食うと食われるを考える。答えはないかもしれない - 寄生獣の感想

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寄生獣

4.634.63
画力
4.13
ストーリー
4.63
キャラクター
4.38
設定
4.38
演出
4.13
感想数
4
読んだ人
21

食うと食われるを考える。答えはないかもしれない

4.54.5
画力
4.0
ストーリー
5.0
キャラクター
5.0
設定
4.5
演出
3.5

目次

手に入れた力

右腕が寄生生物に食われて共棲状態に陥る。その代わりに最初は要らないと思っていた「力」を手に入れ、新一はサブパーツという形で戦いに身を投じていく。僕だったら右手がミギーになったら大歓迎だ。何だか便利に使えそうだし、理知的な話し相手にもなる。ミギーは僕の理想の男性像だった。アニメで平野綾だと発表された時懸念を覚えたが、実際観てみると勇ましくて賢い素敵なミギー像ができあがっていた。ところが新一はこのファンタジーに拒絶を覚え、価値観の違いに直面する。新一は若い感性で寄生生物を単純な殺人鬼と考える一方で、ミギーは保身のことが第一で、人類と寄生生物に差があるとは考えていない。新一にとってミギーは右腕と引き換えに手に入れた、話す武器、呉越同舟のコバンザメだ。

何故、何故と考える

新一は思いがけなく、人類と寄生生物の中間の存在にされてしまった。そして武器を手に戦う、本体は最初無力な、むしろ足を引っ張る戦闘員になる。田宮良子(田村玲子)との出会い、島田との戦い、等々、単純な生き物のはずが実に個性豊かな寄生生物と出会い、敵対したり睨み合ったりする中で、新一は人類はどう、命はどう、寄生生物はどう、と謎をとくことを余儀なくされる。本編ではそんなに描かれていないが、自分のあり方やそれぞれの個体のあり方について何度も悩んだはずだ。自分の母親に関することも。寄生獣という作品は理知的な一作だ。食うと食われるの敵対と共棲について書いた、人類、生物永遠のテーマを含んだ、一つの答えにたどり着く物語だ。新一というキャラがあっけらかんとしたり深刻だったり悟ったりしながら、物語の末に出す答えは最終的ではない。当然だが、そんなものに答えはないからだ。でもいつか悟るかもしれない。だから考える。

あっけらかんと

この作品のキャラの表情は、よくよく見るとなかなかに味わい深い。ほけーっとしていたり、うわっと驚いていたり。表情をどう書くか、本心の表れを書くのか仮面を書くのか、漫画家に突きつけられる継続的な課題だが、この作品を見ていると、何だか寄生生物の見えざる感情が感じられてくるような気もする。小さな表情、大きな表情、その振り幅を人類と寄生生物に振り分け(三木というイレギュラーも含め)、ふと作品全体を思い返すとき、そこにあった数々の人類・寄生生物たちの表情と感情に愛着が湧き、何かに寄り添い生きた、という命への慈しみが発見される気がする。

頭脳の称賛

基本的に戦いは頭脳プレーである。新一とミギーは真新しいシチュエーションに対応して工夫を編み出し、うまく隙を突くように戦って勝利を得ていく。ここでも考える、ということの価値が重く描かれていて、生き抜くには頭を使え、という例示をしているかのようだ。田村玲子は言う。人間は一人ひとりを見るとか弱く見えるかもしれない。しかし寄り集まって一つの巨大な脳を持っており、その脳に逆らった時、寄生生物は敗北する。この「巨大な脳」という比喩は僕にはあまり実感できないが、人間の強さは集団の強さである。東京スカイツリーは一人の人間を見てもとても建てられそうにない。一軒の家でもそうである。スティーブ・ジョブズもビル・ゲイツも巨大な脳の一部として生き、死んでいった。一人では手を焼く野生の熊でも、自衛隊が出動すればひとたまりもない。この集団の力を、田村玲子は思考の結集点たる頭脳のように例えた。考える寄生生物、田村玲子らしい、敵を尊敬する彼我戦力の冷静な分析である。

答えはない

結局のところどうなの?みたいな「寓喩=意味」を求めてはいけない。比喩されているのは食うと食われるの敵対と共棲という設定だけであり、人類をもう一度被食者にしてみようというささやかな実験である。結局敵は小さかった。結論としては愛すべき強敵(とも)だった、みたいな北斗の拳みたいなことになるのだろうか。「生きる」という戦いを繰り広げたライバル同士。世界がサバンナに変わった短く、小さな混乱。その結果としてミギーが口にする、余裕のある生物、という人類への讃歌。僕はこれはうまくない比喩だと思う。害をなす者同士の呉越同舟・同床異夢は、人類の歴史においても、生物全体の歴史においても、永遠の課題であるか、さもなくば創世記にすでに解けている謎なのだ。

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他のレビュアーの感想・評価

シンイチとミギー

空から、あるいは宇宙からやってきた謎の生き物が人間の脳に寄生して完全に体を乗っ取ってしまうという怖ろしい内容で始まる作品です。乗っ取られた人間は頭部が完全に規制されてしまい脳や頭蓋骨などは残っておらず、頭部は完全な寄生生物となってしまいます。しかもこの寄生生物、頭を自由に変形することが出来、それによりライオンを殺したり……人間を食べてしまいます。そんな中、寄生生物に狙われたものの運よく起きていたため頭部への侵入は避けられた主人公の少年、シンイチは翌朝自分の右手が寄生生物と変化していたことに気づきます。その右手の寄生生物「ミギー」とシンイチによる、他の寄生生物たちを相手にする物語が始まるのです。この作品は寄生生物が人間を食べてしまうシーンをぼかすことなく直接的に描いているためグロテスクなシーンも非常に多いです。しかしながらただのグロ作品に終わらない重厚な内容は名作と呼ぶのにふさわしく、自...この感想を読む

5.05.0
  • kurioukuriou
  • 119view
  • 415文字

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