何度でも見たい名作
30歳という分岐点
ドラマ放映の2002年頃といえば、バブル崩壊から約10年経ち、浮かれていた世代を垣間見ながら育った学生たちが社会人として何年か過ごしてみたものの、この先どうしようか、転職がステップアップにつながるだろうか、女性においては結婚はどうするか?子供を産むなら今だろうか?という立ちはだかる問題に頭を悩ませていた時代であったかもしれません。
このドラマの主人公籐子はずばりその世代の代表みたいな憂いを持っており、冴えない会社での立場、家に帰ってみるテレビは人の悲劇オンパレードの番組で、お気に入りの理由は人の不幸を見ると安心するから、という悲しい理由、かといってローンを組んでマンションを購入し、一人で生きていく覚悟をしている親友の真季のようにもなれない、という彼女にさらに追い打ちをかけているのは30歳という年齢のようです。
同じ年齢の真季が見せる朝一の素顔が出るシーンは、一瞬放送事故では?と思うほどの迫力があると同時に、セリフ以上の見事な説得力を感じました。
この情けない感じが持つリアルさが、籐子と同じ世代の女性の共感を誘ったのだと思います。
そしてその環境で、ヘッドハンティングを受けるという出来事がどんなに彼女を舞い上がらせたか、それが間違いだったと気付いたときにどんなに気落ちしたか、想像しやすかったことがこのジェットコースターのようなストーリー展開で始まる物語に引き込まれた原因だと思います。
主人公を輝かせる脇役たち
しかしただの情けなさだけで終わらず、彼女の中にある強さ、優しさ、仕事に対する情熱を引き出してくれるかのように存在する脇役たちの存在が随所で光ります。
まず一緒に暮らすことになる春菜です。真季が彼女のことを嫌うのは、家事能力があり、自分を磨くことを怠らず、女子力は高く、そして何より若いことには勝てないからです。このドラマではそういう素材であるがゆえの彼女の足りない部分が籐子と比較されてしまいます。恋に恋する乙女感が抜け切らない彼女は、貫井が本当に自分に興味を持っているわけではないこと、自分だけが盛り上がっていることに気付くことがなかなかできません。結果、そんな春菜を優しく見守り、自分が貫井のために取ってきた仕事も春菜のおかげだと言って自分は隠れようとする籐子の株がグッと上がるのです。
そして貫井の仕事上の相棒、壮吾です。彼は貫井を大変尊敬していますが、人間として足りない部分を熟知しています。さりげなく籐子の恋を応援する様子は、人の気持ちをよく察することができる彼の性格をよく表しており、つい見ている側も同じ気分になってしまいます。貫井が籐子に対して女性として見ていない、という発言をしたときに、本気で怒った壮吾のような存在がいてくれることは、籐子にとって30歳という年齢にしばられない時間と、自分を否定してばかりでなくてもいいという安心感を与えてくれていたのだと思います。
あと意外なところで吉武です。彼は年齢的にも離れていますし、妻子持ちであるため、仕事に関する気持ちの構え方が違います。どちらかというと貫井たちをさとす先生的な役割であり、社会で働くことの厳しさを知っている一人前のサラリーマンです。新しい会社に営業担当を置くことになり、吉武さんを引っ張ってくると言った籐子のセリフが貫井たちに無視されるほどそれは無謀と思えるものでしたが、実際吉武の気持ちを動かしたのは籐子であり、そこには彼女の真っ直ぐさによるものが大きく、彼女のおかげで大切なものに気付かされたと終盤で吉武に語らせるほどのものだったといえるのでしょう。
ギャップが魅力
貫井功太郎というキャラクターの持つ魅力は何でしょうか?
あの仕事への情熱と、自分にも厳しいけれど他人にも厳しいというスタイルだけなら、籐子もそれほど惹かれなかったかもしれません。貫井の持っている不器用さは、周辺人物にここぞとばかりに馬鹿にされてしまうほどおかしさを誘う場面が多く、最終話でやっとキスシーンに到達するというときに彼がいかに籐子という存在を大切に思っているかを長々と説明する様子に彼の魅力がつまっていると言ってもよいかもしれません。
女性経験が少ないという設定の彼が、愛する人に伝えるべきことを伝えるときは結局テクニックや話術などではなく、ぎこちなくても本当に思っていることをそのままストレートに表現することが強さになる瞬間を見られた満足感がありました。
籐子が昔の彼に再会する日まで懸命にダイエットしているときに、これ見よがしにおやつをパクツク貫井を見ていると、本当は好きだから気に入らないんでしょ?というツッコミを入れずにはいられません。もちろんその頃の彼は自分の気持ちに気付く様子もなく、彼女が突然目の前から消えてから初めてショックを受けるところは、なんだか中学生を見ているようで、普段の貫井の様子とのギャップの大きさを感じるところも彼の魅力なのだと思います。
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