生き方を考えさせてくれる本
スルメのように、噛めば噛むほど
小学生向けの、児童文学です。今で言う、ハリーポッターのシリーズのような冒険ファンタジーなのですが、年齢を経て読むと、物語の見える姿が違ってくる、深い命題を問いかける本でもあります。小学生のときには、ストーリーの面白さと、世界の不思議さと、灰色の男達との攻防劇に息を呑んでページをめくることでしょう。そしてまた、中学、高校生になって読み返すと、「灰色の男達」が、現実において何を象徴しているか、考えられるようになっています。何故なら、現実においても、塾や習い事に明け暮れ、多忙を極める学生達が、クラスにもたくさん出てくるからです。忙しく、疲れた顔をして、なんとなく日々を過ごし、良い大学に入れるようになんとなく目指している私たち。「それで良いの?」と内側から問いかけられていることに、気づくことでしょう。そして、大人になり、子供を育てるようになってから読むと、英語を習わせた方が良いだろうか、先々に向けて、もっと水泳も、書道も、ピアノも、ダンスも…、などと、我が子に与えるべきものを考えてしまう大人に、「それで良いの?」とまた、問いかけられていることに気づくのです。子供の頃にはモモと同じく冒険して楽しみ、少し大きくなってくると、この物語が、「貴方はどう生きたいの」と問いかけていることに気づき、もっと経つと、「貴方は子供たちにどういう人生を送って欲しいの」と問いかけていることに気づきます。何段階にも気づきや問いかけがあり、何十年にもわたって読みごたえのある、スルメ本と言えるでしょう。
設定の面白さを楽しむ
この世界では、時間は美しい花として表現されています。そして、人生を心から楽しみ、輝くような生き方をせず、他人の選択に任せてしまうと、灰色の男たちにこっそりと花びらを盗まれてしまうのです。花びらを乾かし、葉巻にして灰色の男たちは吸っていて、それを吸い続けなければ存在できない仕組みになっています。灰色の男達は、他人の時間を奪ってしか生きることができないので、葉巻を口から落とすと消えてしまいます。時間を象徴するものは、日本的な発想ではロウソクなのですが、それをこの世のものとは思えないほど美しい花と設定したことに新鮮さを感じました。そして、花びらを葉巻にして吸うことによって時間を盗むこと、私たちが、自分の時を取り戻すと彼らは消えてしまうこと、童話的な設定でありながら、斬新で分かりやすく、楽しめるものであると思います。
西洋の歴史的なファンタジー
子供達に親しまれる現代的な命題を取り入れながら、西洋に昔から伝わる神話やファンタジーなどの要素もふんだんに取り入れられているのが面白いです。日本にも、日本の神話などの要素を取り入れながら現代に繋がる子供達向けのファンタジーが生まれてくれたら良いのに、と羨ましく思いました。西洋のファンタジーの層の厚さを感じます。
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