細かいことは気にするな! 格闘系エンターテイメント
とにかくなんだか面白い作品『カンフーハッスル』
『少林サッカー』で一躍有名になった監督、チャウ・シンチー。『少林サッカー』に引き続き、彼が監督・主演を務める映画『カンフーハッスル』は、格闘技バトルをモチーフにしている(とおぼしき)超エンターテイメント映画だ。
世間では時折、『マッドマックス』や『キルビル』など、脳みそ空っぽにして楽しめる映画が人気を得ているが、『カンフーハッスル』もそれに連なるB級作品(断っておくが、れっきとした褒め言葉)である。
まず、あらすじからして小気味よい。1930年代の上海。暴力組織・斧頭会が、とある貧困地域のアパート(九龍城塞のような、住居と店舗がごちゃ混ぜになっていかにも中国らしい場所だ)・通称豚小屋砦に攻め込んだが、住人である三人の武術家たちにボコボコにされる。斧頭会は報復のため刺客を送りこみ、反抗した三人の住民の抹殺に成功するが、今度は砦の大家夫婦の反撃を受け、敗れてしまう。コケにされたままではプライドが許さない斧頭会は、ついに豚小屋砦へ伝説の暗殺者を送り込む…と、少年漫画顔負けのストーリーになっている。
一つ一つのバトルが非常にテンポがよく、ワイヤーアクションを多用したアクションは悪くいえば大げさ、良くいえば爽快で観ていて全く飽きない。棒術・八極拳・輪術の使い手と、いかにも中国らしい武術家たちが登場するのもベタで大変よろしい。一見普通のおじさん・おばさんである大家さんが最強というのも、B級映画好きを喜ばせてくれるだろう。このような設定のひとつひとつが、B級映画好きを「待ってました!」と喜ばせてくれるのである。
さらに大家夫婦でも勝てない敵・火雲邪神(しかも便所サンダルを履いたよぼよぼの爺さんなのだから最高だ)が現れ、大家夫婦は最後の決戦に挑む。そしてクライマックスで、今まで影が薄かった主人公がついに如来神掌の使い手として覚醒する…という、さらにB級映画マニア垂涎モノの展開だ。
筆者などはこのあらすじを読んだだけでご飯三杯いける。おそらく、監督であるチャウ・シンチーもB級映画ファンに違いない。マニアのツボを的確に得ている。
ツボを打たれっぱなしの格闘技。考えるな、感じるんだ
『カンフーハッスル』の魅力の一つとして、登場人物それぞれに得意とする格闘技が違う、というマニアのツボを突きまくった設定にある。
しかも、豚小屋砦の住民たちは一見普通の生活を営んでいる。表向きは気の良い麺屋の店主や、腹の出た恰幅の良い洋服屋の中年男性、カーラー巻きっぱなしの大家さんなどなど、日本の田舎にもいそうな人々ばかりだ。
それが、いざ砦の危機となると、彼らの様相が一変する。麺棒や衣服をかける輪など、それぞれの商売道具を武器にし、悪党どもに立ち向かうのだからたまらない。表情、キレのあるアクションと、アップとスローモーションを多用した抑揚のある展開など、映画としてのビジュアルも最高だ。一見オーバーに取られがちな中国映画の本気を見せつけられた気分になってしまう。
原理・物理法則なんか気にしちゃいけない。そんな野暮を言うやつは如来神掌で潰してしまえ。
特に大家夫婦がおめかしをして斧頭会へ乗り込むシーンは全身の血が湧きたつほど最高にクールだと思うのだが、読者諸兄の目にはどう映っただろうか。
一部のスキもない構成
また、『カンフーハッスル』は構成も非常に上手い。
まず、序盤で警察を蹂躙する鰐革会が現れたと思えば、斧頭会によって瞬殺させられる。この序幕が、『カンフーハッスル』の世界観において、警察組織は何の役にも立たない(=法律や国の権力が及ばない悪党がはびこる世界)ということを痛切にアピールしている。
その後、斧頭会の構成員たちが豚小屋砦の住民にあっという間に片づけられたかと思えば、住民たちは斧頭会によって差し向けられた二人の刺客に始末されてしまう。二人の刺客は大家にやられ、大家は火雲邪神に負ける…という、強い者がどんどん現れるテンポの良さ。まるで格闘技のトーナメントバトルを観ているようなワクワクする作りになっている。
また、全編通してアクションシーンとコメディパートの対比が実に鮮やかで、コメディでは笑いまくり、アクションでは手に汗握る展開と抑揚のつけ方も実に見事だ。割合でいえばコメディ6:アクション4といったところだろうが、アクションの密度の高さによってコメディ映画という印象を寄せ付けない。むしろ、「コメディも十分満足できるけど早く武術家同士の格闘シーンが見たい!」とまで思わせるほどだ。
大家夫婦二人がかりでも倒せなかった火雲邪神を倒すのが、それまでギャグ担当だったナヨっちい主人公、というのも最高だ。散々観客に情けない姿を見せてきた主人公が、チートのような強さを持って火雲邪神を倒すシーンは爽快の一言である。細かいところを挙げるが、主人公の初登場シーンで「もうサッカーはやめだ」というのも同監督の『少年サッカー』を意識していて面白い。
しかも、話のオチになるのがヒロインとの子供の頃の思い出というのがまたいい。まるで満漢全席をたらふく食べたあとで、甘酸っぱく清涼な味わいのライチを食べた気分だ。
ああ、『カンフーハッスル』がまた観たくなってきた。
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