誰へのレトラとなるか - 鉄楽レトラの感想

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鉄楽レトラ

4.634.63
画力
4.38
ストーリー
4.50
キャラクター
4.38
設定
4.63
演出
4.25
感想数
4
読んだ人
6

誰へのレトラとなるか

4.54.5
画力
4.5
ストーリー
4.5
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
4.5

目次

鉄宇の、レトラ

タイトルの「鉄楽レトラ」を一目見たときに、その意味がわかった人はほとんどいないのではないのだろうか。「鉄楽」は主人公の名前の一文字を当てた造語だし、後半の「レトラ」はフラメンコで歌われる歌【カンテ】の歌詞【レトラ】という意味のスペインの音楽用語である。スペイン語かフラメンコに知見がなければタイトルからどのようなストーリーなのかわからないが、本作の表紙はそれぞれ躍動感のあるイラストで装丁されていてスペイン舞踊の世界へ入っていく予感を感じさせる作りになっている。

人の人生を変えてしまうほどの人間ってどんな奴だろう

いったいどんなストーリーなのか想像もできないままタイトルの「楽」の文字に引っ張られて読み進めていくと、主人公の男子高生鉄宇【きみたか】くんが、ひょんなことから自分のバスケシューズと引き換えにヒロインの赤い女性用フラメンコダンスシューズを手にし、フラメンコの世界に入っていくというお話。主人公のバスケシューズをもらったヒロインの藤本さんも、ゆずったフラメンコシューズと引き換えにバスケを始めるのだけれども、この二人は本作の主人公とヒロインでありながら、第1話目でお互いのあきらめてしまった夢を託したシューズを交換して以降それぞれの新しい夢をかなえる最終巻になるまで言葉を交わすことはない。

しかし、主人公鉄宇くんとヒロイン藤本さんは最終巻で再会するまでの間も、ストーリーの中でまわりのいろんな人を通じてつながっている。藤本さんのおばあちゃん、鉄宇君の妹の銘椀やおじいちゃん、学校の友達の友達つながりなど。そのつながりは決して偶然のつながりではなく、主人公のまわりの登場人物も一生懸命に生きて頑張っていることで、主人公とヒロインの間の思いがつたわっているということが丁寧に描かれてる。

本作のストーリーの中で描かれる「人の人生を変えてしまうような人間」はけっして全員が夢をかなえる強い人物ばかりではない。例えばちょっとボケてしまった鉄宇くんのおじいちゃんなど、ボケて孫の活躍を純粋に喜んでいたことで、鉄宇にバスケ部の藤本さんの記事に気づかせてくれている。何をいわんや、バスケの夢破れて布団にこもっていた主人公鉄宇自身が、そんな兄を見かねた妹の銘椀に無謀な行動をとらせて顔に消えない傷跡をおわせてしまうほどの人間なのである。けっして強くない人間が周りを変えてしまうような影響を与えているところもこの漫画にナチュラルな現実感を持たせているポイントだと思われる。


守られている事も知らずに自惚れている自分は…もう嫌ですっ!!

鉄宇君は、妹銘椀が兄を思う気持ちから自分のためにとった行動で顔に傷を作ったのを知ったことで無くした夢から立ち上がらなければいけないことを悟る。自惚れから壊してしまったバスケの夢と交換した、赤いフラメンコシューズを履いて全力で生きる道を進むのである。
主人公鉄宇君が失ったバスケの夢からの立ち直りのきっかけと、新たな目標へのきっかけがそれぞれ別の人物から与えられているのが、鉄宇君の気持ちの機微を繊細に描きだす良い骨子になっている。

フラメンコシューズと傷跡

鉄宇君が過去の過ちで失ったバスケの夢の代わりを見つけるきっかけとなったのは、藤本さんと交換した赤いフラメンコシューズであった。だが、その新たな夢を追いかけて全力で生きていくきっかけになったのは妹の銘椀の存在が大きいのではないだろうか。


泣き笑い懸命に生きる君に恥じないよう
僕は全力で日々を楽しむ
いつでも君に会いに行けるよう

最終話で、鉄宇君はフラメンコに自分のレトラを乗せて、藤本さんに会いに行けるように懸命に生きる君に恥じないように全力で楽しむと踊りあげる。失った夢をお互いに交換したもの同士として、藤本さんがバスケの試合でめげそうになっているときにエールを送ったのだ。二人の新しい夢の走り出しを支えたお互いの靴は役目を終えてしまったけれど、追いかける夢はこれからも続いていくだろう。新たな夢へのきっかけであるお互いのシューズがなくなっても、もうこの二人は夢をあきらめないこと、すべての失敗も乗り越えていける強さを身に着けているようにみえる。鉄宇君も藤本さんもバスケもフラメンコも二人ともできるようになったので、同じ舞台に立つこともあるかもしれないと匂わせているところもある。
バスケの失敗から布団をかぶっていた鉄宇君の人生をここまで変えてしまったのは、兄のバスケの失敗の始末をつけようとして顔に傷を負い、鉄宇に一度は引き返してしまったフラメンコ教室の門をついにはたたかせた妹の功績がおおきいのではないだろうか。

第一巻のカラー中表紙に書かれている「人の人生を変えてしまうほどの人間て、どんな奴だ?」の答えは、鉄宇君にとっては新たな夢を示してくれた藤本さんよりも先に、なくした夢から立ち上がることを教えてくれた妹の銘椀ちゃんなのかもしれない。

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  • ひろひろ
  • 179view
  • 3930文字
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4.54.5
  • betrayerbetrayer
  • 167view
  • 3083文字

甘酸っぱい気持ち

鉄楽レトラを読んでまず思うことは青春の甘酸っぱさだと思われます。学生時代を今振り返ると、やり残したことや、後悔してることがたくさんあります。そんな前に進みたいけど1歩が踏み出せない…もどかしい思いをこの漫画を読んで思い出しました。主人公や、その周りの人みんなが何かしらの苦悩を抱えていて、それを誰も理解してくれないと思い込んでしまって…私も学生時代そう思ってました。でも大人になって思い返せば、きっと誰でもそんなことなかったなと思うのではないでしょうか。私が心にグサッと突き刺さった言葉があります。それは「あの日…あの人に会えて良かった」というフレーズです。登場人物みんなが、何かしらのコンプレックスを抱えてます。それを受け入れてくれる人に出会えた時に、人生はきっと180度大きく変わるのかなと感じました。自分に置き換えても、周りでさえも、やはり大小関わらずにコンプレックスはあると思います。それと上...この感想を読む

4.54.5
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  • 94view
  • 507文字

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