青春芝居 - 花とアリスの感想

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花とアリス

4.364.36
映像
4.43
脚本
4.04
キャスト
4.61
音楽
4.39
演出
4.36
感想数
14
観た人
18

青春芝居

4.04.0
映像
4.0
脚本
3.0
キャスト
4.0
音楽
3.0
演出
4.0

目次

蒼井優の下手な芝居と上手い芝居

花の嘘に付き合う羽目になったアリスを演じる蒼井優の芝居が面白い。先輩を騙すための演技とオーディションを受けるときの演技がオーバーラップする形になっており、始めは下手であったがそれが次第に上手くなっていくのがとても筋の魅せ方として良いと感じた。

演技の一発目は突然クラスに訪ねてきた先輩に、アリスが吐き台詞を言うというところ。花が用意したと思われる台詞もひどいが、アリスの棒読みも実にひどい。いい意味で。嘘がばれるのではないかと思うほどだが、ばれないことで先輩が如何に馬鹿なのかよくわかる。また、この展開は定番としてよくあるが、それだけでなく、ここで大事なのはアリスが単に花に付き合わされているのが見えることである。後にアリスが先輩に好意を抱くようになる感情の変化を思うと、ここでこの布石を打つことはとても大事である。

次の演技は先輩とお茶をする下り。今度は花が用意した台詞がなく、アリスは自分で台詞を考え演技をしなければならない。その結果、地のアリスがちょいちょい出てくる有様であり、演技が破れかぶれなわけである。しかし嘘はばれない。その為アリスは先輩との記憶思い出しデートをしていくことになるのだが、これが面白い。花の設計なしにアリスが嘘を設計していく。その過程で次第にアリスは演技が上手くなっていくのである。

そして、迎える海でのシーンは印象深い。花が用意した台詞を言うときのアリスはド下手だが、自分が考えた嘘はとても上手なのである。つまり、始めはアリス自身に大した感情がない為に上辺だけの薄っぺらい演技だったのが、アリス自身が先輩に好意を抱き、感情が乗るようになったことで上手くなったのである。

この変化が丁度アリスのオーディションを受ける姿勢とオーバーラップするのである。始めはスカウトされただけでお遊び半分だったために、アリス自身感情が乗っていない状態で、オーディションを受けていく。そのためにふわふわとした態度で臨み、どんどんオーディションに落ちていく。しかし、先輩への演技が上手くなるのに比例して、中途半端な態度を捨て、最後はバレーという自分の持ち味を活かして、嘘なく存分に勝負をする。そして、結果を掴み取ったのである。

こうした成長過程がとても筋として面白く、晴れがましい気持ちを与えてくれるものであった。

女が強く男が弱いの原点は市川崑か

本作の魅力はタイトルにある通り、花とアリスのキャラクターである。自分の好きを押し通すために嘘をつき、友達までも巻き込む強情さを持つ、ド一途な花。そして、天真爛漫さを魅せつつ、家庭の事情からかどこか大人びた強さを持つアリス。強気な部分を持っていることは二人とも共通しており、そのために一人の男をめぐるバトルの構図が映えるわけである。また取り合いされる男、先輩が弱っちいのがミソである。この男のどこがいいのか。恐らく母性本能をくすぶるという定なのだろうか。友情が壊れるかもしれないという三角関係という話は定番だが、かっこいい強い男を取り合うのではないために、どこか抜けた面白さがある。

このように強い女と弱い男という設計にした、岩井俊二監督の意識下にあるのは市川崑監督作品ではないだろうか。市川崑監督の作品は女が強く、男が弱いという構図が基本となっている。岩井俊二監督は『市川崑物語』でこの構図を褒めていた。それで本作はそのことに挑戦してみたのではないかと思う。私がこれまで観た岩井俊二監督作品は『Love Letter』『スワロウテイル』『四月物語』『市川崑物語』『ヴァンパイア』なのだが、これらの中で本作が一番その構図になっているように感じた。そうではないかと思うと、市川崑作品の男女と照らし合わせた見方ができ、また違った面白さが生まれた。

ショートフィルムは青春

この作品のスタートはショートフィルムであったというのが納得いくほど、正直劇場映画としては映像のクオリティーは高いとは言えない。勿論岩井俊二監督の代名詞的な逆光を使った淡い映像美は健在で、素晴らしい部分もあるが、大半が稚拙さを感じた。しかし、嫌な印象を受けない。それは恐らく本作が若き登場人物の青春映画であるからであろう。映像の稚拙さがその時代の何とも言えないもどかしい感情やそれに伴う行動とリンクして、受け入れやすいのである。思い出せば何故あのような行動をすることができるのかということが多い、青春時代。それをきっちりかっちりとした映像で魅せられると何か作った感が勝ち、くささが増してしまう。しかし、本作のようにどこかかっちりと捉えきらない映像や手振れなのかブレタ映像で映すことで、そういった抵抗感は生れず、むしろ思い出を観るような柔さを感じるのである。ショートフィルムではこういった映像の質は多いので、ショートフィルムと言えば青春を感じる。それが本作は劇場映画という長編になっても引き継がれ、確かな愛おしい色味を出せていたと思う。

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