夜のパリ - ミッドナイト・イン・パリの感想

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夜のパリ

5.05.0
映像
5.0
脚本
5.0
キャスト
5.0
音楽
5.0
演出
5.0

目次

何がテーマだったか忘れてしまうほど視覚的な映画

何がテーマか忘れるほど、美術館でただ絵を見てるような、視覚的な映画でした。今を生きている方がいいというメッセージが込められていますが、そのメッセージは物語を締めくくるためにテキトーに持ってきた、という感じがしました。とにかく昔の時代の人物がたくさん出てきて、パリの美術館や、ホテル、お店、きれいな風景が見れる、というところがみどころだと思います。それも実際にパリに行くのとはまた違う、独特のカラーの映像なので引き込まれます。昔の場面だけだったら重苦しくなっていたと思いますが、すぐに今の時代に戻れるので、ギルが観客から離れていくことはありません。カイロの紫のバラでも、アレン監督は、主人公をファンタジーの世界に完全には連れて行かず、現実の世界と繋げていました。観客が主人公に共感できるよう、リアルなものを最優先にする監督だと思います。それでも今回はタイムスリップでかなり現実から離れていました。しかし、過去に実際にいた人々で、しかもパリで暮らしていた人々、そんなに遠い過去でもないので、現代とかけ離れすぎているとはあまり感じません。しかもその時代のいまを、リアルに描いていました。その当時の雰囲気と本当は違うのかもしれませんが、リアルに見えました。だから物語はスムーズに進んでいきます。

豪華俳優陣

オーウェン・ウィルソンとレイチェル・マクアダムスは普通にいそうなカップルで、それが良かったです。うまいと思いました。レイチェル・マクアダムスの役は、かなり嫌な役ですが、魅力もあるところがリアルでうまかったです。レア・セドゥがすごく自然体で魅力的で、リアルにパリにいそうな女の子、という感じでした。アレン監督はむかつく女を描くのがうまいですが、レア・セドゥの役は珍しく最初から最後まで透き通っていました。現代のリアルな世界の方が美しい、ということを象徴しているのかもしれません。彼女は、ギルや、フィッツジェラルドが抱えている悩み、戸惑い、憂いのようなものがありません。花のようにそこに咲いているだけです。最後のシーンに出てきたとき、やっぱり現代が一番素晴らしいというメッセージが、彼女の存在から浮かび上がってきます。昔の場面に出てくる俳優はみんな個性派俳優で、顔も役のそっくりさんという感じがしました。マリオン・コティヤールの演じたアドリアナが魅力的に感じなかったのは私だけでしょうか。実在の人物たちと比べると、キャラクター設定が甘いように感じました。けっきょくのところ別れてしまうからだったのでしょうか。オーウェン・ウィルソンは、ひとりだけ現代人に見えたので、やっぱりうまいと思いました。最初の方はフィッツジェラルドやヘミングウェイなど、アメリカ人のキャラクターばかり出てきますが、ギルが過去の世界にすぐに馴染めるように、ということなのでしょうか。アメリカ人の観客に向けて、ということなのでしょうか。オーウェン・ウィルソンとよく共演している、エイドリアン・ブロディのダリはそっくりでした。未来から来た人をそのまま歓迎できるシュールレアリストの作家たちは、現代の人々よりも進んでいます。

独特のカラー

印象派モネの絵や、ゴッホの絵を見ているような、きれいな映像でした。モネやゴッホが人物として出てこなかったのは残念でしたが、絵の雰囲気が作品に散りばめられている気がしました。アレン監督は脚本家のイメージが強いのですが、こんなのも撮れるんだ、という感じがしました。絵画、文学、映画、音楽、彫刻、すべてのアートが一体化している作品です。しかしそのどれにも監督自体が縛られていない感じがしました。ウディ・アレンは職業にたとえると劇作家だと思います。小説家でも、映画監督でもない気がします。そこが個性的で素晴らしいと思います。主人公のギルは現代人として描かれていますが、モネやゴッホ、フィッツジェラルドやヘミングウェイと、実は悩みの本質はまったく変わらないのかもしれません。最後の、今を生きた方がいい、というメッセージは、よく考えると重みがあります。今は夢のように見える人たちも、当時は現代の私たちと同じように、あるいはそれ以上に苦しんでいた。遠くから見るときれいに見えるだけなんだ、ということ。むしろ現代に生きるギルは、お金に困ることもありません。いくらでも収入を得る方法があるからです。彼が困っているのは、良い作品が書けないことだけです。昔の人の夢には、その代わりに犠牲にしたものがたくさんある。だから夢を見ることは容易いことではない。でもだからこそ、今を夢のように生きることができれば、未来にそれが確実に伝わっていく、という希望のメッセージも伝わってきました。あの頃は良かった、と言われるようになるという。現実を手放し、新しい人と出会って、歩き出したギルの背中に夢とロマンを感じました。

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4.54.5
  • NatsumiNatsumi
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