かわいそうの受け取り方は難しい - かわいそうだね?の感想

アキヨというモンスター

男性にとってずーっと飽きのこない女性の特徴はなんでしょう。長い交際期間を終えて一度関係をリセットしているにもかかわらず、隆大は自分自身が冷めたから終わりにした関係を再度再燃させるきっかけを自ら作り、しかし、現彼女に対してなんの配慮もない、打開策もない、自分の希望のみを押し付けて我慢させて、本当の目的はなんなのかわからなくてモヤモヤしてイライラしました。元カノを自分の部屋に住まわせて一緒に半年間も生活するなんて、隆大のアメリカナイズされた精神も習慣も関係ないと思うのですが、私があまりにも自己主張が強いのか不安になります。が、恋人の嫌なことを我を通してまで曲げないのはもはや恋人として破綻していると思います。恋人同士甘えたり寄りかかったりと時にはするかと思いますが、どちらか片方の負担が継続的かつ改善の余地がなければ、恋人という立場を悪用した一種の嫌がらせです。それを本当にわかって理解してアキヨを泊めているのか。とにかく隆大が幼すぎます。長野県に戻ってある程度の生活維持ができるようになってから東京へ出てくるべきでしょう。初めからいいところで安定した収入のある正社員の職で、かつ自分のやりたい仕事に就きたいから妥協はしたくないなんて、馬鹿にするのもいい加減にしてほしいですね。天然でやってのけるなら純粋な悪魔です。確信犯であればもうしわくちゃババアになるまでみすぼらしく生きていけばいいと呪います。三十路になってまで自分の面倒も見れずに元カレに寄りかかるなんて、どんな人生を歩んで生きて来たのか、呆れます。とにかくイライラさせられっぱなしでした。

地震から始まる書き出し

突然大都市東京で規模の大きい地震に遭ってしまったら、たくましく生き残ろうと奮闘してしまう自立した樹理恵と自分の弱さを武器にすぐさま他人の力を寄せ付けるアキヨ。そして本能的に優先順位を弱者に向けてしまう隆大。女は男に守られてなんぼの時代は古いと思います。そして、女を守ることに喜びを感じる男性も少ないですし、その逆もまた然り。か弱さは個人の能力主義へと変わって来たこの世の中では通用しません。頑張った結果弱音を言えることを否定しているわけではなく、努力もしないで他人の力を借りようとする姿勢の悪さが社会に出て行くときにマイナス面としてはたらき、アキヨは51社もの不採用通知を受けているのではないでしょうか。きっと他力本願が全面的に見えてしまっているのでしょうね。初対面では樹理恵も自分が誤解していたとアキヨ自身を認めてしまいましたが、隆大の携帯に送られてくるメールは表だけのアキヨではありませんでした。しっかりと裏の顔を持った元カノという価値をフルに利用した下心しかない女でした。しかし、自然の摂理か、そういった裏の顔を持ってうまく生き渡れてしまうアキヨの方を隆大は助けてしまうのです。もしこれで樹理恵も無職の家なし状態に陥ったら、彼は一体どうするのでしょうか。煙のように姿を消しそうですね。それほど浅はかで理性的ではない約束を頑固に守っている隆大がやはり理解できません。地震に遭った際に救出してくれるであろう恋人が私ではなく元カノを助けてしまうだろうという考察を実情を交えて展開する構成はあっぱれです。さすがです。見事です。こういう綿矢りさワールドがとても好きです。

亜美ちゃんは美人の根の深さ

どうしたって注目を集めてしまう容姿を持った人は憧れとは反対に苦労も多いと思います。妬み嫉みは当たり前。それが女の世界であれば露骨です。しかし、亜美ちゃんはそのまま自然体のままで周囲に好かれ続けます。溶け込めないわけでも、腫れ物扱いでもなく、クラスメイトの一員として彼女は絶対的な存在感を失わずに過ごせました。しかし、亜美ちゃんの影の立役者はさかきちゃんで、さかきちゃんがうまく亜美ちゃんを制御していることで成り立っているカリスマ性でした。嫌味ではなく自慢でもない、亜美ちゃんの素直な言葉を棘の一本も生やさずすべての人に届けることができるにはさかきちゃんのおかげです。きっと周囲に人は亜美ちゃんとだけ接していれば、自分の羨望が嫉妬に変わり、悪意へと形を変えるでしょう。そして亜美ちゃんを攻撃していたと思います。しかし、亜美ちゃんと比較される役目はさかきちゃんが担っています。そのさかきちゃんが居れば、クッション代わりとなり、亜美ちゃんへの羨望が嫉妬へと姿を変えることなくそのまま継続されるんだと思います。さかきちゃんにとったらたまったもんじゃないとは思いますが、さかきちゃんは自分を見失いませんでした。しっかり勉強して自分の役割を全うしました。そうして結果彼氏もできて、結婚へと道筋ができます。もう比較されることの意味も嫌味も感じません。ここはさかきちゃんを書ききってくれて嬉しかったです。このあと女のドロドロを見せられては二番煎じ。面白くありません。さかきちゃんの真っ当さが亜美ちゃんの真実の愛によって際立ち、高校時代とひっくり返っていることがわかります。しかし、不幸な人が誰もいません。きっと心理描写のない人物が悲しんでいるかもしれませんが、一応はハッピーエンドです。これから先どうなって行くかわかりませんが、亜美ちゃんは美人、奥が深い作品です。