも、最低なのは逃げるやつだ、等々、ふと、30年前の自分自身の受験を思い出しました・・・。親が一生懸命働いてくれたお金で受験して、果たして私は受験料を無駄にしなかったのだろうか・・・?と。漠然と、一流大学に受かった人は偉いんだと思ってましたが、そこまでのその人達の努力については意外と考えないですよね。考えなくて、羨ましい、あるいは妬ましいと思う。そんな世間一般に活を入れたような強烈な言葉でした。
努力とは・・・。
この慎子さんの言葉の裏には努力があるんですね、実は。何も寝そべっていて今の地位にいる訳じゃないという強烈な自負と自信は、努力の裏付けあってこそなのです。それゆえのカリスマ性であり、それゆえの発言力なんですね。マツコ・デラックスさんが人気があるのは、ちょっと、慎子さんと共通するところがあるかもしれません。あくまでただの毒舌では無いという事。毒舌だけの芸能人は沢山いますけど、そこと一線を引いてるカリスマ性は、その人の裏付けとなる色んな努力とかそういった事があるのではないかと思います。慎子さんは某省庁勤めのエリートですが、省庁の問題にマスコミが押しかけた時に、「人の何十倍も努力して今の仕事に就いているんだ」、そして「毎日朝方まで国の為に働いている」。その通りかもしれないな・・・と。糾弾するのって簡単ですよね。糾弾するだけは本当に簡単です。そういった事を考えたり、思い直したり、させてくれた内容の濃さは凄いです。完全にコメディタッチの中でこれだけの重みのある言葉が入っているのです。
容量良く生きていける人、生きるのがヘタな人。
慎子さんと容子さんの姉妹はこういうコントラストで描かれていますが、要領良く生きているように見える慎子さんは実は物凄く努力の人で、こうと決めたら、進路でも、就職でも、結婚でも、最大限の努力をし、諦めないで突き進む。反対に生きるのがヘタな容子は、まあ、世間一般の、自分自身もそうですが、一見可哀想に見えて、その実、何かというとすぐに諦めが入り、自己主張が無く流されてしまうタイプ。頭が悪いんだから、仕方無い。実際仕方無いんですけど、でも、自分が決してしてこなかった以上の努力をしてきた人から見たら、その”仕方無い”というのはただ逃げて来ただけという風にもとれるでしょうし、実際そうなんだな・・・とこの漫画を読んで深く思いました・・・。
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