本書にがっかりした人に。小川洋子の「成り立ち」から「超邪道な活用方法」まで - 心と響き合う読書案内の感想

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本書にがっかりした人に。小川洋子の「成り立ち」から「超邪道な活用方法」まで

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文章力
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ストーリー
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演出
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目次

直筆のエッセイと思うとちょっとがっかり

本書がラジオ番組での本の紹介を書籍化したもの、と皆さんは手に取る時点でご存じだっただろうか?私は正直なところ、知らずに購入してしまった。300ページにもわたる冊子ではあるものの、全体を通しての起承転結などは無い。その上小川洋子的文章の美しさも薄く、何じゃこりゃ?と最初に思った。文章レベルとしては児童向けの読者啓蒙本か?とも思えるが、それなら「ラマン」なんていう性描写てんこ盛りの作品を扱うはずもない。

からくりを知ればうなづける。そりゃトークとライティングでは口調が変わるよな、と。

正直こういう種類の本って表紙にラジオ番組書き起こし、とか明記してほしい、と思うのは私だけではあるまい。「小川洋子」って書いてあれば彼女が書いた文章と思って手に取るのが読者だ。いくつも賞を取った作家ってこのように利用されるものか、とちょっと寂しい気もしてくる。

しかし、本書をきっかけにラジオを聞いてみるとちょっと事情が変わった。

ラジオ番組自体が素晴らしいからだ。この番組は2016年4月現在、Tokyo FMで日曜日放送中だ。興味がある方は聞いてみてほしい。小川洋子の語りはシンプルで適切だし、淡々としていながら深い情熱を持って各作品に接していることもわかる。さすがに数年にわたって続いているプログラムだとうなづけるし、日曜の朝のゆったりした雰囲気にとても似合う。

小川洋子の「成り立ち」も垣間見える本書

作者は文中にも部分的に書いているが、作家デビューするにあたり、村上春樹の作品および訳文と「アンネの日記」にかなり影響を受けているらしい。それを踏まえて本書を読み返すとまた感慨深いものがある。村上春樹の「風の歌を聴け」のみならず、彼が翻訳をしているから、という理由で「グレートギャッツビー」に対する案内も紹介されている。他の作品紹介と比べても冷静に内容を説明、紹介しつつ村上氏の作品への愛情や氏へのリスペクトが垣間見えるところが面白い。夏目漱石の「こころ」の項目と見比べて再読していただくとその違いが明らかだろう。

同様に「アンネの日記」に対しても作品案内よりも小川洋子自身がどのように影響を受けたか、が読み取れる。彼女はいろいろな受賞時などに「何故作家の道を選んだか?」という質問の多くに「アンネの日記」を読んだことを挙げている。文中でアンネが書いた「わたしの望みは、死んでからもなお生きつづけること!」という部分を引用して「印象深い」と解説する小川洋子自身がまた、後世に残るような作家になるということに深い感銘を受ける。

「読書案内」本としてはまとめすぎ?じゃあダメな本か?そうでもない

何だかんだと小川洋子自体は作家なのにラジオパーソナリティもできて凄いな、とまとめようかと思ったが、この本、一冊の「作品」として考えるとちょっと微妙な気がする。

ラジオ番組でトークを聴くと、ああ、この本読んでみようかな、と思うのだがそこには声に含まれる小川洋子の真摯な姿勢が含まれているからだと思う。しかしトークから書き起こしたこの文章に残念ながら、その要素は無い。むしろ親切に語りすぎている分、そもそもの読書案内としての「この本を読んでみよう」と思わせるような文章的仕組みやフリ、言い換えれば「ここが醍醐味」みたいな部分が伝わりにくいのだ。その上お話全体に対する分析は非常に的確なので、むしろこの案内を読んだからもうこの作品読まなくていいや、と思わせるほどだ。

そういう意味で本書が結果として有効であるのは以下の3つのパターンだけだ。

一つは前述のラジオ番組の熱心なリスナー。これは番組ファンとしてはムック本的に非常に良いアイテムだろう。

ふたつめのパターンは小川洋子中毒患者、とにかく彼女の作品はもう読みつくしてしまっているし、新作が出るまで何でもいいので彼女に関連するものを読みたい、というゾンビ化に近い状態の読者の心の隙間を一時でも埋めるものにはなるだろう。

最後のパターンとしては小中学生の読書感想文のための参考書、というよりカンペだ。お子さんがおられる方なら実感された方も多いと思うのだが子供の夏休みの宿題などで読書感想文が、しかも夏休みも残り2日などの時点でまだ書いてない!という衝撃を受けた、という事は無いだろうか。こんな大物先に取り掛かっておけよ、と言いたくもなるが言っても仕方ない、今は事態を前に進めねば、しかし今さら読む本を決めるところからやってて間に合うのか?という八方ふさがり、四面楚歌の状態に陥った時、慌てず本書を取り出していただく。本書には「銀河鉄道の夜」「窓際のトットちゃん」「モモ」「昆虫記」など小学生が題材とするに無理が無い作品もあれば、「羅生門」「こころ」「変身」「アンネの日記」など中学生が扱うに十分耐えうる名作も多く扱われている。さすがにそのまま書き写すには解説が高等だが、本書を子供ならではの文章に書き換える、とかすれば2時間もあれば宿題は完成するだろう。恐ろしく邪道だが本として出版されている以上、何かの役に立てれば作者も本望ではあるまいか・・・

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