それぞれのルパンというテーマで集った作家たちの作品 - みんなの怪盗ルパンの感想

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みんなの怪盗ルパン

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それぞれのルパンというテーマで集った作家たちの作品

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文章力
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キャラクター
1.5
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演出
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目次

ルパンがテーマと言うこともあり

様々な作家をツマミ食い的に知るにはこのような企画が一番手っ取り早い。短編で無駄がないし、失敗してもそれほど痛手はない。しかも名前も知らなかった作家に思いがけず出会えることもあり、時々この手の本を手に取る。前回読んだ「クリスマス・ストーリーズ」も、それぞれの作家がそれぞれのクリスマスを描いた作品で、知らない作家のよい作品を知ることができた。今回もそのような出会いを期待して読んだのだけれど、少し物足りなかったのは否めない。そもそもテーマがルパンということで、どうしても子供向けのような印象の物語が多いのだ。子供の頃はもちろん夢中になった。怪盗ルパンや、名探偵ホームズ、少年探偵団などそういうものには子供を惹きつける罪の無いダークさがある。でも大人になってしまうとそれだけではどうしても物足りなく感じてしまった。もしかしたら純粋に今でもルパンのファンという人が読んだらもっと面白く感じたのかもしれない。

セリフで続くストーリー展開

個人的にカッコ書きのセリフが続く小説はあまり好きではない。それだけで何かしら子供っぽい感じもするし、またそれぞれの口調だけで誰が話しているかがわからないと、どっちがしゃべってるのかわからなくなるからだ。そして実際分からなくなることが多い。そうすると話の最初に戻って、最初にこの人が話したから次はこの人で、とやらなくてはならない。そうするうちに物語にのめりこんでいた気持ちがすっと冷めてしまう。今回の「みんなの怪盗ルパン」の一番最初に収められている「最初の角遂」はそのセリフが続く描写が多く、読む気持ちが続かなかった。その上ストーリー展開も小学校くらいが対象かと思われる感じで、いささか幼稚に感じられた。偽者の探偵きどりの老人が実はホームズが化けていたもので…というのは一見面白そうにも思うのだけど、その展開にあまり興味がもてず、もしかしたら衝撃的な大どんでん返しが待っていたのかもしれないけれど、ホームズであろうがマフィアの残党であろうがどっちでもいいやとなってしまった。セリフが連続するストーリー展開はなんとなく若い作家が多いような印象を持っていたのだけど、これを書いた小林泰三は1962年生まれというのはいささか意外だった。
この短編のタイトルは「最初の角遂」というのだけど、角遂という言葉を初めて聞いたので、その意味を知ることはできたのは良かったと思う。

ルパンらしいルパンの物語

近藤史恵の書いた「青い猫目石」はルパンのイメージどおりの作品だ。お金持ちのお屋敷にルパンからの手紙が届く。そこにはお屋敷に住む婦人が持つ宝石の中でも最も高価な「猫目石」を頂きにいきますという内容だ。これだけ見るといかにもルパン風で、少しワクワクした。
またお屋敷に住む美少女の恋している気弱な少年の画家という設定もどこかしら「大いなる遺産」を彷彿とさせる。気弱な少年とお金持ちの美少女が2人そろうだけでなにかしら芸術的な風情を感じさせる。また、お屋敷の美しさなどもよく描かれており、富豪の老婦人特有の美しいながらも気だるげな贅沢さが漂っていた。このあたりの印象は好みのところだ。
ただやはり展開はルパンに狙いのものは奪われながらも、それはお嬢様が画家の少年と結婚するための計画のうちだったというラストはなかなか大胆なものを感じさせられ、古めかしさの中の激しい美しさを感じたところだ。このハッピーエンドは独特の雰囲気があり、個人的には気に入っている。
そして古き良きフランスを大いに感じられた作品でもあった。

知らなかったルパンの少年時代

ルパンの少年時代など考えたこともなかった。稀代の怪盗であるから手先はもちろん器用だろう。それを目の当たりにした奇術師が彼ラウールを勧誘しようとする設定は少しありそうで、リアルだなと思った。しかしその設定はいいのだけれど、それ以外の設定の描写がいまいち足りないような気がした。ラウールの母親のために彼が送金している理由とか、その母親のために家を離れることができない絶対の理由とかがもう一つ薄い気がしたのだ。もっと笑顔の下に隠されている悲痛な理由のひとつくらいあってもよさそうなものなのに、イメージは終始お気楽な印象が残った。その悲しい話の一つくらいあってもいいのかもしれないと感じた。
またラウール自身の代わりにスリの天才少女をその奇術師に紹介するのだけど、それもなにか話がうまくいきすぎる感があって、どうにも話が頭に入ってこない話だった。
これを書いたのは藤野恵美と言う。著書に「怪盗ファントム&ダークネス」とあるので、怪盗ものは好きなのだと思う。もしかしたら好きすぎて、想像力が先走りすぎてこういう感じに仕上がってしまったのかもしれない。

唯一舞台が日本に戻った作品

ここに収められている作品の全てが舞台はフランスになっているのだけど、最後に収められている「仏蘭西紳士」だけは舞台が日本になっている。これは湊かなえの作品で、この「みんなの怪盗ルパン」の中に入っている話のなかでは唯一きちんと読めた作品だった。古い日本の時代背景ながらもモダンな富豪一家と偶然であった仏蘭西紳士がその一家の謎を見事に解決するのだけど、全体的なストーリー展開も隙がなく、また小さい伏線も張りながらそれをきちんと回収している。この短い話の中でここまで話しを膨らませて終わることのできる才能はすごいと感じた。
この深い謎を抱えている富豪一家の姉妹達の上品ながらも強いところや、ただ美しいだけでない芯の強さなどが、直接的な描写を用いずに感じさせるところもいい。直接的に書かれるよりも人は間接的に描かれるほうが自分の脳内でそれを想像するから、より美しく感じると思う。そう思わせてくれるストーリーだった。
また穏やかな老婦人の飼っている犬が意外に獰猛なところとか(犬種は出ていないけれど恐らくドーベルマンあたりだろうと推測する)が個人的に気に入っているところだ。
美千代がその時代の少女には珍しい“船で世界を旅してみたい”と瞳を輝かせながら語るところは、「ルパンシリーズ」や「名探偵ホームズ」といった冒険ものに引けをとらないワクワク感を感じさせてくれた。冒険や武勇伝を直接的に書くことだけが冒険ものではないということを感じさせてくれた作品だった。

ルパンというテーマから考えて思ったこと

やはり大人がルパンやホームズといった怪盗ものや探偵ものを読むには若干の無理があった。子供の頃にはあれほど夢中になれたものが今こう感じることは、そこまで大人にもなってないのになという不満もあるのだけれど、実際そう感じてしまったからしょうがない。だから湊かなえ以外の作品はほぼ全てがルパンの少年時代や青年時代をモチーフにしている分、どうしても興味がいかなかった。当然文章も頭に入ってこない。しかし湊かなえの作品だけは、テーマをルパンにしながらも直接ルパンには触れていないところが、ストーリーとして面白かったと思った。
もしかしたらルパンファンの人からすると湊かなえの作品だけはどこか異色に感じるのかもしれない。湊かなえの作品を探してたどり着いたこの作品だったけれど、湊かなえのよさだけを再確認しただけで残念ながらめぼしい作家には出会うことができなかった。
けれどルパンにも少年時代も青年時代もあったんだということに気づけたのは良かったのかもしれない。

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