四人の出会いを描いた作品
ルパンvs次元が最大の見せ場
本作はテレビスペシャルや映画版の他の『ルパン三世』シリーズと比べても、異色の作品であろう。『エピソード0ファーストコンタクト(以下、エピソード0)』の名の通り、ルパン一味の出会いが描かれている。
単独で行動するルパン、ルパンとの決着に執着するがゆえにクールな次元、警視庁時代の銭形、舟で日本からニューヨークまで来たぶっとんだ五エ門とレアなシーンが見られる。
今作の一番の目玉といえば、なんといっても次元とルパンの対決シーンであろう。
現在は良き相棒であり、時に喧嘩し時に冗談を交わしあう次元とルパンが、激しい銃撃戦をする姿を、劇中では幾度となく見ることが出来る。また次元vs五エ門、五エ門vsルパンという争いも存在。これらも他のシリーズでは滅多に見られるものではなく、見ごたえがあって面白い。五エ門が人間離れしすぎてるのはルパンと出会った頃からだったのか……。
これらの戦いを経て、互いが互いの人となりをわかりあう、という男くささもまた魅力。銭形はギャグキャラに徹しすぎているような気がするが、これがICPOの足掛かりとなっていると思うと悪くはない。
ヒロインは次元ということでよろしいのか
それにしても気になるのが、ヒロイン不在の状況である。
まだ『ルパン三世』シリーズを観はじめて日が浅い筆者ではあるが、テレビスペシャルには必ずゲストキャラのヒロイン(女性キャラ)が登場する、というイメージがあった。
しかし今回の『エピソード0』ではヒロインが存在しない。冒頭で登場する女性記者・エリナをゲストヒロインとする向きもあるようだが、筆者はこれには納得がいかない。ルパンシリーズのゲストヒロインは、常に物語の中心にいるものと思っていたからだ。
もちろん、不二子ちゃんは登場するが、あれはあくまで「裏切り者の不二子」といういつもの立ち位置であって、ヒロインと呼べるものではない、と筆者は考えている。恋人・ブラッドの仇であるシェイドを撃つシーンなんて、か弱いヒロインというよりハードボイルドそのものだもの。
そこの謎を解く鍵が、次元の存在だ。
冒頭でルパンをライバル視した次元は、仲間であるはずのマフィア連中を押しのけてでもルパンとの戦いを所望するという熱の入れっぷりを見せつける。二人の勝負に決着がつくことはなく、その後ルパンは何度も次元を助けるが、次元はツンツンしっぱなし……という、どこのラブロマンスか、とツッコみたくなる展開になっている。
一度は断ったルパンの火付けのマッチを、ラストで次元が受ける、というのもまた素敵。うむむ、これは他のシリーズでのラスト、ルパンとヒロインの関係性そのものではないか。騒動を経て近づく二人の距離。相手が男ではあるが、ルパンシリーズの法則的には今作のヒロイン=次元ということでいいのかもしれない。異論はおおいに認めます。
作画や音楽にルパンの妙はあり
最後に、今作のルパンのストーリー以外の面について言及したいと思う。
今作の作画は、クセがなく一般的な『ルパン三世』のイメージに近いものであった、と筆者は思う。ルパンの作画は作品ごとに大きく違うが、今回の画のタッチはパチンコなどでよく知られている作画だ(おそらく、両方とも平山智氏に依るものであろう)。『エピソード0』という、新規の客を取りこみやすいテーマに、実によくマッチしていた。
特に驚いたのが背景の美しさだ。舞台となっているのはニューヨークだが、例えば街の壁や車、街灯といった小さなアイテム一つ一つがとても丁寧に描写されている。イエローキャブ、摩天楼といった“ニューヨークらしさ”に手抜きがないのだ。しかも、街の背景とルパンたちキャラクターが実によく馴染んでいる。筆者は絵の専門家ではないので曖昧な言い方になってしまうが、背景にアウトラインがないからそういった印象を受けるのであろうか。
また、音楽も素晴らしい。特に驚いたのが、ルパンと不二子が手を組み始めてからの生活がダイジェストで流れる、フランス語の楽曲が流れるシーンだ。
こういったムーディーな曲は、一般的に恋愛映画などで、二人の距離が縮まっていることを暗に示すシーンで使われることが多いだろう。
だが、このダイジェストのなかには次元が酒を煽る、シェイドが銃の練習をする、などといったハードボイルドなシーンも混じっている。後者などは、殺伐とした印象を与えるシーンだ。
それにも関わらず、この音楽を使うことによって、ゆったりとした時間の流れを感じさせる。コミカルなルパンの実験シーンも混ざり、独特のルパン感を演出している。『ルパン三世』シリーズの作曲は大野雄二氏が担当しているのだが、流石長年ルパンに携わっている方の仕事である。もう「何がルパンであるか」を完全に把握している人間の仕事なのだ。素人が口を挟む余地のない、実に“深みのある”シーンであった。
作画、音楽、設定ともども、『エピソード0』はこれぞルパンというべきシリーズ、まさしく原点なのである。
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