今だったら普通だが
豪華すぎます
この『風と木の詩』が発売された時、私はまだ12歳でした。それから十年以上たってからもう一度見返したのですが、その時に気がついたのです。「監督が、安彦良和さんっ」と思わず声を上げてしまいました。安彦良和さんといえば、『機動戦士ガンダム』が有名です。その彼がこんな耽美的なアニメを作るなんて信じられませんでした。更に、絵コンテまで描いていたなんて驚きの連続です。安彦さんが監督をしていたと知ってからは、なんだかちょっと作品自体が変わって見えるから不思議です。更に原作が竹宮恵子さんというのも、実は後から知った事だったのです。当時の私は、まだアニメーションにも監督が居るとか、誰が原作を描いて居るかなんて全く知りませんでした。ただ愛読していたアニメ雑誌をパラパラめくり、気に入った作品があれば見てみるという程度だったのです。「何でもっと早く気がつかなかったのだろう」と後悔しました。
当時はこれが限界
このOVAが発売された1987年より5年も前にこのマンガの原作が始まりました。今だったらこの手の内容に驚かれる方は居ないと思うのですが、この時代ではかなりショッキングな内容でした。12歳だった私にとっても、信じられない内容でした。「え?ジルベールって男の子だよね?何で男の子同士でキスしてるの?」という感じでした。寄宿舎という響きも、何となく耽美的に聞こえてしまい、ましてや出てくる男の子の殆どがジルベールに夢中という、少女マンガではあり得ない展開に驚き続けました。特に、ジルベールが上級生を誘惑してベッドに連れ込むシーンや、そこを発見したセルジュが激しく嫉妬心を芽生えさせるというのも、当時の私には理解出来ませんでした。大人になってから見返して初めて分かったような感じです。そして、大人になると逆にこのストーリーが物足りなく思えてしまうんです。セリフもなんだか宝塚のようだし、なぜジルベールがここまで自堕落的なのかの補足が足りないし、同性に興味がなかったセルジュが、なぜあそこまでジルベールを愛するようになるのかも分かりません。分かりませんが、とにかく両想いとなった二人が愛し合う事になるんです。ですが、「え?これだけ?」という感じです。ただ綺麗な男の子が裸になって、ただ重なり合ってるだけなんです。私はこの手のシーンはあっさりしたものを好むのですが、これはあっさりし過ぎです。もっと二人のシーンを見たかったし、ジルベールと彼の叔父(実父)との関係も長めに見たかった。やっぱり、60分で納めるには難しい内容だったのでしょうか?何か、ただ男の子達が古めかしいセリフを言いながらイチャイチャしている。そんな印象で終わった作品でした。ただ、この時代を思い返すとこれが限界だったのだと思います。男女の恋愛だって、キスシーンがあるだけでもドキドキする時代だったのですから。現在のBLと比べると華やかなだけで盛り上がりには欠けるのかもしれませんが、この作品があったから今があるんだなと思います。ただ、ちょっと時代が早過ぎただけかもしれません。男の子同士の恋愛や、近親相姦なんていう言葉がそれだけでタブーとされた時代です。そう思うと、かなり勇気ある作品だったのですね。
イメージはあってるけど
ジルベールとセルジュの声が女性だったのも気になります。ジルベールを演じた佐々木優子さの声は、妖艶さの中の淋しさを演じる上では、ジルベールのイメージにあっていたと思いますが、セルジュの声が小原乃理子さんだったのには驚きました。どうしても小原さんの声を聞くと「のび太くん」を思い出してしまい、違和感を感じるのです。せめて、セルジュだけは男性に演じて欲しかったです。何だか声だけ聴いていると、女の子同士のように聴こえてしまうのです。年齢的には声変わり前後という事で、女性が選ばれたのでしょうが、やっぱり少年の声には聞こえませんでした。その代わり、脇を固めてらっしゃる速水奨さんや小杉十郎太さんは、その低音でイメージピッタリでした。現在でもお二人が数多くのBL作品で活躍しているのも頷けます。そして、誰よりもピッタリとハマっていたのが、オーギュスト役の塩沢兼人さんです。もともと塩沢さんのミステリアスな声が大好きだったのですが、このオーギュストはまさに塩沢さんしか出来なかったと思います。優しさの中にもどこか冷酷さを秘めていて、ジルベールの名前を呼ぶ時の、あの囁くような声が忘れられません。残念ながら、もう塩沢さんの声を聴く事は出来ませんが、彼以外にこのオーギュストが出来る人は居ないんじゃないでしょうか?アニメを見る上ではこの声がかなり重要です。絵が豪華でも声が悪ければ誰も見ません。そういういみでは、この『風と木の詩』がそれなりに成功したのは、声優さん達の魅力的な声と確かな演技力の賜物かもしれません。
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