「ミッドナイト・イン・パリ」の女性キャラ徹底考察!主人公の恋愛的成長とは
実は男の恋愛成長物語?!ギルが愛した3人の女性たちに着目
2011年、ウディ・アレン監督が脚本と監督を務め、第84回アカデミー賞での受賞をはじめ、数々の映画賞にノミネート・受賞を果たしている本作。
舞台であるパリの美しさや超有名偉人の登場など、アート好きにはたまらない仕上がりとなっています。
では「パリ景色の美しさ・偉人の登場・懐古趣味」以外の側面でこの映画のキーワードとなりえるものはなんでしょう。それは、主人公ギルの「恋愛的な成長」です。
この映画をギルの恋愛軸だけ追ってみていくと、彼をとりまく女性は以下の3人になります。
- イネズ・・・ギルの婚約者。美しいが勝気でプライドが高く、体裁のよい男に惹かれがち。ロマンばかり追い安定思考を捨てたがるギルに愛想をつかしている。のちに大学教授と浮気して破局。
- アドリアナ・・・タイムスリップ先の1920年代で出会った画家パブロ・ピカソの愛人。ギルの才能あふれる小説とロマンチストっぷりに惹かれる。夜毎彼女の時代へとタイムスリップしてくるギルとデートを楽しむ。憧れのベルエポック時代にタイムスリップし、自分の時代へ帰ることが惜しくなり、ギルと別れて生きることを選ぶ。
- ガブリエル・・・イネズとの旅行中にレコードを通して知り合った古物商の娘。ギルと同じく20年代と雨の日のパリを愛している。
この3人は、それぞれ主人公に対して異なる接点・役割を持っています。
イネズとの恋からガブリエルとの恋の始まりまで、彼はどのように成長し、変わっていったのでしょうか。
この記事では女性キャラに焦点を当てて各人の特徴にふれながら、主人公の恋愛的な成長に迫ります。
真逆、執着、平行。異なる3つの愛情ベクトル
まず、この3人の共通点は美人であること。
作中で本人も述べていますが、ギルは美しい女性・セクシーな女性に惹かれやすく、容姿にこだわりを持っています。芸術家の端くれということもあり、外側の美に敏感なのでしょうね。
次に相違点。これは内面、特にギルに対する愛情の方向性(ベクトルの向き)にあります。
一人目のイネズは婚約者。容姿は美しくセクシーで彼の理想そのものでした。一方、彼女は勝気で安定志向のリアリストであり、パリに恋し夢見るロマンチストのギルとは正反対の性格。パリにもたいして魅力を感じておらず、彼の愛するものに理解がありません。つまり彼女のベクトルはギルと逆向きでした。
二人目のアドリアナは、ギルが愛してやまない1920年代に生きる美女。見た目も内面も彼の大好きな「作品」の一部というわけですが、それだけではありません。彼女はギルの作品や考え方に賛同し、ギルの内面に恋をしていました。ギルとは結局別れる運命になってしまいますが、二人の愛情ベクトルは完全に向き合っています。
三人目のガブリエルは、現代のパリで出会った女性。ギルと同じ1920年代と雨の日のパリを愛しています。彼女は他の二人と比べてギルとの接点があまり多くありませんが、途中店でレコードについて語ったりラストシーンで雨の中歩いたりするシーンでは、好きなものが同じ「同志」のような関係を見せています。彼女は自然体で、何にも執着していません。愛情ベクトルはギルと同じ方向を向いています。
真逆、執着、平行。
こう見ると、同じ恋愛関係でも各人の主人公に対する内面的な愛し方がずいぶん異なることが分かります。
外から内の魅力へ。恋愛の極意「自然体」と「距離感」の重要性を学んだギル
では、ここからギルの成長を考察していきましょう。
まず、彼が各ベクトルから学んだものは「自然体で愛し合えること」の重要性です。
イネズとの恋愛では、自分の中身をたいして愛していないことを知りながら美しさに恋し関係を続けていました。小説を書くのをやめるよう勧められたり、パリの街を歩き堪能したいのに社交に時間を割かされたり、ウンチク博士のポールに恥をかかされたり・・・。
まさに、真逆の愛情ベクトル。自分の本心や素の考え方を愛してもらえない彼女との恋愛は、心から楽しい時間とは言い難いものだったでしょう。
しかしアドリアナと出会い、彼は初めて内面から自然に愛しあえる喜びを知ります。美しさ以外の女性の魅力、内面のあたたかさや感性の繊細さに癒され、自分を理解してもらえることに喜びを感じたのでしょう。
自分と同じものに心惹かれ、深く語り合えるガブリエルも彼にとって初めての女性。彼女と彼は同じ方向を向いた平行のベクトル同士であり、自然と好感を抱くようになります。
さらに、彼は3人との出会いを通して「距離感」の重要性を知ります。
イネズとの冷めた関係とは対照的に、アドリアナとギルは互いを深く愛しあっていました。
(個人的には1920年代でそのまま二人で生きていってほしかったというくらい・・・。)
でも彼女はベルエポック時代を愛する1920年代の女性で、彼は彼女の生きる時代を愛する現代人。別れなければならない運命でありながら執着のベクトルを向け合い、強く惹かれあってしまったため、切ない別れを迎えたのです。この近すぎる距離感こそがポイント。
その後迎えたラストシーンでは、アドリアナとの別れを経て現代に戻ったギルがガブリエルを珈琲に誘うという爽やかなやりとりが印象的でしたね。
彼女は上にも書きましたが、彼にとって共通の趣向を持つ「同志」のような存在。愛情ベクトルは平行で、イネズほど離れず、アドリアナほど執着せず。どちらかというと心地よい距離感を保てる存在です。
今を生きることを選択したギルは、同じ時代で同じベクトルを持つガブリエルと、新たな関係を作ろうと試みます。これは、彼女であれば心地よい距離感を失うことなく付き合えるからなのかもしれません。
ポイントは「自然体」と「距離感」。
見た目重視だった彼は3人の女性との出会いを通して、自然体で適切な距離感を保てる関係の重要性を学んだというのが私の考察です。
まとめ
パリの情景の美しさや偉人役の面白さはもちろん一興ですが、恋愛軸を追うとさらに面白くなるのがこの作品の魅力!
リピート鑑賞の際は、女性キャラの彼とのやり取りに注目してもらえるとうれしいです。
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