ロボットとの愛
ロボットと人間のかかわり
この作品では、これまで幾度となくSF映画やSF小説で扱われてきた主題である「ロボットと人間」が焦点化されています。たとえば、日本の作品では「鉄腕アトム」や「攻殻機動隊」がこの主題にあたる作品として言及されることが多いです。海外の作品では、「ターミネーター」など映画だけでなく、ドラマ化されているものもあります。最近では、日本で2016年公開の「エクス・マキナ」がロボット(人工知能・AI)を主題化しているものとして有名です。「her」もこれらのSF作品の系譜の中で生まれたものと言えます。
人工知能の未来
「her」の特徴として、ロボットが「身体」を持たないという点があげられます。現実に存在する女性を雇って肉体関係を築こうとするシーンは、サマンサが「身体」を持たない為にできる行為です。人間のような身体を持たない人工知能として、アップルの「Siri」というサービスはサマンサに似ているサービスだと言えるのではないでしょうか。「Siri」を愛してしまう人間はまだいないと思いますが、近いうちに技術としては可能になると言えるでしょう。
人工知能の精度
セオドアとサマンサの間に亀裂が走るシーンとして、サマンサがほかのサービス受給者とも同じような関係性にあると伝えるシーンがあります。ここで、セオドアはお互いに愛し合っていると思っていたのに裏切られたと感じます。ただ、このシーンに関して、もしも人工知能がその人間の感情をも予想して、ほかに連絡している人間のことを「あえて伝えない」選択をとるならば、この裏切りが起きることもありませんでした。すなわち、このシーンは人工知能の精度が高ければ起きえないシーンであったと言えます。セオドアはお互いに愛し合っていると感じ続けることが可能でした。ストーリー上の一貫性を考慮すれば、どうなのかと疑問に思う点でもあります。
愛とは何か
人間がロボットに対して「お互いが愛し合っている」と想定することが可能であり続ける場合、この映画での問題は①サマンサが「ロボット」であるという属性的な問題と、②サマンサの「身体」がないという問題の2点になります。①は家族や周りの人に紹介するときに大変だという点があります。セオドアの元奥さんが怒っていた点もこの問題ですね。これは人間が属性(人種・出自・職業等)を通してでしか、相手のことを見ることができないので仕方がない点でもあります。②はラブドールの存在や人型ロボットの進化を考えると克服可能ですね。つまり最終的に問題となりうるのは、①のサマンサが「人間」ではなく「ロボット」であるという属性上の問題であり、これを克服するには「人間」が「ロボット」と相思相愛になりうると想定されている社会を作らなければないのです。
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