世界の映画史に残る不朽の名作 - 家族の肖像の感想

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世界の映画史に残る不朽の名作

5.05.0
映像
5.0
脚本
5.0
キャスト
4.0
音楽
4.0
演出
5.0

イタリア映画界の世界的な名匠ルキノ・ヴィスコンティ監督のこの「家族の肖像」は、彼の「山猫」「ベニスに死す」と並んで、映画史上に燦然と輝く、不朽の名作だと思います。イタリアの名門の貴族の出身で、最高の知識人で、鮮烈な映画芸術家であり、美術収集家であり、その生涯を独身で通しました。そして、美青年を愛したことでも有名で、若き日のアラン・ドロンに貴族教育を施し、後年は孫のような若さのヘルムート・バーガーに偏愛を捧げたのです。

そうしたヴィスコンティ監督の、この作品は最も自伝的な色彩の濃い、しかも撮影中に病に倒れながら、文字どおり心血を注いで作り上げた、彼の集大成ともいうべき作品だと思います。

ほとんど完璧といっていい、凄絶といっていい、鬼気迫るばかりに格調高く、深い人間洞察の眼で、一つの時代の終焉を描いているのです。ここでは、震えて打ちのめされるほどの、美しい悲劇が描かれているのです。

主人公は、ローマ市街の古い、だが感嘆するほどの豪邸に、長年の使用人以外は家族もなく暮らす、老齢の教授バート・ランカスターです。彼は全く外界と隔絶し、ひたすら孤独に、けれど18世紀の英国の画家たちが描いた上流階級の家族の団欒図のコレクションに囲まれて、絵画の中の人々とのみ語り合い、通い合い、心を許して、静謐の生活を送っているのです。

その邸に、右翼の大物の実業家夫人シルヴァーナ・マンガーノが押しかけて来て、教授の弁護士を抱き込み、空き部屋の二階を強引に借りて、年下の愛人ヘルムート・バーガーを住まわせてしまうのです。更に同時に、彼女の娘や、娘の婚約者も繁く出入りし、まるで嵐のような騒然さで、教授の閉ざされた小宇宙を脅かすのです。

殊に傲慢で身勝手で、冷笑的で、現代の退廃に蝕まれたような美貌の青年ヘルムート・バーガーは、あまりの無礼さで教授を怒らせるのですが、いつしか彼の不思議な魅惑、その虚無の底の純粋さに、老いた教授は心をとらわれていくのです。かつては美術史を専攻し、だが学生運動に深入りし、挫折し堕落して、今は年上の女に囲われる青年に、教授は遠く失った青春への哀惜を重ね合わせているのかも知れません。

奇妙に強烈な一族との接触で、心が騒ぐ思いに、追憶のとばり揺らぐ教授が、幼い頃の母(ドミニク・サンダ)や、若い日に別れた妻(クラウディア・カルディナーレ)の面影を断片的に回想する場面は、凄絶の一語に尽きます。そして、ラスト、この美貌の青年はガス爆発によって、自らの命を絶ち、病床の教授にも死の足音が忍び寄るのですが、壮麗高貴なデカダンスに、最後のヨーロッパ文化の香気が立ちのぼり、見事な余韻を残して、この映画は静かに幕を閉じるのです。

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