実話であるというおもしろさ - 残穢の感想

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残穢

4.504.50
文章力
4.25
ストーリー
3.00
キャラクター
2.75
設定
3.75
演出
5.00
感想数
2
読んだ人
3

実話であるというおもしろさ

5.05.0
文章力
4.5
ストーリー
3.0
キャラクター
3.0
設定
3.5
演出
5.0

目次

「怖い」より「気持ち悪い」

映画化もされたホラー作品「残穢」は、フィクションではあるが、元は作者宛に送られてきた実際の手紙が元になった話だ。この「残穢」は、もう一冊の「奇談百景」とセットになっているので、100%楽しみたい方はこの2冊を読まなければならない。そして、この「残穢」の怖さが倍増する仕掛けになっている。全体を通して感じた感想は「怖い」よりも「気持ち悪い」という印象だ。いわゆる誰か特定の人物が呪われる、建物が呪われている、ということではなく「呪い(怨念?)は感染するよ」という話だからだ。事故物件に住む、自殺現場に居合わせる、心霊スポットに行く、という直接的な接触がなくても、面倒な怪異に巻き込まれることがある、ということで平和に暮らしている我々も例外ではないことを知る。怪異の真相がわかってスッキリするかと思いきや、真相が分かって余計にもやもやする感じが、またたまらない余韻である。

ホラーというよりもジャーナリズム

小説家というのはそういうものなのかわからないが、真相を知るまでの長い道のり、調べる様子が妙にリアルで、ジャーナリズムのようなものを感じる。通常、ホラー関係にここまで調べる必要があるのか、という感じだが、執念深くしっかり調べる様子が滑稽でもあり、モノ好きの趣味というか、面倒なことをするなあ、という印象だ。通常、本来なら、怪異が現れた時点で調べることはせず引っ越してしまうものである。ところが、この作品に登場する人物は、その怪異の原因を調べるというありえない行動に出る。元々ホラーが好きな読者と作者であるからわからなくもないが、どこか自分の置かれた状況を楽しんでいる節がある。しかも、長期間にわたり取材を続けていることから「そもそも題材なんてなんでも良くて“知りたい”という興味が先にあるんじゃないか?」とさえ思う。知りたいのは怪異の原因でなくても、誰かが落とした髪飾りの持ち主を探す、ような感じに似ている。そのため、ホラー作品ではあるが、題材こそ違えどどこか推理モノ、ミステリー、ノンフィクション作品、のような感覚で読み進めていくことになる。

恐怖は身近にある

「残穢」を読んでいると、恐怖をより身近に感じる。普段であれば「オバケなんかいないよ」という感じであるが、自宅にはいなくても隣の家にいるかもしれないし、自分は感じていないだけで実は家にいるかも、という感じに思えてくる。おそらく実際にそうなんだと思うが、怪異に遭ってしまう人は一種のアレルギー体質のような感じで「敏感に察知してしまう体質」ゆえに怪異に気づいてしまうのであって、そうでない人はなんの影響もないまま生活していくことができる。それそのものは悪いものではなくても、人によって「わかる人、わからない人」がいるのは、そういうことなんだろう、と考えさせられる。マンションは事故物件ではない。ただ、その土地にいわくがあり、入居した人の中には敏感に察知して怪異を体験する人が出てくる。さらに、マンションから越していった人も転居先に怪異を持ち出してしまう、という連鎖がある。つまり、生きている限り「一切いわくのない場所に住む」のは不可能であって、誰も怪異から逃れることができない、ということが作品のメインディッシュだ。飛び出す絵本、というのがあるが、それでたとえるなら「飛び出す怪異本」という感じで、よみごたえがある。

小野不由美のエッセイ的な雰囲気

この作品の主人公は作者である。つまり、フィクションの形をしているが、語り手であり体験者は小野不由美本人ということになる。映画ではこの役を竹内結子が演じた。作中には実際に存在する作家の平山夢明や福澤徹三も出てくるため、ほぼ実話作品と言ってもいいだろう。ホラーファンにはお馴染みのメンツが揃っていることもあり、小野不由美の私生活の端々が垣間見えるのは魅力的だ。とくに小野不由美の実話怪談を追いかけている読者には興味深い。具体的にどういった部分がフィクションかと言えば、マンションの名称や関係者の名称、土地のことなどを詳しく書けないため、仮名にしてある点だろうか。つまり、物語の本筋や結末に関しては、やはりノンフィクションなのである。その点が、どこかエッセイ的な要素があっておもしろい。小野不由美の少女小説ばかりを読んでいた人も、小野不由美のエッセイとして読む分には楽しめるのではないだろうか。

怖いシーンはあまりない

ホラー作品というと「何ページのどこそこが怖かった」という話になるが、この作品において、そういった部分的な怖いシーンはない。気持ち悪い表現がなされることはあるが、直接的な、いわゆる「髪の長い女に追いかけられて逃げるシーン」みたいなのは存在しない。長編小説ということもあり、怖いのは読み終わってからになるのだが、怖いシーンを期待して読むとがっかりするだろう。語り口調も怖がらせるための演出は一切ない。あくまで淡々と事実を伝えるように描かれている。途中、怖いシーンがないまま続くため「これはホラー小説だったかな?」と確認したくなるほどだ(小野不由美の作品の特徴でもある)。水を手にすくって見ると透明だが、遠く離れてみると青く見える、というように、読んでいるその時にはあまり怖いとは思わない。もしかしたら、読み終わってすぐもさほど恐怖に感じない。読み終わってしばらくして思い出すと怖い、そういう作品だ。短文で恐怖を与えようとする刺激的な怪談作品は多いが、余韻を楽しみたいのであれば「残穢」はもってこいの作品と言えるだろう。逆に、刺激が欲しい場合は、もう一冊の「奇談百景」にそういった表現が多いので、やはりどちらも読まなければならない作品だ。

奇談百景と一緒に読むとなぜ怖いか

なぜもう一冊の「奇談百景」と一緒に読むことによって怖さが増すのか。実は、残穢と奇談百景は繋がっている。奇談百景は怪談のオムニバス作品であるが、その中の話と関連しているのである。ピックアップして拡大した話が残穢、という位置づけである。どちらかというと、奇談百景がホラー担当で、残穢がミステリー担当、といった感じで世界観が共通しているのに視点が違うのも見所だ。掲載されていた雑誌「幽」には、ほかにも直接怖い、いわゆる怪談話が多く掲載されている。奇談百景や残穢が、その中で特別怖い作品、というわけではない。むしろほかの連載と比べると刺激が少なくて大人しい作品の印象だ。しかし、いざ単行本化されるとまるで異なるパワーを発揮する。これは文学作品として優秀なのだ。1冊の本として完成してはじめて、恐怖が成立する。奇談百景が連載向きだとしたら、残穢は連載向きではなく単行本化向きの話だ、という感じだ。この、連載と単行本化の流れをうまく利用した作品群だと言えるだろう。

夏休みに高校生に読ませたい作品

どんな人に読んでもらいたいか、と考えたときに、文体で言えば大人向けなのだが、できれば夏休みの高校生あたりに読んで怖がっていただきたい作品だと思った。酸いも甘いも知った大人だと、こういった話は実は当たり前すぎて、よくある話に感じてしまう。50代以降の人は「こういう話あるよね」と妙に納得してしまうのではないだろうか。一方で、若い人はこういった地域に根ざした怪異を知らない場合が多い。どちらかというと心霊スポットや心霊動画といった直接的な怪異を好むだろう。ただ、現実の怪異、現実の心霊というのはこの残穢にあるように、ありふれたものなのだ。若い人に読んでもらって新鮮な受け止め方をしてほしいと願う。

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残穢レビュー

妙な現実味都内のとあるマンションの住人やその周辺の人々に起こる奇怪な出来事。それは長い年月の間にその土地に関わった人間達の穢れが積み重なり、今そこに住む人々の前に現象として表れていた。日本古来からある「穢れ」という考え方を取り上げ、フィクションであるにも関わらず非常に現実味を感じさせる演出で読む人を奇妙な恐怖感へと誘う。読んだ後にはこの本からその残穢が自分の家に移ってしまうのではないかというように、本そのものさえも恐怖の対象になり得る。その妙な現実味がこの本の肝なのだと思う。気持の悪い恐怖感残穢は霊が出て来てなにかをするというようなよくあるものではなく、ほとんどが「音が聞こえる」とか「何かが見える」とかいったものである。それでも読みながら、家のきしむ音や何かの物音に奇妙な恐怖感を抱き、この家、この土地もなにかあったのだろうかと思ってしまう。作者の非常に細かな文章描写が時には説明的なでも...この感想を読む

4.04.0
  • ガクブルドッグガクブルドッグ
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  • 1106文字
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