男性と女性の違いが浮き彫りになる - 「わたしは甘えているのでしょうか?」(27歳・OL)の感想

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「わたしは甘えているのでしょうか?」(27歳・OL)

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文章力
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男性と女性の違いが浮き彫りになる

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文章力
4.0
ストーリー
3.0
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
4.0

目次

OLの悩み

はじめにこの本を書店で見かけたとき、そのタイトルと本の表紙と、村上龍という名前のミスマッチ感に目をひかれた。そして中身をざっと見たときに、OLの切実な悩みを村上龍が回答するという内容だった。村上龍は何かと相談される人物だということは前から知っていた。フィクションの物語を除いて村上龍の本はほとんどと言っていいほど、読者が答えを必要とする疑問や質問に対して何か一つの答えを出すというものだ。それが質疑応答をテーマとしなくても、私たちは村上龍に何かしらの答えを求めて彼の本を読む。彼はいつでも現実的で合理的で人道的な手段を用いてとある答えを出す。時に暴力的なまでのまっすぐな回答で私たちを納得させてくれるのだ。非常に力強く。

もしこの質問と回答集のような本の質問者が、男女問わず本当に悩んでいる人間の、悩みを通り越した心の訴えだったら、本は面白いという領域を逸脱して、深刻な現実を露呈させるだけの暗い本になっていたに違いない。村上龍はとにかく現実的で残酷に物事を判断する。そのためもし彼に、職業がないことの問題や、子供を育てるだけの収入と時間が確保できないとか社会の根本的な問題を相談すれば、その答えは確実に残酷で救いようがなく、鬱屈した日本社会を浮き彫りにするだけの内容になるはずだ。実際彼の著書の中にはいくつかそういったものがある。そしてその問題の中には、もはや彼の手におえないものもたくさんあるのだ。

そういった点ではこの本の質問者が独身のOLだというところが非常にいい線をついていると思う。彼女らは職業をしっかりともっている。ある程度以上の社会性や経済力を持っているのだ。そして結婚や恋愛にもまだ夢があるため、そこに悩みや他人への羨望や葛藤が生まれる。こんな言い方をしてしまうと語弊があるのだが、もっと深刻な状況に追い込まれている人にとっては彼女らはまだ余裕があるのだ。

ただOLの悩みとはいえ(別にOLの悩みを馬鹿にしているわけではない)、その中身は辛辣で切実だった。お金の問題や容姿の問題、職場の人間関係や結婚の問題など、”彼女らにとっては”どう取り組んでいいかわからない永遠の課題になってしまっている。

”男性”の村上龍に言わせれば

私は男性なので、この本を読んだ時の目線はもちろん男性目線だ。私の感想としても、彼女らの悩みはそれほど深刻な印象は受けなかった。しかしそれこそがこの本の重要なポイントなのだ。私たちにとっては考え方一つで解決するような問題を、村上龍が出来る限り優しく、でも必要な点は厳しく、彼女らに教えていく。私達男性からすれば、村上龍が手加減をして優しく受け答えをしているところがとても楽しい。男性にはあんなに厳しいのに。

村上龍からすれば、彼女らの問題はとても簡単なもののようにも見える。言い方次第では、「そんなことを高望みするなよ」とか、それこそ「あなたは甘えているだけです」と言ってしまえば終わるような問題でも、この場合は「あなたの気持ちはわかります。でもそんなことで悩んでいても仕方ないのではないですか?私には会社勤めの経験がないのでよくはわかりませんが。」といったようになるのだ。非常に面白い。

つまりそれこそがこの本の面白さだと思う。読者は必ずしも質問者に共感して、質問者の目線で村上龍の答えをありがたく享受すればいいというものでもないのだ。一見ミスマッチなOLと村上龍という二者のやり取りを客観的にみてこそこの本の面白さはある。

”女性”の蝶々に言わせれば

この本の解説は蝶々が担当している。ちなみにこの本の解説は絶対読むべきだと思う。本編だけで終わってしまっては、男性はただ「女性の悩みとは大したことないな」という感想で終止してしまうと思うし、女性にとっては「なんだ村上龍。そんなこと言われても解決しませんよ」という感想で終止する。そんなもやもやは、解説を読めば解決する。

蝶々は女性であるため、この本全体を言わずもがな女性目線で見ている。この解説では、村上龍に対してのいわば苦言が書かれているのだ。それが女性の総意であるという風に。彼女曰く、村上龍は女性の心が全く分かっておらず、口調云々ではなくてもう少し感情的にこの問題を処理するべきだという風に言っているのだ。それを読んで我々男性はとても納得するのだ。なるほど、これが世にいう”ただ共感して欲しいだけ”の悩みなのか、と。

もちろんOLたちの相談は切実で嘘偽りなく本当の悩みだ。しかし女性というのは必ずしも本当の解決策が必要なのではない。「大変だね。気持ちわかるよ。偉いね。」そういってもらえるだけでいささか気持ちが楽になって解決することもあるのだ。そしてその解説を読んで我々男性は、「そういう事だったのか」という風に納得できる。

この本のタイトルは非常に秀逸にできていると思う。「私たちは甘えているのでしょうか?」そんな事誰しもがわかっているのだ。甘えている。しかしそれは本気で問題を解決する気があれば、の話だ。男性と女性の悩みの質の違い、考え方や共感力の違い、そういったものがいかに平行線で交わることのないものなのか、それをこのタイトルは遠回しに、皮肉のようにあらわしている。彼の著書の中で、こんなに気軽に読めるものはそうそうない。よくできている。

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