超能力者だって苦労するんだなって思う
できるからこそ選択しない
この「斉木楠雄のΨ難」はかなりのご長寿漫画。ジャンプの中で安定の笑いを取り、楠雄の魅力はあのスペースの中で上手に輝いている。斉木家のおかしい日常に、クラスメイトたちのぶっ飛んだ毎日。どれもがおもしろく、詳しくなるほど、新キャラ出るほど厚みを増している。作者が当初続くかどうかわからないと言っていたのが嘘のように、今ではそれがないジャンプってほぼないよね…という勢いでいつもそばにいてくれている。
斉木楠雄という、超能力者として生まれたとある男子高校生。彼はその能力によって“すべてを奪われた”と言っている。自分の周りには普通の人たちしかいなくて、自分だけが最強の超能力者。みんながあらゆる漫画で必ずと言っていいほど憧れる、すべてを手にした男であるはずなのに、どうして彼は不幸せだと感じているのか?よく考えてみれば、自分だけが最強で、何が楽しいんだろうね?ってことだ。何かを成し遂げるぞ!って思わなくたって簡単に成功できるくらいの頭脳があるし、誰かと恋したいと思って心の中を透視し簡単に人を選ぶことができるし、瞬間移動だってなんだって、彼は自在にできる存在。その力があれば誰かを支配下に置き世界征服することも難しくない…それは楠雄にとって楽しいことなのか?楠雄は誰かと何かを分かち合い、喜ぶことも、悲しむことも、予想できてしまうから、生まれたばかりの赤ちゃんの頃から空気を読み、親に気を遣い、自分の存在意義についてずっと考えてきたのだろうな~…ってせつなくなってしまった。
でも親が何の能力も持たなかったからこそ、楠雄は大事にしようとしていて、そこがえらいよなーって感じさせる。バカで私利私欲で楠雄を利用しようとするような親だけれど、確かに楠雄は愛されていて、大事に育てられた。世界中で楠雄の能力を把握してくれているのは斉木家夫婦だけだし、楠雄にとっては最強の支えであったと言えるはず。静かに、穏やかに暮らしていきたい。楠雄の願いが何より究極の幸せのような気がした。
優しさ全開の楠雄
楠雄にできないことは…ある。燃堂の心を読むことだ。何も考えていない彼の思考は読めないのである。だからこそ、燃堂の行動パターンも把握できない。気配も読めないから、がらにもなく楠雄は燃堂の登場で必ず驚きたじろいでしまうのだ。そんな楠雄が若干かわいく思えてくる。
また、最強だからこそ、わざわざ苦労するような選択肢は選ばない。大好きなスイーツが食べられなくなってしまうような状況にはしたくないし、帰ったらあったかいごはんと寝床があってほしい。人を滅亡させたところで人から恨まれるだけであり、自分に得なことは何一つない。そう判断する楠雄、優しすぎだろう。ギャグ漫画とは言え、主人公がいいキャラだから、これだけ長く続いているんだよね。燃堂など愉快なクラスメイトたちが盛り上げて、存在をできるだけ薄くして生きていきたかった楠雄をどんどん表舞台へと引きずり出し、いつ能力がばれるかとハラハラしながら物語が進む。楠雄は面倒なことを遠ざけたいと思っているのに、クラスメイトたちはそれを許してくれなくて、彼らなりの全力でぶつかってくる(あらゆる方向に全力で)。そこで適当にあしらったり、記憶を改ざんしてテキトーにつじつま合わせをするとか、そういうちょっといただけないことを楠雄はしないのだ。
あのめんどくさすぎる斉木夫婦のことだって、すぐ仲良しに戻るから心配していないって言いつつ、やっぱり仲裁してあげて支えてくれる楠雄。災難は自分で引き寄せてしまっていると言ってもいいくらいだ。
一人きりで過ごすことを許さないお友だちたち
クラスの中で別にいじめられるでもなく、うまく立ち回ってきた楠雄。あの頭のピンクカラー、変なパーツ、ツッコミどころは満載なのに、スルー。すべて超能力のなせる業。だけど、自分に関わってこようとしてくる人に対して、無理矢理能力の行使はしないのが楠雄である。
燃堂と海藤に関しては、もはやネタでできているといってもいいくらい、濃すぎるキャラクターであり、愛すべきキャラ。強烈なズレが最高の笑いにしてくれている。燃堂のあのイカレた思考回路と見た目、海藤のどうしようもない中二病、照橋さんのナルシストぶりとそこからのストーカーぶり。ぐいぐいと楠雄を災難へと巻き込んでいって、最後は楠雄の超能力が発動しないと解決できないレベルになってしまう。解決はいつも最強の超能力と、ちょっとした哀愁、そしてしっかり目のオチ。楠雄を締めてくれるので、よくまとまっている。
でもそこで怒るわけでなく、ちゃんと付き合ってやっている楠雄。ほんとにいい子ちゃん。ただのギャグ漫画だが、ギャグ漫画だからこそ、真面目に考えたら楽しくなるんだよね。楠雄はトラブルに巻き込まれることにどんどん慣れ、いつの間にかむしろ自分から渦中に飛びこんでいるような。そんな印象を受ける。
別に頼んでもいないのに、いつも全力で友達であろうとしてくる燃堂たち。最近では別のキャラクター・楠雄の劣化版のような違う能力者がわらわらといて、当初の進み方から随分と変化したように思う。
楠雄の前では悪さができない
気を抜くと心の声が聞こえまくって具合の悪くなる楠雄。念力念写、サイコメトリー、記憶の改ざん、なにからなにまで手中にある楠雄には、嘘すらも通用しない。燃堂みたいに頭の悪い人が偉いポストにたくさんいればいいのにね。そうすれば楠雄でも世界との交渉が楽しくて仕方ない!ってなったかもしれない。どうやって攻略してやろうかって燃える気がする。
ここから気になっているのは、楠雄が誰と結婚するのか?というところ。心洗われるような平均的思考を持つ佐藤くんと一緒に暮らしていくわけにもいかないだろうし、楠雄だって男の子としていろいろと考えてきたことがあるだろうし…いくら女たちの怖すぎる思考を読み取ったことがあるからって、指輪のくだりを考えたらついつい考えてしまう。誰かとうまいこと話がまとまって、結婚生活中は心を読まないように…みたいな取り決めが成されるんじゃないだろうかと。勝手に考えているだけだが、面白そうだよね。心を読めなくて何もできなくなってる楠雄は絶妙におもしろかった。設定をいかに崩さず、ひねりを加えて笑いにするって…大変なことだなーと思う。
本編じゃないところにもおもしろさはあり
エピソード間にある少しの笑い・本編のスピンオフって感じの雰囲気がおもしろいと思う。実にちょうどよく、安定の残念感がある。
楠雄を含め、学校のクラスメイトたちが常にどこかで災難な目に遭い、笑わせてくれる。作者さんはネタをどうするか、いつも悩んでいるのではないだろうか。そろそろみんな個性が強烈すぎるからね。どんどん増やしたらウザくなるし、減らしたら一度出ちゃった面白さが半減するし、キャラクターの数・関わる程度を決めるのが大変そう。楠雄のような能力者を一度出してしまうと、じゃー他にも楠雄レベルがいるのかなって思ってちょっと残念な気持ちにもなってしまうし、人数やそれぞれのキャラクターの立ち回りを決めるのが難しいと思う。
まさかとは思うが、ここからいきなり世界を守るため、的な話にされても困るなーって思う。面白く、残念なまま、華麗なオチをいつも見せてほしいなーと願っている。そしてラストは楠雄の結婚ネタで締めてほしいなーと勝手に思う。
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