「自分らしく生きる」勇気をくれる小説
ありのままVS自意識の塊の母娘
かしこくかわいい小学5年生の娘・キクりんと、まん丸に太っていて明るい38歳母・肉子ちゃん。
正反対の母と娘。二人の会話や関係から見えてくるのは、「ありのままVS自意識」という、私たちにとっての理想と現実が、物語を通して表現されていると感じました。
誰しも、肉子ちゃんのように自分らしく生きたい」と思ったことがあるのではないでしょうか。肉子ちゃんはたくさんの過去があって、不細工で、ちょっぴりおバカだけど、底抜けに明るくて太陽みたいな人。肉子ちゃんのように生きることができたら、きっと楽しいですよね。
一方、キクりんは賢くて可愛いけれど、友人との会話や肉子ちゃんとの関係で、どこか息苦しさを感じている。現実ではキクりんのように、自意識でがんじがらめになって、息苦しくなることもありますよね。ちゃんとしなきゃ、迷惑をかけないようにしなきゃと、自分で自分を苦しめしまう悪循環。
キクりんと肉子ちゃんという正反対のキャラクターを中心に展開されるこの物語を通して、人間の「ありのままVS自意識」「理想VS現実」を、そのまんま問題提起されているように感じました。正解なんてないのに、私たちはなぜか「正しく」あろうとする。「ちゃんと」しようとする。そんな私たちへの、作家・西加奈子さんからの、私たちが自分自身で答えを見つけなければいけない「自分らしく生きるとはどういうことか」という、問いかけなのではないかと思います。
血がつながっていなくても、家族になれる
キクりんが盲腸で入院したときに、サッサンがかけたこの言葉がとても印象に残りました。キクりんは鋭いし頭がいいから、たくさんたくさん考えて、周りを見ながら行動している。それはとてもすごいことだけれど、とても苦しい生き方でもある。
「生きてる限りはな、迷惑かけるんがん、びびってちゃだめら。」この言葉はキクりんの核心をついていた。キクりんが自分の心を守るために頑丈な壁をつくっていることにも、ちゃんと気づいていたからこその発言だと思います。キクりんは我慢して我慢して、いろんなものを溜め込んでしまっていた。
キクりんの場合、肉子ちゃんには言いにくいですよね。肉子ちゃんがおバカで鈍いから言っても仕方ないという捉え方もできるけれど、それだけじゃないと思うのです。望まれていない子だと自分では思っていて、本当のお母さんじゃないこともわかっていて、でも肉子ちゃんが本当は大好きで、だからこそ、言えないこともある。
一見「良い子」であっても、本当は無理をしているだけで、迷惑をかけるのをびびっているということ。サッサンの立場からすれば、キクりんにもっと頼ってほしかったのかもしれません。同時に、「みんな、もっと人に寄りかかってもいいんだよ」「ひとりで頑張らなくていいんだよ」というメッセージなのかな、と思います。
サッサンは「血が繋がってねえからって、家族になれねわけじゃね」とも言っていて、これってサッサンとキクりんだけじゃなく、キクりんと肉子ちゃんにも当てはまる言葉で、とても心動かされました。血がすべてではない。共に生きていく人は、家族になれる。既存の概念に囚われがちな硬い頭に、サッサンの言葉が刺さりました。
あなたは、あなたでしかない
この物語のテーマは「生き方」だと思いました。
キクりんは賢くて可愛いけれど、いつも周りの目を気にして息苦しさを感じている。一方、肉子ちゃんは、好きなように語呂合わせをしたり、漢字の読み方の話をしたり、好きな時に好きなだけ食べて、好きなだけ泣いて、好きなだけ笑う。そんな肉子ちゃんの生き方に、自由さに、どうしようもなく憧れてしまう自分がいました。心の奥底にあるものを、引きずりだすような、そんなストーリー。
自意識が常に私たちに付きまとう。本当に肉子ちゃんのように生きることは難しい。大人は自由と言うけれど、自由なようで自由じゃない現実に、目を背けて生きている人もたくさんいるのではないでしょうか。子どものころから、キクりんのように、息苦しい中がんばって踏ん張って生きている人もいるのではないでしょうか。
かっこ悪いこと、恥ずかしいことを、隠しい気持ちもあることでしょう。だけど、それもまた、自分。肉子ちゃんのおばかで鈍感なところも、キクりんの自意識が強いところも、それも含めて、肉子ちゃんは肉子ちゃんで、キクりんはキクりんなのですよね。サッサンだって、何でもかんでも知っているわけじゃない。キクりんの本当のお母さんだって、心細さに耐えることができなかった。みんな何かしら抱えている。でもそれが、本来の姿ですよね。
みんな完璧な人なんていなくて、むしろ完璧じゃなくていい。未熟でも、未完成でもいい。それも含めてあなたはあなたなんだということを、認めてみたら楽になるよ、と言われているような気がしました。
SNSが盛んになり、皆が自分の良いところばかり見せようとする時代だからこそ、「あなたはあなたでしかない」ということを、優しく語りかけてくれているように感じました。
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