モンティ大活躍のラブロマンスミステリー - 爆風の感想

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爆風

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文章力
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演出
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感想数
1
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1

モンティ大活躍のラブロマンスミステリー

3.03.0
文章力
3.5
ストーリー
3.0
キャラクター
3.0
設定
3.0
演出
2.5

目次

「顔のない狩人」に続く今回のストーリー

この「爆風」はイブ・ダンカンシリーズの第3作となる。イブ・ダンカンシリーズではあるが、今回の主人公は、前回「顔のない狩人」でローガンにいいように使われ怒り狂っていたサラだ。前回では怒りながらも仕事を全うし、ボニーの遺骨も発見することができた。その後サラは災害があれば生存者を見つけるためにモンティと世界を飛び回っていた。その災害の描写は毎回リアルで心が詰まる。爆発事故、土砂災害、地震…。様々な災害でわずかな生存者を見つけるために日々働く彼女の仕事は、そのまま実際の災害捜索隊の仕事の描写だということだ。生きている人を見つけることが出来ない日々がどれほど彼らを憔悴させるのか。それを想像することは簡単だけど実際書かれている文章を読みそれを頭で映像として思い浮かべると、胸が苦しくなってしまうほどだった。そしてそれがサラとモンティの日常だ。
「顔のない狩人」ではイブが見つけたいものに全力で協力していたけど、サラの本来の仕事の描写はなかった。モンティが優秀だということはわかったけれど、死と隣り合わせのような厳しさの描写はなかった。その詳しい描写は恐らくはアイリス・ジョハンセン自身が取材なりして手に入れたものなのだろう。そしてきっとこの文章を書くことはアイリス・ジョハンセン自身も疲労させたのではないか、そんな気がした。
この「顔のない狩人」はサラがトルコの地震で災害救助を行っている場面から始まる。必死で探すモンティが見つけたのはやはり死体だった。それも子どもの。ここではサラの疲れよりもモンティの傷つき方の描写に重きを置かれていたように思う。犬も傷つき立ち直れなくなってしまうのだということを読み手に思い出させるためだろうか。
モンティの優しさを実感しながら、物語はまた急展開を見せる。

ローガンの登場

前回の「顔のない狩人」では、ローガンはコンピュータ会社の大富豪というくらいの情報しか出てこなかったけれど、今回はローガンも主人公と同じくらい重要な役どころだ。ここではローガンの会社の全貌やローガンの過去も明らかになる。
サラが災害救助を行っている頃、ローガンの秘密研究所が何者かによって爆破された。何人かが死亡し、ローガンは怒りに燃えていた。また新たに別の研究所を狙われることがわかった上、犯人にも目星がついているからだ。
犯人はローガンの亡き妻チェン・リーの義理の兄だ。血がつながっているにもかかわらず妹に恋し、ローガンは妹を奪ったといまだに恨みに燃えている男だ。白血病で苦しんでいたチェン・リーを殺したのは自分自身にもかかわらず、ローガンを憎みぬいている男だ。刑務所から出てきて、復讐を図り始めたその一つがローガンの研究所の爆破だった。
ここにきてローガンの、自分のもっているものでも人でもそれらに対する所有欲というのか責任感というのか、そういったものの大きさを感じることができる。研究所の人々はローガンの家族であり、研究所はローガンの家のようなものだった。それを壊された彼の怒りはビジネスというものを通り越した強烈なものを感じる。
そして一番の研究者を拉致されたローガンは、その彼を捜してもらうのにサラとモンティを選んだ。
前回「顔のない狩人」でジェーンを捜しているときに見つけたモンティの言う“もう一人の子ども”はやはりボニーだった。ボニーの葬式で出会ったローガンにサラはこの依頼を申し出るが案の定撥ね付けられてしまう。前回ローガンが悪どい手を使ってサラを手伝わせたことを忘れていなかったからだ。あの怒りようを思い出すと確かに次の依頼をするのは時期尚早な気もしたけれど、ここはまた力技を繰り出す。そして今回の力技の魅力はサラには抗いようのないものだった。長年の念願だったからだ。
とはいえ、ローガンの力の及び具合は恐れ入る。恐らくは政財界やビジネス界でも若造と言われるであろう年代にもかかわらず、偽のパスポートを手に入れるのは当たり前、上院議員を脅し、傭兵を雇っている。なかなかの凄腕だ。こういうあたり若干できすぎなような気がしないでもないのだけど、ストーリーにスピード感があるのでその時はなにも思わないまま読んでしまった。

伏線とその回収の心地よさ

この物語は入り組んでいるように思わせて、とてもわかりやすい。それがストーリーに没頭させる理由の一つでもあると思う。また登場したものは必ず再登場して物語をカラフルにする。“チェーホフの銃”ではないけれど、そうでないと実に気になる。回収されない伏線ほど気になるものはないからだ。
今回トルコ地震の捜索で疲れ果てて家に戻ってきたサラとモンティは遠くでオオカミの遠吠えを聞いた。“きれい”とうっとりするモンティは、実際鉄の罠で傷ついたオオカミマギーに出会い恋をする。サラはオオカミに対しては野生動物以上の気持ちは抱いていないようだったけれど、面白いのは、マギーがモンティに心を開いていくのとサラがローガンに心を開いていくのがほとんど同時進行のように感じるところだ。サラとマギーはよく似ているのかもしれない。イブとジェーンがよく似ているように。
そのような伏線をきちんと回収してくれる気持ちよさは他にもある。あれほどなんでも言っていたバセットに対してローガンがサラが来ることを伝えていなかったこと。これも読んですぐに違和感を感じた。そしてしばらくしたあとバセットは内通者だったことがわかる。そして手際よくバセットを素手で殺したローガンも彼のまた違う顔を見た思いだった。

魅力あふれる傭兵ガレン


兵としての実力は一流ながらも料理も一流にこなし、軽いジョークまで繰り出せる彼はこの物語のよいスパイスになっている。この作品ではそれほど登場してくれなかったけれど、後の作品「そしてさよならを告げよう」では大活躍してくれている。
アイリス・ジョハンセンの作品では(もちろん彼女の作品に限ったわけではないけれど)、色々な作品の登場人物たちの性格がよく似ているものが少なくない。ガレンは「スワンの怒り」でタネクの牧場にいた強い女性にもよく似ている。またジェーンは同じく「スワンの怒り」のタニアに似ている。そのような登場人物たちは多いけれど、それでも読み手に飽きさせない魅力があるのが不思議だ。
個人的にガレンは、ジョーやローガンに負けない魅力がある。なんだったら向こう見ずで死を恐れないジョーよりもガレンのほうが好みだ。料理をうまくこなしユーモアがあるところも素晴らしい。サラがガレンに心を惹かれないのがいささか疑問に思うくらいだった。
今回初登場となるガレンはこの作品では物足りないくらいの登場回数だったので、今度もう一度「そしてさよならを告げよう」を読み返したいと思う。

サラとローガンの愛と絆

出会いは最悪だった二人だけど力を合わせ障害を排除していくうち、そしてローガンの過去を知るうちにサラはマギーのようにローガンに対してゆっくりと心を開いていく。そしてローガンへの愛を確認したのは、ローガンが爆死したのではないかと思った時の恐怖だった。これは「顔のない狩人」にも見られるため若干パターン化しているような気もしないではないけれど、それでもきっかけとしてはとても残酷なほどリアルなものだと思う。
映画「スピード」でサンドラ・ブロック演じるアニーが言う「極限状態で結ばれた男女は長続きしない」という名文句があるが(実際「スピード2」ではすでに破局していたが)、サラとローガンに関してはそれは当てはまらないような気がする。なぜならどちらも一般的には常に極限状態と言えるような精神で生活をしている中で見つけた愛情だからだ。
強引に情熱的にローガンに迫ったプロポーズは実にサラらしい。そしてオオカミは永遠に同じ相手とつがうという話もここで生きてくる。これは文句なしのいい終わり方だった。
アイリス・ジョハンセンの作品は時に砂糖菓子のように甘ったるい話があるけれど、今回の作品はラブロマンスも充実させながらもサスペンス的要素が大いに盛り込まれた、よい作品だと思う。

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