恥ずかしい仕事だけどプライドと愛がある - 花宵道中の感想

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花宵道中

4.004.00
画力
3.17
ストーリー
4.00
キャラクター
4.00
設定
3.83
演出
3.83
感想数
3
読んだ人
8

恥ずかしい仕事だけどプライドと愛がある

4.04.0
画力
3.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
3.5

目次

それぞれの女の道は男でつながっている

遊郭に生きた女たちの物語。おもしろいのは、ただその時の悲しみや苦しみを描いて終わるのではなく、過去といま、そしてこれからを見せてくれるストーリー展開になっているところだろう。

主人公は八津であるが、他の女郎たちの存在なくしては彼女の成長はあり得ないのであり、短編の全部が大事なパーツになっている。吉原の遊郭で、楽しい思いをする男たち。そこにどれほどの女たちが苦しい思いをしてサービスしていたのか。それを悲しくいたたまれないことだと考えていたけれど、この「花宵道中」を読むと、世の中それが大事なのかもしれないとすら思えてくる。

ストーリーは好きなのだが、イラストがね…。みーんな同じ顔なんですけどどういうこと?名前が出てきてもすぐに理解できないくらい、水蓮や八津はそっくりそのまま。対象となる男たちで判断するしかないのだが、これはメイクが同じだからそうなっているの…?ここだけが残念なポイント。女たちはみんな同じじゃない。それが強調されたほうがいいと思うんだよね。東雲の殺人に込められた想いとか、朝霧、霧里、茜と、たくさんの女たちが一人の男に惑わされて、狂わされて、それでも幸せだったと言い切る強さとか…。男によって女がつくられると思うし、女によって男はつくられる。持ちつ持たれつ、お互いになくてはならない存在で、憎んだり愛したり、忙しい。人生って難しいことばっかりで、憎んでもどうしようもなくて、どうせなら強くプライドを持って生きていかなくちゃならないよねって気分にさせてくれるのだ。

遊郭に生きるということ

人の集まるところに遊郭はあるわけよ。漁師で栄える港町にはキャバクラが栄えるのと同じ。男が疲れた場所に女のオアシスが用意されるわけ。働いている女たちはバカだとか、お金がなくて体を売るしかないとか、もちろんそういうイメージはあるのだけれど、遊郭でだってのし上がるためには大変な努力が必要なわけで、そこでも生きていけないような女はマジでホームレスになるしかないんだよ。うまく生きていかなくちゃならない。それは男も女も同じだったんだ。

将軍のお膝元で男たちを愉しませること。それを仕事としていたわけだけれど、女の咲くところにはお金も盛大に咲くようで、乱れを取り締まろうとする歴史的な動きはちゃんとあったらしい。「花宵道中」の中では、もちろん人を買ったり売ったりするけれど、それなりに女郎としてのプライドやお店としての格式みたいなのがきっちりあって、“覚悟してどうぞ”っていうどーんと構えた感じがする。こそこそやるんじゃねー!って言ってる気がして、いっそ清々しいと思う。

いつの時代でも、女が体を売るのはそんなにいいことではないって思われていて、それはたぶん万国共通。女が子どもを身ごもるのは、とても大切なことだし、神秘的なことだと思いたいもんね。

吉原とはちょっと違うふうに言われるのが京都の祇園。芸のみを売り、カラダは決して許さない。それもまたカッコよさがあるけれど、本当のところはわからないよね。どちらも女の魅力を売る仕事だし。

愛のある身請け

遊郭からお金で買われた哀れな女。そういうふうに表現する漫画がいっぱいあるのだが、ここでの身請けはとても愛があって、なんか普通にいい話だなって思ってしまった。男としては、若くてきれいな女を選び放題で、お金さえ持っていれば買うこともできて。自分の所有物にすることだって簡単。だけど、女だってバカじゃないし、本当に愛しあえる人を選んで、身請けされていくんだなーって思えた。悪い女将が莫大な金を要求して引き裂こうとするパターンもあるけれど、ここの女将はそんなにひどい人間ではなかったし、そんな女将のもとで働く女郎たちだから、プライドと“自分”ってものを確立して、誇り高い仕事として行っているように感じられる。

身請けされていった女たちは、相手と相思相愛なら幸せだし、そうでなくても幸せになれるパターンもある。自分を愛してくれる存在を得るということが、女にとっていかにパワーになっていたか、と考えるね。道具として扱うような腐った野郎だっていたかもしれないけど、この物語の中の旦那たちのように、大事に愛でてくれる人もいたのだとしたら、美しいよね。

朝霧に関してはただただ切なかったなー…旦那だって、きっと大事にしてくれただろう。でも東雲の事を想って、彼以外に自分を渡せないって決めて、自害をする。東雲も、旦那も、悲しいまんま。そこで朝霧に似た茜を初見世でモノにしちゃった旦那はちょっと清くない気もするが、女が男の傷は男で癒そうとするのと同じで、女の傷を女で癒したくなったんだろう。選んだ女を憎んで誰かに当たるより、よっぽどいいお金の使い道をしている優しい旦那も…吉原にはいたのかもしれない。

忘れてはならない主人公

八津は朝霧と東雲のように、恋に生きることは選ばなかった。自分にも好きだなと思える人ができて、だけど吉原で生きていくことが自分の道だと決めた。恋に生きて死んでいった姐さんたちがいて、自分にそれほどまでの覚悟で挑めるものがあるんだろうかって考えて、仕事に生きることにしたんだよね。一人の男を幸せにする道ではなくて、たくさんの男を幸せにする・そして女郎として生きていく自分の後輩たちに堂々と背中を見せるため…カッコいい姐さんって言っていいんだと思う。どんな仕事であろうと、信念ある行動は否定できないと思うんだよね。

東雲のことは…苦しすぎた。朝霧だけじゃない、霧里だって犯して、自分の前にいつも立ちはだかる父親。そりゃー殺したくもなる。自分の大切な人を一度ならず二度までも目の前で…なんて想像もしたくないだろう。東雲と朝霧が一緒に逃げてくれりゃーそれで万々歳だったのに、逃げずに殺すからね。人殺しはどこまでいっても見つかっちゃうのかな?昔なんだし、絶対どこかでひっそり生きていくことだってできたと思うんだよね。恋に生きるって決めて、誰かを悲しませるようなことしないでおくれよ。とことん愛して、大事にしてやってほしいもんだよね…。

誇り高く自分らしく生きていく

そりゃー人生うまくいかないことのほうが圧倒的多数だろう。やりたいことはできなくて、やりたくないことには毎日向き合わなくてはならない。がんばっているうちにいずれ…と思っていたら簡単に5年くらいは通り過ぎていて、だったらもはや辞めようかって逃げ出したくなる。そこで自分がどう決意し、どう考えて、他人のせいにせずに自分で切り開いていけるか?これが大事なんだよね。それがたとえ遊郭で働く仕事であろうと、エリートで奉行所で働く仕事であろうと、どんな仕事だって、誇り高く向き合っていって、そこで初めて道が拓けてくるんだと思う。八津みたいに、自信もって、悲しいこともバネにして、踏ん張って生きていくのが大事だし、そういう踏ん張りどころは女のほうが得意だと思うんだよね。

恋と結婚は別だという話もあれば、延長線上だという話もあるけれど、要は切り替え上手かどうかの違いだろう。きっちり分けて考えられる人もいれば、公私混同で生きていかなくちゃならないような性格の人もいるわけで、感情と理性をうまくコントロールできるかどうか、自分自身がプライドを持って生きているかどうかを常に考えるべきだ。女の強い物語を読むと、たくましい思考がいつも湧いてくる。

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複雑に絡み合う吉原の女の道がおもしろい

短編集かと思いきやすべてがつながったストーリー吉原の遊女である八津を中心として、過去、現在、そしてその後と描かれていくストーリー。自由奔放だった八津が、いろいろな人の人生にふれてどんどんたくましくなり、姐さんになっていく。その姿がかっこよくもあり、悲しくもありました。いったい何人の女が苦しい思いをして、使われるだけ使われて捨てられていったんだろうね。そんな時代が確かにあったということ、実際に歴史として起こったとされている出来事にもなぞらえながら、その時生きていた遊郭の女たちの人生を描き出してくれています。まず読んで気づくと思うのですが、みんな同じ顔じゃないか…?誰が誰だか、そのとき横に名前が出てなければわかりにくい…茜や朝霧はわりとわかりやすかったと思うのですが、水蓮と八津は強気なところも似ていたりしてほとんど違いがわからない…表紙や扉絵の美しさは目立つのですが、本編では男たちをもとに...この感想を読む

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