残穢レビュー
妙な現実味
都内のとあるマンションの住人やその周辺の人々に起こる奇怪な出来事。それは長い年月の間にその土地に関わった人間達の穢れが積み重なり、今そこに住む人々の前に現象として表れていた。日本古来からある「穢れ」という考え方を取り上げ、フィクションであるにも関わらず非常に現実味を感じさせる演出で読む人を奇妙な恐怖感へと誘う。読んだ後にはこの本からその残穢が自分の家に移ってしまうのではないかというように、本そのものさえも恐怖の対象になり得る。その妙な現実味がこの本の肝なのだと思う。
気持の悪い恐怖感
残穢は霊が出て来てなにかをするというようなよくあるものではなく、ほとんどが「音が聞こえる」とか「何かが見える」とかいったものである。それでも読みながら、家のきしむ音や何かの物音に奇妙な恐怖感を抱き、この家、この土地もなにかあったのだろうかと思ってしまう。作者の非常に細かな文章描写が時には説明的なでもあるが、はっきり言ってしまえばなんてことのない残穢を完全なホラーとして読者に感じさせる。というのも「穢れ」は我々にとって現実的なものでありそれは鬼ごっこや縁がちょといった子供の遊びにも残っている。その穢れが何か悪さをするわけではないが、「なんだか気になる」。この「なんだか気になる」というところが読者の共感を恐怖に引き込むのだろう。穢れの積み重なりの歴史をたどり、その土地の歴史をたどって話は展開していく。ただ読者を怖がらせるのではなく、読者も一緒に残穢を体感し主人公達と共に残穢を解明し、本から離れたときに自分の家やその土地の歴史やあるかもしれない穢れにふと思いいたる。読んだ後もじわりじわりとにじみ出るように恐怖を感じさせる。
結末が物足りない
日本独特の「穢れ」を題材として独自のホラーを展開であるにもかかわらず、話の落とし所としては話すだけでもはばかられるという九州の大怪談が本となっていたというのが何とも拍子抜けであった。この結末を除けば、とてもオリジナル性のある作者にしか書けない「残穢」というジャンルにさえなりうる話であると思う。しかし、結末は大怪談だったというのは独特の世界観に水をさすように感じる。かといってどんな結末であればよいのかははっきり言えないが、ある意味では、主人公達の残穢の歴史をたどる行為の限界として大怪談を取り上げたのだろうと思う。穢れは人々の関わりの中で生まれるものであり、歴史の中で穢れは残り、増えていく。それをたどることはキリのないことであるから、話のけじめとしてこの形になったのだろうが、それまでの物語の密度からして、読んでいた者としてはなんとも物足りなく、唯一残念な点である。
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