ホラーであり真実のお話 - 東京タラレバ娘の感想

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漫画レビュー数 3,135件

東京タラレバ娘

4.384.38
画力
3.63
ストーリー
4.00
キャラクター
4.38
設定
4.38
演出
3.75
感想数
4
読んだ人
6

ホラーであり真実のお話

4.04.0
画力
3.0
ストーリー
3.0
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
3.5

目次

これはホラーだよ(確信) 

東村アキコは恐ろしいものをこの世に生み出してしまいました。

この世に生まれて30年余年。守りに入りまくっているアラサー女たちだったが、彼女たちの理想――タラレバを切って捨てる若い男・KEYの登場により、人生の危機を迎える――いや、“迎えていた”ことに気づかされる。

ようやく自分たちの立場に気づいた親友三人の、己のプライドと、人生と、結婚願望との板挟みにあいながら、自分なりの幸せを見つけるための奮闘記。そんな風に筆者は『東京タラレバ娘(以下、タラレバ)』を解釈しているが、はっきりいってこの漫画はホラーだ。

もともと東村アキコは“ぶっちゃけ”漫画の申し子である。誰もが突かなかった痛い思い出や痛い立場をコミカルかつセンセーショナルに描き、世の話題をかっさらう。

だが、これは本当に思い当たる節がある人間からすれば、KEYの指摘はセンセーショナルどころではない。たぶん、アラサー独身女性が読めば、どこかしこで「ウウッ」とうめきたくなるのではないだろうか。筆者は初見でKEYの正論が痛すぎて本を読むのをやめたくなったほどである。

「30すぎて夢見がちすぎ」「チャンスがピンチなのは若いうちだけ」「あんたらは女子じゃなくてオバサン」などなど……もうタイピングするのも辛くなってくるような暴言(名言)の数々。うっさいんじゃボケ!!と本を投げたくなる気持ち、わかりますよね?

時に「鬼畜」とまで言われるほど、KEYを通した東村アキコの言葉は真実を突いている。それはまだ2016年8月現在、既刊5冊にも関わらず、『タラレバ』への反響が大きいことにも表れているだろう。

理想と“真実”の狭間で~女はつらいよ~

では、『タラレバ』がどれほどアラサー独身女の“真実”をついているか、解説していこう。

まず、アラサー独身女である筆者の私見を挟ませていただく。同世代ということもあって、筆者の周囲には同じくアラサー独身女が多い。ゆえに、友人知人である彼女たちの性格傾向はよく知っている。手前ミソだが、このあたりの分析技術には筆者はかなりの自信を持っているので、傾聴して頂きたい(ちなみに、結婚願望がある人に限るので、独身主義の方は素通りして頂きたい)。

アラサー独身女と一口に言っても、タイプが分かれる。まず実家親同居か別居か、これまでに彼氏がいたか彼氏がいないか、アフター5の過ごし方の傾向(直帰型か遊んで帰るか)、などなど。更に月にいくら貯金しているかでもタイプが分かれる。

まず、一番マズいのは実家親同居・彼氏なし(あるいは一度だけ付き合ったが、それ以降はほぼなし)・仕事終わり直帰型。貯金が7桁届いているとなれば、更にヤバい。

何故マズいかというと、結婚願望はありながら何も行動していないからだ。まさしく、「いつか素敵な男性が自分の前に現れてくれる」という夢見がちな最悪のタラレバ娘。KEYの発言をよく見直して、もっと外に出ましょう。もし友達やネットの話だけで男性・恋愛について知ったふりをしているならやめましょう。

次に別居・恋愛関係豊富・遊び歩き多めのタイプで貯金がほとんどなし。ドラマやレディコミが好きで、恋に恋するタイプ。結婚願望強めですが、わりと自分の都合で恋愛を進めるクセがあり。積極性はあるが、ゴールまではたどりつけないタイプだ。人生は漫画やドラマではありません。男に自分の価値観を押しつけすぎるのはやめましょう。

最後に親と同居経験長し・恋愛経験そこそこ・貯金7桁近く・プライド高し・仕事終わり直帰が多いが友達と出かけることもよくある中庸タイプ。このタイプは知的で人生設計をちゃんとしている(つもり)の女性だが、頭が良すぎるゆえに、「堅すぎる」「つまらない」「気難しい」という男から恋愛対象になりにくいという欠点を持つ。特にこのタイプが厄介なのは、「俯瞰して物事を見る」恐ろしさだ。

『タラレバ』の作中で倫子たちが野球でスタンバってる比喩があるが、このタイプは常にコレ。世の中を知っている顔をして、危険地帯に踏み込まないズルさを持っている。これでは恋愛や結婚まで踏み出せない。ゆえに独身。やや姉御肌で、友人との絆が強すぎる特徴もあります。友達のアドバイスを信じすぎるのも問題です。たまには新天地に飛び込んでみては。

……と、このようにアラサー独身女について分析をしている(もちろん、もっと色々傾向がわかれます)。

これはもちろん筆者独自の分析だが、東村アキコのキャラクターは、取り挙げたようなアラサー独身女のタイプと見事に合致している。最初のタイプは小雪、次は香、最後は倫子だ。

作者・東村アキコは人間観察がクセだと『かくかくしかじか』にもあったように、観察力にかけては漫画界随一といってもいい。『タラレバ』に出てくるアラサーの設定・人格・行動はそのまま、現実の女性の等身大を映していると筆者は考えている。

つまり、倫子たち三人は、漫画のキャラクターでありながら、筆者のような片田舎の人間の周囲にもいるような、「どこにでもいるアラサー独身女」なのだ。

ゆえに、KEYの毒舌やタラレバくんのアドバイスは、そのまま東村アキコが「世の夢見がちなアラサー独身女」に送る“警告”と置き換えられるのである。

『タラレバ』は漫画の形を取った、よくコンビニとかで置いてある怪しげな出版社の「実録! アラサー独身女の日常!」みたいなものだ。アラサー独身女たちよ、『タラレバ』を見て私と共に怯えましょう。漫画本でビンタされた気持ちになりますよ。あぁ恐ろしい。 

フェミニズムとの狭間で~“結婚が絶対”ではない~

さて、では女性向けに恐ろしい考察をしたところで、いまいちこれまでの話にピンと来ないであろう男性向けに一つ述べたい。

それは、この漫画が示すフェミニズムの問題だ。

先ほどから何度も述べているように、『タラレバ』は「どこにでもいるアラサー独身女の実録話」なのであるが、男性諸君からすれば「なぜここまで女は結婚に執着するのか」と思うであろう。『タラレバ』は全員が全員、結婚を目指す女性たちばかりが登場するので、不思議に思うに違いない(これは『タラレバ』が決して万人向けになりえない弱点ともいえる)。

『タラレバ』の女性たちは、みんな社会的にある程度成功を収めている。いや、アラサー独身女のほとんどがそうだ。結婚願望を持ちつつも、貯金と世間体と出会いのために働いているので、社会人としてしっかり生活出来ている人がほとんどだ。ゆえに、世の男性諸君が思っているように、「人生楽したいから」「専業主婦になりたいから」といった理由で結婚を望んでいる女性はあまりいないはずだ。『タラレバ』の女性たちも、そういった金銭的勝手から結婚したいと思っている人はいなかったように思う。

では、なぜ女性は結婚したがるのか――。

それは、孤独感が原因なのである。

職場に置いて、女性は男性が思っている以上に孤独だ。なぜなら、男性のように学生時代からの「縦社会」に慣れている訳ではなく、「横社会」で精神的安定を得ることが多いからだ。

男性に比べて出世する機会がなく、先輩も後輩も立場はほぼ同じになることも拍車をかける。上に信頼出来る立場の女性がいないということは、会社への希望も通りにくく、一方的な不満がたまっていく。

また、出産や育児で会社を離れる女性が多く、縦のつながりを作りにくい、というのも原因になっているだろう。

結婚や出産でいつ消えるかわからない同僚。会社に詳しい女上司不在。エスカレーター式に昇進する男性と違い、給料も立場も上がらない……こうした状況は、働く女性たちを孤独にしているのである。

特に『タラレバ』の女性たちは、いずれもフリーランスだ。倫子や香は自営業、小雪も家事手伝いのようなもの。ある程度金はあっても、社会的孤独は会社勤めよりも厳しい。

そんな中で、心を許せる相手を見つけるという行為は、彼女たちにとって「帰れる家がある」というのと同じ意味を持っているのだ。

もし、女性の結婚の執着をあざ笑う者がいたとしたら、よほど精神的にゆとりがある人か、能力があって社会に大きく認められている人か、世間知らずのおたんちんだけだろう。

彼女たちは、付き合う男性の後ろに、安心できる“居場所”を求めているのである。

家路につこうと必死で走る人を、誰が笑えるだろうか。

どうか彼女たちに対し、「男に飢えている」「金が欲しいだけ」などと、誤解しないでほしい。そう心から願う。

『タラレバ』は女性にとって禁断の経典であるように、もしかしたら、男性が持つ女性へのイメージを壊してくれるキッカケを作ってくれるかもしれない、と筆者は期待している。

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アラサーという言葉も逃げ道のひとつであるメモ:今、実写化で注目を集めている東京タラレバ娘。埼玉の川越市で生まれ育った女子(とは言い難い)3人組の恋愛や仕事での紆余曲折を描いたマンガである。自称アラサーの3人が毎晩のように繰り広げる女子会。会話の中身や口調など、本当によく描かれていると思う。とにかくお酒の飲みっぷりがいい!わたしも缶ビール片手に読み進めたのだが、シラフでは読んでいられない。今年27歳のわたしももうアラサーの一員なのだが、読んでいるとグサグサと胸に突き刺さる言葉がたくさんあるのだ。『20代あっという間に過ぎていったが、30代はその倍速で坂を転げ落ちるように過ぎていく』と。あるディレクターの女性が言っていたのを聞いて、主人公の倫子は驚愕。私たちにはもう時間がないのだと思い知らされる。わたしも同じく驚愕した。これから先、そんな恐ろしい時間の流れが待ち受けているとは。そしてKEYというイケメン...この感想を読む

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