この人を愛する理由
比類なき強さを持つヒーロー、サイタマが、人々の平和を脅かす悪人、怪人らを一撃で退治する……、と、ストーリーは極めて簡素に説明できる。しかし、その物語を彩る画だったり、ただひたすらに強さと清廉な正義を貫くヒーローとは言えない人間味溢れるサイタマのキャラクターだったり、様々な要因が混ざりあい、この作品に一言で言い表せない魅力が生まれていると思う。
主人公が馬鹿みたいに強い漫画というのは少なからずあるのだが、ワンパンマンの主人公にあるのはただ一貫した腕力、だけではない。言ってみれば小市民的な、私たち普通の人間が普通に持っている人間的な度量を見せることもあれば、称賛を求めるでもない愚直なまでの本気を見せることもある。ここが、この作品の主人公の愛すべき点だと思う。
それから、これまでに数々の漫画で描かれてきた、主人公の戦うことへの苦悩や、「怪人にだって命はある」なんていう平和的な意見など、サイタマには関係ない。敵はただただ粉砕されていく。けれど、それが爽快で気持ちいい。主人公と一緒になって悩む漫画とは別にして、こういう、すっきりする活劇も時には必要なのだと感じる。サイタマの選びとっていく選択に、周囲のキャラクターはしばしば反対し、罵声を浴びせ、否定する。けれど彼が様々な局面でどのような困難にぶつかろうとも、私たち読者は主人公に不安を感じることはなく、ただ信じていられるのだ。
好きになる理由はいらない。だってサイタマは強いのだから。
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