奇才・諸星大二郎の入門書「栞と紙魚子」はギャグ漫画 - 栞と紙魚子の生首事件の感想

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栞と紙魚子の生首事件

4.754.75
画力
4.25
ストーリー
4.25
キャラクター
4.00
設定
4.50
演出
4.00
感想数
2
読んだ人
2

奇才・諸星大二郎の入門書「栞と紙魚子」はギャグ漫画

5.05.0
画力
5.0
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
5.0
演出
4.0

目次

日記のような淡々さ

面白い作品に出会うと、何故、どこが面白いのか解析したくなりますが、諸星大二郎先生の作品は、解析不能です。

感覚で、「いい」と感じるというしかないものを、無理矢理、解析しようと思います。

「栞と紙魚子」のシリーズはを人に勧めた時、「なんで主人公たちが生首拾ってんのに、淡々とした顔してるのか意味がわからない」と言われ、その人が言ってることの方が意味がわからないと思ったことがあります。淡々としたところがいいのに!

それで、思ったことは、ホラー漫画の場合、生首をみつけると主人公は「ぎゃー!!」。殺人鬼が近づく時は、何コマもかけて、来るぞ来るぞ・・・「ぎゃー!!」。こういったホラーの演出を取り除いた「栞と紙魚子」はホラー漫画ではなく、ギャグです。

たとえますと、栞と紙魚子の日記です。

「今日、パスタを食べました。」「今日、生首を拾いました。」

それを、「おいおい、それってすごいことじゃないか」と笑いながら読む作品だと思います。

笑いと恐怖は表裏一体

笑いと恐怖、ギャグとホラーは表裏一体とはよく言う言葉ですが、いろいろ漫画を読むと、それを感じることがあります。

映画の「呪怨」は怖い演出が多すぎて、笑ってしまいますし、作り手も笑いながら作っているだろうなと思います。

逆に「天才バカボン」を漫画で読んだ時は、ゾッとしました。赤塚不二雄先生はギャグを探求し、よく実験漫画を描かれていました。それが、笑いを通り越して、怖いのです。

どちらも、その道を追求し続けた熱い魂のこもった名作です。

「栞と紙魚子」はギャグとホラーが見事に融合しています。

どちらかというと、ホラーを題材にしたギャグです。

ホラーとギャグは表裏一体のくせに、混ぜることが非常に難しいジャンルです。

仮に、「栞と紙魚子」のようなホラーギャグを目指して漫画を描いたとしても、ほとんどの人は「これ、ギャグ?ホラー?どっちかはっきりして」と言われるようなものになります。

それができるところが、諸星先生が奇才と呼ばれる理由の一つだと思います。

真似できない作風

手塚治虫先生が「諸星大二郎の絵は真似できない」と、言ったそうですが、絵はもちろん、お話も凡人では真似できない、唯一無二なのものと言えます。

計算ではなく、感性で描かれているのではないかと思ってしまう作品ばかりなので、最初に述べましたように、ファンは感覚で「いい」としか言えず、多くの人に理解してもらうことが難しい作家さんです。

なのでカルト的人気と言われたりします。

しかしながら、諸星先生はカルトの頂点、マイナーのメジャーと言える大御所で、それはとても個人的な感想ですが「栞と紙魚子」の功績が大きいのではと、思います。

大二郎入門作品(舞台・主人公)

それまで、歴史モノ、SFなど、少しビギナーには入りづらい作品が多かった諸星作品。

短編は読みやすく、非常に面白いのですが、固定のキャラクターがいません。

ところが「栞と紙魚子」はまず、主人公が普通の高校生、舞台は現代の日本。とても入りやすい設定です。

これは「ドラえもん」と同じ手法です。

藤子不二雄両先生の作品が、国民的になったのは主人公・舞台が読者と同じだからです。

そこに、すこし不思議なものが入ってきたらどうなるか、一番読み手に伝わりやすい設定です。

SFやファンタジーが苦手と言う方は、いきなり異世界が舞台で人間じゃないものが主人公だったりするものが、読みづらいのではないかと思います。

諸星先生の作品も「栞と紙魚子」以外は、そういうものが多いです。

SFやファンタジーを描く場合でも、導入が身近な設定であるだけで、一気に入り込みやすくなります。

「栞と紙魚子」も舞台・主人公以外は奇天烈なものばかりですが、導入ですんなり入りこめたら、あとはどんなに奇妙でも読めてしまいます。

大二郎入門作品(キャラクター)

主人公が普通の女子高生で入りこめたら、次は人気キャラクターの出番です。

数々の人気キャラクター(クトルーちゃん、段先生の奥さん、ゼノ奥さんなど)、魅力的なキャラクターが現れると、次の巻もそのキャラ見たさに買ってしまいます。

「栞と紙魚子」のキャラクターのどこがいいかと言いますと、みんなどこかおかしいのに、物腰が上品で和やかなところに惹かれます。危ない目に遭ったりもするのに、悲壮感がなく、みんな楽しそうなんです。

これは幼い頃読んだ少女漫画、とくに、なかじ有紀先生の作品を読んだ感覚に似ています。

どちらかというと、不気味なものや奇妙なものが好きだったのですが、超王道とも言える恋愛漫画・なかじ有紀先生の漫画が大好きでした。

なせだろうと、自分で考えた結果、なかじ先生の漫画には悪人がひとりも出てこないのです。

ものすごく安心して読める漫画、こんな風に悪人の居ない世界に行きたいと思わせてくれる、その感覚が「栞と紙魚子」にもあります。

だって、みんな楽しそうだから。

以上の点から、「栞と紙魚子」は、カルト人気と言われる諸星先生の作品の入門書にちょうどいいのではと思います。


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4.54.5
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