毎日を必死に生きても記憶を失うということ - 明日の記憶の感想

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明日の記憶

4.384.38
映像
4.25
脚本
4.50
キャスト
4.50
音楽
4.25
演出
4.38
感想数
4
観た人
5

毎日を必死に生きても記憶を失うということ

4.54.5
映像
4.0
脚本
4.5
キャスト
4.5
音楽
4.0
演出
4.5

目次

アルツハイマー病ー記憶を失う

タイトル通り「明日の記憶」とは明日の記憶が分からないということだ。部長の佐伯はバリバリに仕事をこなし、更に几帳面な性格だ。待ち合わせの時間を忘れたことなどなかった彼が大事な会議があることを忘れてしまう。次に起こるべき自分の記憶が全く分からなくなってしまうのだ。病気の症状とストーリーが平行に進んでいくこの作品スタイルが私をハラハラさせた。神経的なものが影響している病気に彼はかかってしまう。軽い気持ちで受けた病院でのテストにスラスラ答えられない彼は落ち込み始める。自分の体の異変に気付きそれを認め始めた彼は病状は悪くなり始めた。非常に進行の早い病気のように感じるが、進行具合は人それぞれだろう。急に怒りだしたり、人の名前が思い出せない、頭痛、めまいは頻繁に起こる。佐伯はアルツハイマー病になってしまったのだ。

患者にとって感情表現は生きている証に繋がる

アルツハイマー病は、良くテレビや雑誌などでも話題になって今では多くの人が一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。飲酒や運転を制限されてしまい、自分が何者なのか自分は一体何のために今まで頑張ってきたのかと、何もかも全てが分からなくなってくる。記憶力が薄れてしまい最終的には身近にいる家族の事も誰なのか分からなくなってしまう。そんな人生は佐伯にとって非常に苦しいものだった。佐伯の妻は夫をずっと支え続けようと決意したが、夫の豹変ぶりに驚きを隠せない。

私には精神疾患がある。そのため週1で病院へ通っている。私の周りには佐伯のような患者が溢れている、診察に行くといつもこれが現実なのだと突き付けられたような思いになる。病院には病気の人が沢山集まってくる。早く病気を良くしたくて必死に通っている人や、病院にくる患者が何を考えて感じているのか他人の私には分からないが、明らかにここが病院だと分からず付き添われながらやっと歩いている人もいる。1人でニコニコ笑みを浮かべながら歩いている人もいれば、診察待ちの椅子で独り言を永遠に喋る人。毎週そんな患者たちと一緒に私は担当医の順番待ちをしている。日々感じることは、病気でもみんなそれぞれ考えがあり笑ったり、怒ったりして生きている。例え1人で笑っていても私は変とは思わない。1人で怒っていても決して変だとは感じない。人には感情という大事なものが頭の中で抱えている。その感情を表現することは自分を世の中に受け入れてもらうためではない。ただ自分を表現出来ているということだ。それだけで充分なのだ。彼らのような患者にとって感情の表現は、生きていることの証になるのだ。彼らは自分を表現することで自分の存在を示しているのかもしれない。

家族に愛されたことも全てなかったことになってしまう

精神疾患がある人には様々なタイプがあり病気も数知れない。その中でもアルツハイマー病は、自分を忘れていく怖い病気であることは確かだ。直接治る薬もなく時間と共に病状は深刻化していく。

26年間を会社にかけてきた佐伯はどん底に落とされたような気分だったんだろう。復帰などもはや出来ない状態にあり、精神病の恐ろしさを感じる。私も同じだが佐伯は励まされる事はどうも好きではないと思う。彼の表情を見て自分に近いものがあるように感じた。人は自分自身を大切にするべきだと私は思う。誰かを幸せにする前に自分を信じて幸せになることが第一だと思う。自分を大切にしなければ、相手を幸せには出来ない。いつか自分を幸せにできたら、私の精神病は治るのだろうか。相手の事ばかりでなく、自分を大切にすることは私のような人間には難しいことだ。

アルツハイマー病の相手に忘れないでと言ったところで、それは叶わぬ願いだ。少しづつ忘れてしまう、それがこの病気である。一番側で支えた家族はもしかしたら一番辛いのかもしれない。佐伯の妻のように最後に涙するのは懸命に支え続けてきた家族だ。病気の本人は家族の支えさえ忘れてしまう。深い愛情を受けて支えられていた記憶はもはや彼の頭の中にはないに等しい。記憶は蓄積されていくはずなのに佐伯は頭のどこかから全ての記憶が流れ落ちてしまった。妻の存在も分からなくなった時、この病気の恐ろしさを身をもって感じた。精神病は外見だけではあまり理解されにくい。ベッドで点滴をしているわけでもなく、入院もしていない。病人には見えない場合が多いのだ。他人に理解されにくい精神病をもっと分かってもらえたらといつも感じて私は生きている。病気に負けないよういつも佐伯のように一つ一つをクリアにしながら一歩づつ前に進んでいる。進みながらも考え悩みながら生活している。本当はもう少し分かってもらいたいと感じる時がある。でもそれは精神疾患だからこそ家族にも伝えられないのだ。私は佐伯の気持ちが分かるとは言えないが、ほんの少しなら分かるかもしれない。きっと毎日を必死に生きているのだろう。

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