生身の中国を切り取る、リアリティーの映画 - あの子を探しての感想

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生身の中国を切り取る、リアリティーの映画

4.54.5
映像
4.4
脚本
4.5
キャスト
4.8
音楽
4.0
演出
4.8

目次

中国というあまりにも興味深い国の生身のエッセンスが詰まっている

1999年作品。2000年以降の大作、アクション映画系になってからのチャン・イーモウにはすっかり興味をなくしてしまったけれど、「初恋のきた道」頃までのチャン・イーモウ作品は、どれも素晴らしい出来で、忘れがたいものばかりです。

これらは、「中国のたましい」を垣間見せる、どれも凄みのある作品です。中国人にとっては、当たり前にふんだんにある自然や、思想や、人間の生き様や、文化といった身近なあらゆるものを、新鮮な感覚を持って見つめ、その生々しさを壊さないよう、丁寧にじっくりと作られている。「あの子を探して」も例外ではありません。

こうした「自らの文化の再発見の感覚」というのは、一度自らの文化を飛び出して、外から改めて身内を眺めるという経験が不可欠だと思うのですが、チャン・イーモウは、一貫して中国で学び、チェン・カイコーの撮影監督を経て、映画監督になっており、外から中国を眺めたことがあるわけでもないのに、突き放した客観性の感覚があるのがすごいなあと思います。

この作品では、田舎の農村と都会の環境のすさまじいまでの対比や、田舎の教育というものに対する鷹揚さを超えたテキトーさ、人々のお金に対するむき出しであからさまな感覚、そういったドラスティックさに呼応するように、子供に対して全く容赦のない、雑な大人たちの有り様といったものが、非常に強い生命力を持って描かれています。

この作品でチャン・イーモウの描く中国は、心温まる、なんて可愛らしいものではありません。人間ひとりひとりは、取るに足らぬちっぽけな存在で、厳しいし、時に滑稽だし、甘ったるい上品さのようなものなんかくそくらえというかんじ。大人も、子供も、ずるかったり、ご都合主義だったり、ばかみたいに単純で容易くだまされたり、みんな人間味があって、どこか嫌らしく描かれていて、全く教科書的ではありません。

ある種の哲学的な趣のあるフランス映画なんかとは対極で、人は何のために生きるのかと問われれば、生きるために生きる、と即答するような、石にかじり付いても生きて行く、というむきだしのたくましさに満ちた世界が広がっています。

それは、自分が中国の都会や田舎を旅した時に感じた感情と何らたがうところがありません。そのあけすけさに呆れつつも、彼らが無心であまりにもタフであるということに深く感服するといった、私自身が感じていた中国の人々に対する思いを、チャン・イーモウの映画は、ありありと思い出させてくれます。この頃までのチャン・イーモウの映画には、中国という、刻々と変化を続けるあまりにも興味深い異国の生身のエッセンスが凝縮されているようです。

素人への演出が見事

チャン・イーモウ作品と言えば、ふたりのミューズ、監督の恋人でもあったコン・リーと、チャン・ツィイーという大女優を見出したというイメージがありますが、「あの子を探して」のウェイ・ミンジに関しては、まあ容貌的にも、演技的にも彼女らのような華はないのですが、素朴で、融通が効かなくて、中国人らしくいかにも率直で偽善的なところがなくって、説得力のある存在感でした。

この作品は、ミンジに限らず、子供も大人も、基本全員が素人の役者だということですが、特に子どもたちの自然さと素朴さ、生き生きとした生命力は特筆すべき魅力で、演出が非常に見事だと思います。まるで演技的な不自然さを感じさせません。

子どもたちは、代用教員である、自分たちと大して年の違わないミンジを値踏みして、言う事を聞かなかったり、さぼったり逃げたりするのですけど、そのこずるさみたいなものが、素直でてらいがなくって、とてもかわいいです。「もやしっ子」という表現がありますが、作品の子供たちはそれとは正反対で、小さな生き物としての確かな太さのようなものがあって、微笑ましく、頼もしさを感じさせられます。

大人たちも自然です。特に捨て犬みたいなホエクーを拾って働かせてやる、店のおかみさんの雑駁さは、死んだおじいちゃんを思い出すような、今ではもう見ないタイプの人で、心に残りました。

いいことをしてるわけでも、悪いことをしてるわけでもない、人としての愛情がないわけではないんだけど、甘ったるいエッセンスが皆無なので、とても愛情があるようには見えない、でも行動としてどこか優しさがある。非常に無心なんだけれど、何かに魂を売り飛ばしてしまった人とは違う、本質的な人としての品の良さに、人間がいとおしくなる感覚があります。

整合性は二の次

ミンジは、ただもらえるお金を減らしたくなくって子どもたちを自分と一緒に働かせて交通費を捻出し、ホエクーを探しに都会へ出たけれど、当のホエクーは行方不明になっており、自分も散々な目をしながらホエクー探しをする「はめ」になる。

色々大変なことが積もり積もった結果、テレビで呼びかけた時に流した涙で全ての風向きが変わる。ラストではなんだかいい話風に丸く収まってしまうんだけど、それもこれも結果オーライで整合性なんてないというのが却って納得性があっていいです。

色んな意味でリアリティーの映画。

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