男性にこそ知ってほしい、年老いたゲイの世界 - メゾン・ド・ヒミコの感想

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男性にこそ知ってほしい、年老いたゲイの世界

3.03.0
映像
3.0
脚本
2.0
キャスト
5.0
音楽
3.0
演出
3.0

目次

とにかく美しい青年がドハマりのオダギリジョー。

この映画を手に取った理由はただ一つ。まだ美しかった頃のオダギリジョーが見たかった、ただそれだけでした。今のように役者としての異様なまでの貫禄溢れるオダギリジョーではなく、まばゆいくらいに美しく、今にも消えてしまいそうな儚げな雰囲気漂う繊細なオダギリジョーに会いたいのなら、この映画しかないと私は思います。

この映画でのオダギリジョーはホモセクシャルであり、男性しか愛せないゲイの若者・春彦を演じているのですが、こんなに美しく魅力的な男性が女に興味がないのだとしたら、女の私がこの人を振り向かせようとどんな手を使ったとしても、彼の愛を手に入れることは絶対的に不可能なんだというこのもどかしさがまた、ものすごく儚くて最高にイイんです!

そして春彦の恋人が、柴咲コウ演じるサオリの父・ヒミコであることも手伝って、柴咲コウとオダギリジョーの絡みを観ることもないはずだと、私はすっかり気を抜いて安心しきって映画を観始めたのですが・・・。

ゲイが女にキスしたいと思うことがあるのだろうか?

お金のために仕方なく、癌を患ったゲイの父親が住む“ゲイのための老人ホーム”で働き始めたサオリ。初めは父のことも含めゲイに対して嫌悪感を抱いていたけれど、日々ゲイとしてこれまでの長い人生を苦しみながら生きてきた男たちに寄り添うことで、次第に彼らに対して人としての愛が生まれます。

ある日ホームの男性が、ゲイという事実を隠しながら働いていた元職場の部下と偶然出会い、女装している事を罵られている時に、必死に彼を助けようとするそのサオリの姿に春彦は惹かれていきます。そしてついついキスをして、そのままサオリを抱こうとベッドへ誘い、結局は柴咲コウとオダギリジョーの絡みのシーンへと突入していきます。

私が見事に裏切られた瞬間です。こんなシーンが見たくてこの映画を観たんじゃない!そもそも、ゲイがそんなことくらいで女を抱きたいと突然思うのでしょうか?もちろん中にはバイセクシャルな人もいるとは思いますが、春彦は前シーンで「ボク、女に興味ないんですよね。」とはっきり言っているにも関わらず、なぜこんなことになるのかと、いろいろな意味を込めて脳内が違和感と不満感でいっぱいになりました。どうしても納得がいかず、いろいろと調べてみると、やはりこの映画のこのシーンは、リアルなゲイの人にとっても違和感があるらしく、批判的な意見が多いことを知り、不満は残れどスッキリしました。監督自身もこのシーンを外すべきだとアドバイスを受けていたにも関わらず、外さなかったという経緯がどうやらあるそうです。それなのにどうしてこのシーンを入れたのか、私にもやはり理解できませんでした。

ストレートな男性には共感できないかもしれない。でもして欲しい!

この映画を、たまたま旦那さんと一緒に観たのですが、最初から最後まで「全く理解できない。」とのことでした。ゲイとして何十年も生きてきた男の苦しみや葛藤を想像することは、同じ男性として共感できないのは、なんとなく分かる気もします。むしろストレートな男性にしてみれば嫌悪感すらあるかもしれません。

でも私はなぜか、女性としてたとえこれがレズビアンの映画だったとしても、その苦しみや葛藤を理解できるような気がしてなりません。自分の性別に違和感があるままに、見た目の性別に逆らうことなく生きていかなくてはならない苦しみ、それをカミングアウトするべきかどうかの葛藤。周りに嘘をついて誤魔化しながら静かに生き続けるか、周りに批判されても自分に正直に生きていくべきか、死ぬまでの一分でも一秒でも、常にそのことに対して向き合わなくてならないなんて、本当に辛かっただろうなと共感している自分がいました。そして彼らだけでなく、ある日突然ゲイだとカミングアウトされて父親に捨てられたサオリは、そのことを独り恨み続けながら生きてきました。結局、みんな苦しんでいるのです。心と体が別々の状態で生まれた彼らはもともと何も悪くないのに、それによってみんなが苦しめられているこの現実は、一体どこでどう狂って起きてしまう悲劇なのでしょうか。

それは多分、彼らとは一切の関係がない何の被害も被っていない無神経な私たちが、そうさせているのかもしれません。メゾン・ド・ヒミコで暮らす年老いた彼らのような人たちの苦しみを理解しようとせず「意味が分からない」とか「気持ち悪い」などと想像だけで感じてしまう私たちが、彼らに嘘をつかせ、迷わせ、その家族すらも苦しめているのかもしれません。

この映画を観た数日後に、旦那さんが「あの映画、なんかよかったね。」と不意に私に言ってきました。初めは眉間にしわを寄せて不可思議な世界だと言わんばかりに観ていたはずの彼も、あの後いろいろと考えたりしたのかなと思いました。「もし私たちの息子が『男の人しか愛せない』と言ってきたらどうする?」なんていう話を時々すると、旦那さんはいつもちょっと怪訝な顔をしていました。けれどこの映画を観たことで、彼の中で何かが変わっていったのかもしれないなと、少し感じることが出来ました。

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