現実離れしすぎていない高校生男子。 - ネバーランドの感想

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ネバーランド

4.504.50
文章力
4.00
ストーリー
4.50
キャラクター
4.50
設定
4.50
演出
4.00
感想数
1
読んだ人
1

現実離れしすぎていない高校生男子。

4.54.5
文章力
4.0
ストーリー
4.5
キャラクター
4.5
設定
4.5
演出
4.0

目次

見事なまでに個性的。

四人が四人とも個性的でキャラクターが被っておらず、各々とても魅力的に描かれています。人間は不思議と過去のトラウマだったり秘密にしていることを知りたがる生き物で、好奇心を煽られる出来事があると挑発的にでも聞き出そうとするんですよね。しかし、結果的に秘密の共有が結束を固め、仲間意識をより強くさせるからこれがまた面白いなあと。四人の人間性の変化が目まぐるしくて、本当に七日間でこんなにも濃い関係性になれるのかと、またそれは男の子だからこそなのかもしれませんが、羨ましく思いました。女子ではこう上手くまとまらないと思います。誰それの秘密は口から出た瞬間に知られたくない人にまで知れ渡ってしまう。女性であれば経験された人の方が多いでしょう。その話に尾ひれがついて、誇張され、自分の元に帰ってきた頃にはとんでもない話に出来上がってしまう。男子であればよほど仲が悪かったり恨みを買っていなければあまりないのかなあと、聞いたことがないのでわかりませんが、男と女の友人関係の違いがまざまざとわかる作品だととても勉強になりました。

聡明で大人。

気持ちの切り替えが早いのも彼らの魅力の一つで、嫌なことがあってもきちんと時間を置けば、たとえば一晩寝て仕舞えば後を引かずに普段通りの彼らに戻るんです。共同生活でこれほど重要なことはないなと思いました。険悪な雰囲気を継続させたまま1週間という時間を過ごすことはなかなかに耐えがたいことだと思います。今後の学校生活にも関わるでしょうし、寮生活という特殊な環境にいるため、人間性が崩れることは致命的だと思います。しかし、彼らは出来上がってはいないものの、大人です。過ぎたことをいつまでも気にしない。また相手がどう思うか予測して発言をするため、新たな火種を作らずに友好関係を持続させる。見事だと思いました。きっと学力が高いということも関係しているのでしょう。色々なことの計算が早いです。恩田陸先生の作品はまだ二作しか読めていないのですが、先生はとても知識があって、言葉や仕草や彼らの生活が上品に描かれているなあという印象を受けました。どこから知識を得て、また彼らに反映させているのか。構成やキャラクターの設定がきめ細やかにされているんだろうなあと、作品から几帳面さを感じました。そしてその影響か、登場人物たちも細部にわたって丁寧さを欠かない思考や行動を取っています。なので、読後感はすっきり納得、といった感想を持つのではないかと思います。少なくとも私はいつも作品に説明を受けて納得した上で本を閉じますので、二回目三回目と読み返すと臨場感がぐっと増すなあと思いました。原因がこれで、今こういう結果が出ている、しかし、問題が発生して今処理しようとしている。というように、順序立ててしっかりと物語を展開されていくので、最初は読みづらいなあと脳みそが重たく感じましたが、どんどん話の核に近づくにつれ、ページ数が多くてもあっという間にラストまで行ってしまいます。嵐に近いですね。登場人物たちはしっかりと問題に向き合っている姿勢はカッコ良く映りました。少し都合が良すぎる設定ではないか、と思うこともありましたが、聡明な印象がそれを感じさせないよう作用して、彼らの姿勢を大人びてみせます。登場人物たちは恩田陸先生から生まれたからこそ、ガサツさや現実にもいるだろう雰囲気さえも気高く描かれるんだろうなと思いました。

トラウマが思いの外ヘビー。

なんでしょう、読んでいて衝撃でした。ひとりひとり色の違う重たい石を抱えていて、それを捨てられず日常生活では無視することを決め込むことが精一杯という印象を受けました。私自身安穏と過ごしてきたので、架空の人物のトラウマがドラマチックに思え、しかし、きっと起こり得ることだというリアルさが迫ってきて暗い気持ちになりました。彼らは被害者側に立っています。しかし、加害者も加害者になろうとして相対する位置にいるわけではない。ということも含めて理解しようとします。ここがまた現実離れというか、そこまで人間出来上がっている男子高校生が存在するだろうかと恩田陸先生の気品の良さが出てしまっているなと思いました。ここでもし登場人物たちが理解を示さず、恨むだけ恨んで憎悪を膨らませていたらどうだったか。彼らのどこに感情のブレーキがあるのか。思春期の男の子らしいなと普通のお話になっていたと思います。しかし、裏の裏まで読み取ろうとする理解力が彼らを無理に大人にさせてしまっているなと。アダルトチルドレンという言葉もありますが、そうなっていたかもしれません。でもそういった傾向もなく、彼らは各々自分というものをしっかりと持ち、認めています。すでにトラウマと向き合っているんだと思います。しかし向き合っているということが自覚できていないがために、四人での共同生活の中でそれを指摘されて大きく揺れてしまったんじゃないかと。それでも彼らはそのヘビーなトラウマもコントロールしようと努力します。共有することで消化しやすくします。親や家族では補えない部分をきちんと学校という社会の中で得ている彼らは、とても逞しいなと思いました。

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