ちょっと惜しいけど良かった - はやぶさ/HAYABUSAの感想

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はやぶさ/HAYABUSA

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映像
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脚本
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キャスト
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音楽
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演出
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感想数
1
観た人
1

ちょっと惜しいけど良かった

3.03.0
映像
5.0
脚本
1.0
キャスト
4.0
音楽
5.0
演出
1.0

目次

宇宙開発に初めて興味をつ“きっかけ”となった映画「HAYABUSA」

世界初の無人小惑星探査機“はやぶさ”。無人でわずか長径500mの小惑星に降り立ち、さらに地表からサンプルを持ち帰るという一大プロジェクトに、日本中が盛り上がる様子を当時のテレビニュースが伝えていたのは2010年のことだ。その翌年、2011年から2012年にかけて立て続けに3本ものはやぶさ映画が公開されたのには笑ってしまったが、その理由のひとつに2012年という年が「惑星イトカワ」命名の由来でもある糸川英夫博士の生誕00周年にあたるからだと聞いて納得した。

あの当時、宇宙開発のことにまったく無関心だった私は、国防の都合や何かで面倒くさそうな宇宙開発はアメリカに任せておけばいいと思っていた。日本のJAXAのことはテレビのニュースなどで何となく知ってはいたが、なんだか少ない予算で貧相な研究を続けていると、内心でバカにしていたのだ。ほんとうにすみません。いくら日本人が優秀な頭脳と技術力を有していたところで、予算が得られないのでは仕方がない。予算がないから結果が出にくい。負のスパイラルではないか。

ところが、この映画を観て私のそんな価値観はガラリと変わった。星空の観察が大好きな、当時まだ小学生だった長女を連れて劇場に見に行ったのだが、彼女は現在、工学女子を目指して猛勉強中であり、同じクラスには将来JAXAで働くことを夢見て頑張る男子生徒もいる。ある発表の場で、これからの宇宙開発は日本が先頭に立って担うべきだと彼は言った。

はやぶさという名前について

日本の宇宙開発に対して無知であるが故に偏見のあった私がこの映画に注目した理由は、糸川博士の存在だった。戦後、貧しい環境の中でペンシルロケットを開発した人であることはテレビの特番でも見たが、宇宙探査機にはやぶさという名前は不自然だと思い、糸川博士について少し調べてみた。驚いたことに、日本宇宙開発とロケット開発の父と称される糸川英夫博士は、戦前に旧日本陸軍の一式戦闘機「隼(ハヤブサ)」や、二式戦闘機「鍾馗(しょうき)」の開発に携わった人なのだ。

映画の中でも語られているが、糸川博士の戦闘機と名前が一致したことは単なる偶然で、実際の名前の由来はサンプルリターンの一連の動作が、猛禽類のハヤブサに似ていることから来ているらしい。また隼という漢字の形態が、太陽電池パネルや下に伸びるサンプラーホーン、太陽電池のパラボラアンテナを持つ探査機に似ていたことにもよるらしい。関連のサイトによると、当時の研究者が移動に使っていた列車がはやぶさだったとの情報もあり、時代に関係なく日本人が好む名前なのかと興味深く感じた。

とにかく、予科練(海軍飛行予科練習生)の生き残りだった祖父と同居していた関係で、中学生のころから旧日本軍のプチヲタだった私にとって、これはすごい発見であり、この小惑星探査機に「はやぶさ」という名前を付けた人に強い親しみを感じてしまった。一式戦闘の「はやぶさ」は、海軍航空隊のゼロ戦と並ぶ陸軍を代表する戦闘機で、連合軍からはコードネーム「オスカー(Oscar)」の名で恐れられた名機だ。当時、日本の戦闘機は本当に優秀だったらしい。最後は特攻機として、しかも尊い命とともに散ってしまったことはすごく残念だ。

はやぶさの帰還に泣く

最後の仕事として「はやぶさ」に送られたコマンドは、研究者たちが長い時間を共にした探査機に抱く愛着を表す感動のエピソードだ。そしてはやぶさから送られてきた、涙で滲んだような地球の映像。そして地球に帰ってくるラストシーン。自らは燃え尽きてサンプルだけを地球に届けるという、こんな美しいドラマに勝る締め括りが他にあるだろうか。あの後にどんな物語を持ってきても、かすんで見えたことだろう。実際、オーストラリアの砂漠に落ちたカプセルを回収してからのドラマの展開はちっとも覚えていない。

私自身、2010年にはやぶさが大気圏突入した時はほとんど関心がなかったために、ほとんど当時のことが記憶に残っておらず、おかげでこの一連のシーンをすごく新鮮な気持ちで観ることができたのだが、誰もが感動の涙で迎えるこの場面で、やはり私は一式戦闘機と搭乗員のことを考えずにはいられなかった。

あの時代のはやぶさは往路の燃料だけを積み、任務を全うしても戻ってくることを許されなかったが、現代のはやぶさは全国民が祈るような気持ちで帰還を待ち望んでいた。そのことにとても感動し、偶然にもこの小さな探査機に「はやぶさ」という名前を付けられたことに、何か因縁のようなものを感じないではいられなかった。そして実際には、はやぶさ本体は地表に到達することなく燃え尽きてしまう。そんな儚さもやっぱり「はやぶさ」そのものだと思った。

サイテーな演出で気が散る

糸川英夫博士の志を受け継いだ科学者たちが、精魂を傾けて宇宙へ放った小惑星探査機はやぶさの物語。私は少し期待しすぎてしまったのかもしれない。こんなドラマチックなモチーフを、なぜこんな陳腐な演出で台無しにするのかと心底ガッカリした。脚本・演出には悪意すら感じる。

どうしても「はやぶさ」を擬人化しなくてはならない理由があったのなら、もうすこし考えてほしかった。この映画のキャッチコピーは「あきらめない勇気」だが、この演出からは観る者の感性をまったく尊重していない作り手のセンスのなさを感じる。この映画を通して知りえたリアルな情報を糧に、それぞれの心の中に膨らむ思いを、この変な押し付けキャラクターが蹴散らす。なぜJAXA公式サイトの“はやぶさくん”に近いキャラクターを採用しなかったのか。一人称が「僕」なのも、どう考えたって変だろうに。

竹内結子演じる水沢恵が広報スタッフとして子供たちにわかりやすく説明するシーンから、幅広い年齢層を意識して作られた映画だということは分かったが、それにしてはスイングバイをはじめとする他の説明は少し長く、様々な大人の事情も難しかった気がする。さらに水沢恵が宇宙研究を志す動機として、幼くして亡くなった兄の存在が描写されているのもどこか取って付けたようで白々しかった。ちょっと変わった女子を表現したかったであろう水沢恵の“アブナイ”キャラは完全に浮いており、元々どうでも良いスタンスにある“亡き兄の遺志”が、その微妙なキャラによってますます軽く漂流する。

劇場で見て良かった

全体としては、主演の西田敏行が実際の的川泰宣氏にそっくりだし、川口淳一郎氏役の佐野史郎もそっくりで、感情移入が楽だった。fumikaの歌うテーマ曲「たいせつな光」も良かったと思う。小さいころからミュージカルの舞台に立っていたというだけあって、どこか温かみを感じるボリュームたっぷりの歌唱力だ。この映画を通して初めて知り、はやぶさの公式サイトで小柄なビジュアルから繰り出すパワフルな歌声をしばらく楽しんだものだ。糸川博士のペンシルロケットから始まり、日本の宇宙開発の歴史を綴るエンドロールも感動的で良かった。日本が地道に積み上げてきた歴史を垣間見て、いい年をして、自分は自国のことを何も知らないのだなと恥ずかしく感じた。

それまで何も知らなかった技術者たちの立場や、心情を少しだけでも垣間見られたことで、それまでの間違った認識を改めることができたのはこの映画のおかげだ。三番目の「おかえりハヤブサ」は論外として、2012年2月公開の「遥かなる帰還」とどちらを観るか迷ったのだが、サムライにしか見えない渡辺兼が主演と知ってパス。あとでDVDを借りて観たが、はやぶさの技術的な知識を得るうえで助けになった。少ない予算でこれだけのことができる日本の技術者が報われる日が早く来てほしい。そんなわけで、いくら演出がダメダメでも、私にとってこの一連の映画はふたつの「はやぶさ」へのオマージュとして深く心に残る名作だった。

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