スリラー、コメディ、ロマンスの三要素が融合した、動く密室を舞台に展開するスパイ・サスペンスの傑作 「バルカン超特急」 - バルカン超特急の感想

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スリラー、コメディ、ロマンスの三要素が融合した、動く密室を舞台に展開するスパイ・サスペンスの傑作 「バルカン超特急」

4.04.0
映像
4.0
脚本
4.5
キャスト
4.0
音楽
3.5
演出
4.5

サスペンス&スリラーの神様、アルフレッド・ヒッチコック監督。イギリス生まれの彼は、「レベッカ」でハリウッド映画に進出するまでに、サイレント映画を含め、23本の作品を撮っていますが、この「バルカン超特急」は、そのイギリス時代の最高傑作ではないかと思います。

ヒッチコック作品には「バルカン超特急」以外にも、列車をサスペンスの舞台にした作品が何本もありますが、中でも有名なのは「見知らぬ乗客」と「北北西に進路を取れ」で、ヒッチコック作品以外では、アガサ・クリスティ原作の映画化「オリエント急行殺人事件」が、贅沢なオールスターキャストの競演であまりにも有名です。

そして、主人公の男女が互いに反発しながらも、手を組んでトラブルに立ち向かうという設定も、ヒッチコック作品の「サボタージュ」や「汚名」や「北北西に進路を取れ」などで見られます。

この映画の舞台となるのは、チロル山麓のホテルとイギリス行きの国際特急列車「バルカン超特急」です。結婚を控えてバルカンの避暑地に遊びに来たイギリスの富豪令嬢アイリス(マーガレット・ロックウッド)は、帰途の特急列車の中で、さっき食堂車でアイリスと一緒にお茶をのんだばかりの老婦人(メイ・ウィッティ)の姿が、忽然と消えたのに気付くが、乗客や乗務員は誰も老婦人など見ていないと言うのです。

果たして、そんなおかしなことがあるのだろうか-----?

映画は、雪でバルカン発の列車が運休となり、ホテルも満室、メイドの部屋に案内されたイギリス紳士たちは不満タラタラという、すこぶる騒々しい場面から始まりますが、「動く密室」とも言うべき特急列車を舞台に、乗り合わせた何組もの人々を野次馬にしての展開は、サスペンスだけではなく、忙中閑ありのユーモアもたっぷりあって、それが実に面白いのです。

中でも富豪令嬢のアイリスが、夜中まで音楽とダンスに興じているホテルの階上の部屋に苦情を言い、言われた若い民族音楽研究家のギルバート(マイケル・レッドグレイヴ)が、荷物を持って彼女の部屋に押しかけてくるシーンです。

彼も泊まる部屋がないのですが、一人で部屋を占領している彼女にズケズケとものを言い、彼女も負けずにやり返し、彼を部屋から退散させるシーンは、何やら古き良き時代のハリウッドのボーイ・ミーツ・ガールもののコメディでも見ているようで、これまた実に楽しいのです。

こうして、この二人が、やがていいコンビとなり、走る列車の中から忽然と姿を消した老婦人を探して、列車内を調べ始めることになるのですが------。

こういうあらすじですと、かなりシンプルな話のように思えますが、列車という限定された密室空間を舞台にした、この消失ミステリーに、結果的にヒッチコック監督が得意とするスパイ謀略戦が組み合わされ、いかにもヒッチコックらしいハラハラ、ドキドキのわくわくするような面白いストーリーが展開していくのです。

------ここから先は、ネタバレ注意です------

そして、ヒッチコック監督のうまさが光るのは、駅全体を見下ろす空撮からホテルの外観まで、移動撮影するオープニング、臨時宿泊客で混乱するホテルでのドタバタを通して主要人物を紹介しきってしまう語り口のうまさに始まり、老婦人が消えたことをヒロインだけではなく、我々観る者にも実感させるために、誰もいない座席へとパンするカメラ、そして、老婦人が存在したことを証明する窓の文字と老婦人愛用の紅茶のラベル、偽者の尼僧を見破るハイヒールを捉えるショットと、ヒッチコック流の華麗なテクニックも次々と繰り出されて、一瞬たりとも目がはなせません。

クリケットの試合を気にし続ける紳士コンビのおかしさや、暗号として使われるメロディを忘れそうになるギャグなど、ユーモアが全面に押し出されていて、観る者をとことん楽しませてくれるエンターテインメントとしての完成度の高さはさすがだと思います。

しかも、途中から映画は、二人を殺そうとする敵側のスパイの動きも見せているだけに、もうハラハラしてくるし、乗客の全員が、敵側のグルか、全くの無関心、あるいは知っていても事件に巻き込まれたくないので、見て見ぬふりなのか? ------。

というような状況も、サスペンスを一段と加速させ、でもどこか余裕があるのは、主人公二人のケンカごしの出会いが軽妙だったからに違いありません。

そして、ユーモアと言えば、忘れてはいけないのが、自作に顔を出すヒッチコックの出演シーンです。この作品では、列車の到着ホームを煙草をくわえて通り過ぎる客として登場します。サスペンスが一段落してから顔を出すのは、劇中のドラマを壊さないための配慮からで、こういった点にもヒッチコックの気配りの見事さが光ります。

映画の終盤において、列車は本線を外れ、待ち構えていた敵のスパイと銃撃戦になりますが、老婦人が窓ガラスに自分の名を指で書くというビジュアル的な仕掛けや、暗号をハミングして伝えるというのもユニークで、ラストにもニヤリとさせられます。

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