ハイテンポコメディーではない
ターゲットをしかと意識した作品
「ラストベガス」というタイトルからふざけ半分のコメディー的作風を想像していたが、思ったよりも真面目な作品だった。まず、何よりもあのラスベガスを舞台にしているにも関わらず、あまり騒がしくなく、過激でもない。逆にテンポののろさを感じてしまったぐらいである。しかし、そのややスローテンポで、過激をやりすぎない作風の意図は、この作品が四人のお年寄りの話であるだけに、観る人もそのお年寄り世代をターゲットにしているからである。
四人組のうちビリーのみが独身を貫き、遂に結婚をするという構図。序盤は華やかな感じに描かれるビリーと、それに対して他三人が第二の人生を活気なく生きているのが対象として描かれている。この二本軸の人生で大体のお年寄り世代はどちらかに感情移入できるようになる。一見するとビリーの生き方がいいように見えるが、物語が進むにつれビリーもビリーで問題を抱えているのが徐々に明らかになる。葬式でのプロポーズのシーンは個人的にはひいてしまったが、後のシーンでバディから死の恐怖から愛もなく求婚したのではないかという指摘の効力から、なるほどと感心した。結婚相手の女性が30歳年下という若いのは勿論、ビリー自身が風貌や振る舞いもやや痛々しいほどに若々しく努めていることもあり、ビリーが老いというもの、死に対してどこか後ろ向きなのが分かる。こうして4人がそれぞれで葛藤を抱えているという同等の盤上に乗り、物語は進む。そして、物語が終着へとたどり着いたとき、第二の人生への活力そして、老いが悪くないものだと思わせてくれるのである。
こういったテーマを扱うようなお年寄りをターゲットにした作品が近頃やはり超高齢化社会になっただけに増えた印象を感じる。本作もその一つで、その中で本作はキャスト陣の豪華さを売りにしている感を感じたが、そこだけが良さではない。物語の帰結が安定なとこに落ち着くのが良い。一見するとつまらないとも感じるが、現在のお年寄り世代にと考えるとこの帰結が最も望ましい。
二つの夫婦が語る夫婦の良さ
先ほどお年寄り世代をターゲットにした作品であるといったが、若い世代には合わない作品とは思わなかった。そう思わせてくれたのは要所要所のセリフが良く、考えさせられたからである。年寄りの教えに感心するというよくあるパターンともいえるが、二つの夫婦のあり方が純粋に素敵だと思えた。
まずは、バディ夫婦。バディが亡き妻を忘れられずねちねちしている姿は、物むなしく悲しいものであった。しかし、パディがビリーに言った「愛する人を他人に決められることはできない。妻はちゃんと私を愛していた」というセリフで、彼をぐんと好きになれた。このパディのセリフはビリーへのエールでもあったが、妻を救う言葉に感じられた。最初の幼い時のシーン以後、バディの妻が登場する回想シーンもなく、言葉だけで彼女は語られるので、下手するとバディの妻はろくでもない女になってしまいかねなかった。それがバディのこのセリフによって妻の名誉が守られたのである。彼女はお人形のようにバディとの結婚を決めたのではない、自分の意志で決めたのである。勿論バディの思い込みだとも言えるかもしれないが、同じ女としてそのように結婚という大事なことを決めるなどしないし、そう思われたくもないものである。夫であったバディがしかとそのセリフを力強く言ってくれたことで、妻は救われ、二人の相思相愛度が素敵だと思えた。
続いて、サム夫婦。奥さんがサムにゴムを渡して、やる気満々のサム。熟年夫婦とは、なんだかそんなもんだよなと思いつつ、気持ち悪さがあった。しかし、実際女とやれるとなったとき、サムは「最高の瞬間はいつも妻に話していた。それが話せないのは悲しい」と言って断る。素敵な言い分に感銘を受けたが、断られた女性がかわいそうな気持ちもあり、素直にいいセリフだと思えなかったところ、その女性が「そんな人と結婚したい」と返したことで、初めてこのセリフが素敵なものになった。最高の瞬間をいつも話せる夫婦。このセリフの良さを駄目なものにせず、拾い上げたこのやり取りは素敵なシーンであった。
物語自体安定な帰着で、もの新しさを求めて観るともの足りないかもしれないが、長年誰かと生活を共にしていくことの良さを垣間見えたことを想うと素敵な作品であった。
生きてきた年輪
豪華4人の男性俳優が4人で集まって昔を思い出してやんちゃに遊ぶ姿は可愛さがあって、良かったし、さすが実力派の4人であると思った。しかし、それに負けず劣らずメアリー・スティーンバージェンが最高だった。歌っているシーンに茎付けになるとこは演出上そう見せられている感で、無理やり感を感じたが、その後の普通の服装で一緒に遊んだりしている姿が可愛く、無理のない若々しさがあり、素敵だった。またなにより、あの鷲鼻と目元のしわが彼女の独特な魅力であると感じた。これまでの人生を苦く生きてきた証であり、それがどす暗い色を放つのではなく、輝いていたのである。若い女性も綺麗で気兼ねなくいい女性ではあったが、これまでの生きてきた年輪を携え、輝いているメアリー・スティーンバージェンには敵わないであろう。だからこそ、最後ビリーは彼女を選ぶのであるからメアリー・スティーンバージェンは納得のキャスティングであった。
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