レイ・チャールズの人生の表と裏。 - Ray/レイの感想

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レイ・チャールズの人生の表と裏。

5.05.0
映像
5.0
脚本
5.0
キャスト
5.0
音楽
5.0
演出
5.0

目次

盲目の天才ソウルシンガー。

言わずと知れた、盲目の天才ソウルシンガーにしてピアニストの人生を描いた映画です。2004年、今から14年前の作品。私は1982年12月、故・R&Bシンガーでありギタリストの柳ジョージさんとレイ・チャールズのジョイント・コンサートを大阪で見た事があります。当時私は12歳。柳ジョージさん、そしてレイ・チャールズの大ファンでもあった母に連れられて行きました。その頃の私は、洋楽の登竜門としてビートルズにハマりだしたばかりの12歳の小学六年生です。母がよく家で古いレコードを聴いていたので、曲は知っていましたが、どれだけ凄い人なのかというのは全く理解しておらず、後に「私なんかが見て勿体なかった」、「もうちょっと大人になってから見たかった」などと思ったものです。しかし、そんな12歳の小学生でも、生のレイ・チャールズは凄かったです。全く気負ったところが無いのに、凄い迫力のパフォーマンスでした。こうして書いていると、36年前のコンサートのシーンが目前に容易に蘇る位です。当時、ピアノ歴7年だった私は、盲目dもこんなに弾けるの!?とただ、純粋に驚きもしました。盲目のシンガーソングライターというのは1930年代のブルースシンガーの時代から実に沢山存在します。古くはブラインド・ウィリー・ジョンソンからスティ―ビー・ワンダーまで。昔は特に盲目の黒人ミュージシャンが多かった理由は、差別から貧しい暮らしを強いられ、満足な栄養をとれず、劣悪な状況の住居に住み、病気になっても医者にかかる事ができなくて盲目となり、その上で収入を得る為の手段として音楽があった。この想像はこの映画でも単なる想像ではない事が充分分かります。

良い部分だけを見せて英雄化しなかった作品。

この映画で主演のレイ・チャールズを演じたジェイミー・フォックスはレイ・チャールズ本人が乗り移ったかのように見える位、ソックリでしたが、それ以上に、実際に歌っていたという歌がめちゃくちゃ上手くて、物凄く似ていて、あらゆる意味でレイ・チャールズが彼に降臨してきたかのような錯覚に映画を見ていてとらわれました。アカデミー主演男優賞を獲ったのも納得の演技、そして歌唱でした。本当に素晴らしかった。幼少期に兄を亡くしたいきさつ、ヘロイン中毒など、レイ・チャールズの表と裏、トラウマなどをしっかり描き、単に英雄化せず、異人化せず、天才シンガーの生身の部分や影の部分をしっかり見せる事で、手に汗握るような激動の、苦しいまでの生々しさを如何無く隅々まで表現していたと思います。ちなみにこの映画でヘロイン中毒だったレイ・チャールズを見ても、あのコンサートでの思い出は全く汚される事はありませんでした。昨今、日本では有名人の薬物中毒者の逮捕が相次ぎ、それは勿論犯罪なんですが、かと言って、それによって例えば、作られた音楽までが汚されたりする事は個人的にはありません。どんな人がどんな状態で作ったものでも、素晴らしいものは永遠に、時空を超えて素晴らしいのだと、私は思います。薬物中毒者を称賛している訳では決してありません。ただ、この映画を見た後は特に、歌の合間から彼の魂の叫びがさらに強く聞こえてくるように感じたものです。生身のレイ・チャールズの片鱗を感じる事ができました。

1940~50年代のアメリカ。

私が初めて黒人差別を知ったのは、これまた小学生の時に見たTVドラマシリーズ「ルーツ」でした。今あの番組を見た時の衝撃は一生忘れる事ができないでしょう。アフリカからアフリカ人を大量誘拐してきて、勝手に売買して、差別して、何の権利があってこんな事してるんだろう!?と・・・。その手引きをした、同胞を裏切ったアフリカ人もいた!なんて言われても、それが何?という感じですよね。このレイのバックグランドの時代の人種差別は凄かっただろうというのは想像でも分かります。第二期から三期に渡ってのKKK(Ku Klux Klan)が南部にははびこっていたでしょう。この映画でもその片鱗は描かれていますが、黒人がスポーツや音楽、ダンス、色んな事に長けているのは、アフリカからの奴隷輸送船で生き残り、過酷な奴隷労働に生き残りしてきた子孫だからじゃないだろうか?と私は思うのです。色んな才能を持ったスーパーヒューマンになったのは必然では無かったのか?と、この事もこの映画を見て強く思った事です。これだけの過酷な状況を生き抜いてきた人達は肉体的にも精神的にも非常に強い。そして、その苦しみからの魂の叫びは、勿論、それを表現する才能もありますが、世代を超えて、国を超えて、人種をも超えて、人々の心に深く突き刺さると思うのです。奴隷となったアフリカ人は過酷な労働の中でも歌う事によって自らを勇気づけていた。そんな魂がレイ・チャールズの音楽の根底に根付いていて、今も私達に訴えかけているように思います。

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