まるで絵本の世界のような映画 - しあわせのパンの感想

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しあわせのパン

4.104.10
映像
4.30
脚本
3.90
キャスト
4.20
音楽
4.00
演出
4.00
感想数
5
観た人
6

まるで絵本の世界のような映画

3.53.5
映像
4.5
脚本
3.0
キャスト
3.5
音楽
3.0
演出
3.0

目次

北海道・洞爺湖周辺の月浦を舞台にした、心温まる物語

『しあわせのパン』は、月浦を舞台としたパン屋と、そこに集まる人々との交流を描いたハートフルストーリーだ。

大泉洋をカフェ”マーニ”の店主兼パン職人の「水縞くん」に、原田知世を水縞くんの妻「りえさん」に起用している。

北海道出身の大泉洋は『銀のエンゼル』や『探偵はbarにいる』など北海道を舞台にした映画に不思議とぴたりとハマっているし、透明感のある原田知世は静かなカフェの”おかみさん”としては最高の取り合わせだ。

洞爺湖のほとりにあるロッジ型の店舗のカフェマーニと、美味しそうな自然派のパンとコーヒーに、この二人のエプロン姿がなんとも合うではないか。現在にはないお店だとわかっていても、実際に行ってみたくなるベーカリーカフェだ(ロケ地となった月浦のカフェ・ゴーシュは実在のお店だが、2016年現在ではパンの販売もなく食事メニューも提供していないという)。

大橋のぞみの穏やかなモノローグと緑豊かな世界観、登場人物たちの終始落ち着いた様子が合わさり、『しあわせのパン』はただのハートフルストーリーの枠には収まらない、独特の魅力を湛えた作品に仕上がっている。それはあたかも、作中で幾度となく登場する絵本『月とマーニ』のようだった。

冴えわたる構図とカメラワークは、まるで童話の世界のよう

『しあわせのパン』でもっとも優れているのは、パンや服装などの小道具のデザインセンス、店舗の配色センスといった美術的な要素だ。

皿やカップといった小物も、棚や扉といった設えも、いかにも女性が好みそうな自然素材の可愛いものばかりが顔を揃えている。それがメインの舞台となるカフェマーニだけでなく、どの建物、どの場所でもみな一様にハイセンスなのだから恐れ入る。

色彩センスも抜群で、カフェマーニのナチュラル色の木目、登場人物たちの紺やアイボリー・白といった素朴な色を基調とした服装、そこにパンや自然の草花が色を添え、1カットそれぞれが絵画の世界のようになっている。

また、絵画的な映像のためにカメラワークも技巧が冴えわたる。撮影はあくまで人物中心ではなく、「どうやったら人物とこの背景が上手くマッチするか」を考えて映像を撮っているのがよくわかるようになっているのだ。

カフェマーニで提供されるパンやスープ、コーヒーをじっくりと画面に映し、「ごちそう映画」としての演出を見せつけながら、料理やコーヒーを味わう人の満足気な表情を映すことで観ている方にも安らぎを与えている。役者よりも風景、料理をじっくりと見せつけてくれるのも好印象だ。

このように圧倒的な『しあわせのパン』のハイセンスは、驚くべきところでも発揮されている。秋の章で母が出ていった家族のシンクが映るのだが、「全く掃除されていない食器の積み重なったシンク」でさえ、何故かものすごくハイソなのだ。洗われていない使用済みの食器すら美しいというこの美的センスに脱帽である。

リアリティが欠如しているため、あくまで「絵本の物語」として観るべし

『しあわせのパン』は、絵本のような話だと本考察で何度も述べた。映画全体に漂う優しい雰囲気だとか、心優しい人々だとか、美味しいパンを食べて生きがいを取り戻す人だとか、『しあわせのパン』を取り巻く全ての演出が絵本のようなのだ。

だが、あくまでもそれらは「絵本のなかのやさしい世界」であって、現実味は一切ない。

母親を失った父娘の話で、重い空気を漂わせる父娘の食卓に割り込み、唐突にアコーディオンを演奏しだす阿部さんだとか、広川夫婦と一緒にパーティーをしようと、草原のなかを連れ立って踊りながら行進するマーニの常連客たちが、筆者にはとうてい理解できなかった。

水縞夫妻も優しく穏やかだが、時に押しつけがましいようにも感じる。「それが月浦なんだよ」と言われれば「あぁ、そうなのか」と擦れた我が思考を嘆くところだが、いくら雄大な北海道の大自然で育まれた住民たちでも、あれは偶像的すぎやしないか。

月浦の住民たちは、お人よしを通し越して霞を食って生きている仙人のように、いつも笑顔で穏やかなのだ。およそ同じ人間界に住んでいるとは思えない登場人物ばかりなのである。

また、主人公夫妻についてフィーチャーされるエピソードがなく、何度か示唆された「りえさん」の悩みも判然としていて答えがない。エンティングで夫妻に子供が出来たことが、「水縞くんが一番欲しかったもの」という結論に至ったが、そこに至るまでの悩みも葛藤も映画のなかで描かれていないので、観ている方が「ふーん、そうだったの」ぐらいにしか思えないのだ。

もしかしたら、制作側は主人公夫妻のバックボーンをあえて演出しないことに、この作品の色味を出そうと思ったのかもしれない。そうだとしたら、やはりこれは一冊の絵本の実写化と考えたほうがいいのであろう。

筆者と同じく作品にある程度のリアリティーを求める人間ならば、それぐらいの気持ちで観るのが賢い選択だ。

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心からほわっと力が抜ける映画

北海道の草原の中で焼き立てパンとおいしいコーヒーを出すカフェを営む夫婦と、2人の元を訪れるさまざまなお客さんを描いた映画です。2人の元にやってくるのは、人生の次のステップに進むことにつまずいてしまった人たちです。その人たちがやってくる目的は、憂さ晴らしだったり、ぬくもりを求めてだったり、逃げることだったりします。そんな堅く堅く窮屈に凝り固まった心を、パンやコーヒー、地元の旬の食材を使った温かいお料理の優しい香りと2人の醸し出す柔らかな空気、辺りに広がる豊かな自然がほっこり包み込みます。すると、まるで乾いた地面が落ちてきた雨粒を吸い込んだように、人の心も少しずつ柔らかくなっていくのです。気付いたら、人生の次のステップに自然に足をかけているのです。そんなお客さんの姿は、同時に夫婦の心にも何かを注ぎ込んでいきます。仲のいい夫婦から、心の通い合った夫婦となっていくのです。そして、そんな2人の元...この感想を読む

5.05.0
  • 月読三葉月読三葉
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  • 545文字

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