開けゴマ!なんて呪文があればいいけど、
綿矢先生嫌いが尊敬に変わりました。
女子高生がクラスの比較的地味な男子に恋をする、という設定で、なんだありきたりだな、と半ば読み始めた意地だけで読みました。
今、先生に向かって土下座したいほどです。申し訳ありませんでした。
舐めてかかってはいけない、甘酸っぱい恋愛小説なんかではありません。大人よりヘビーで、多感な時期だからこその強烈さがギュッと170ページほどに詰まっている作品です。私はこの作品を何気なく手にしたことを運命と呼びます。世間でどうしてこうも綿矢りさという作家が人気なのか理解できませんでしたが、言葉を、文章をここまで巧みに、解けないほどこんがらがっていると見せかけて、実はこことここを引っ張ればするりと解けますよ、と簡単に1本の紐に仕立て上げる作家さんなんだと、この作品を読んで深く納得しました。
私はもう綿矢先生に夢中です。愛しているとさえ、思います。
不毛。
恋人のいる人を好きになった主人公は不毛な想いを抱いたまま、どうすれば振り向いてもらえるのかと悩みます。夜の学校に忍び込んで恋人とのやり取りの手紙を盗み見たり、実際に持って帰っちゃったり、結構アクティブです。行動派の主人公は手紙に記載のあった名前から以前同じクラスだった女子生徒(美雪)にポイントを絞り、接触します。そして上手く懐柔し、肉体関係にまで関係を持って行ってしまうのです。なんとも強烈なキャラクターだと圧倒されたのを覚えています。これぞ、綿矢ワールドの真骨頂、とでもいいましょうか。
綿矢先生の作品に出てくる女性は、比較的意志の強いキャラクターが多いように思います。はっきりと自分の意見を言えないという主人公もいますが、最終的には周りを気にせずに自分の言いたいことをがつんと相手に伝える、芯の通った女性が多いな、と思います。
話は戻りまして、彼女を虜にできても、やはり、男の子(たとえ)はそうはいきません。頑なに、強く主人公を拒絶します。
それにも負けず同じクラスで過ごせる主人公は、やっぱり強者です。
鶴を折るのは得意ですか?
私は結構手先が不器用なので、綺麗に折れた試しがないです。
折り鶴はラストで主人公が1羽1羽開いていくのですが、最後の方はどうしたって物悲しく、そのなんともない作業であっても、胸が苦しくなり、実らない恋愛小説でこんなに泣かされるとはと思うほど心に沁みたシーンでした。
ひらいて、と平仮名でタイトルが書かれており、折り鶴を開く=私に心を開いて、という伝えられないメッセージなんだなと遠からず近からずという模範的な発想をしました。けれど、これは自然に開くには重たい扉で、しかも何重にも鍵がかけられてこじ開けることすら困難なほど、と読んでいて思いました。
北風と太陽の話のようで、それも少しずれていて、限られた人間だけがひらくことを許される関係、という狭い世界での話だなあと思いました。閉鎖的な関係をこれから続けていくことは彼らにとって有益ではない、私は恋人同士であるたとえと美雪に果敢にも挑んでいった主人公がいて良かったと思いました。外部との接触を否が応でもしなければいけない、それを完全に遮断することはできないと、この2人にとったらいい経験だったのではないかと考察します。
男女の三角関係。
一般的な三角関係を想像していたら、物語についてはいけません。略奪愛を企て、先に女性と肉体関係に持ち込み、既成事実を作るなんて、今まで出会ってきた作品では読んだことのない設定でした。ゆえに、先が見えず、種も最後の方でようやくわかり、すべてが紐解かれて理解できる、そんな作品です。
他の感想レビューなんかを覗くと、やはり同じようなことを皆さん思ったようで、次の展開が予想できない、終わり方が見えないと多くの方が感想を持たれています。綿矢先生の文章構成力が存分に発揮され、読者はトランポリンの上に落とされて、真っ直ぐ歩けないような気分のまま読み進め、展開部から最後にかけては背後から何かに追われているような切迫感を抱いて、突然終わります。
ご本人も意図して唐突に話を終わらせているわけではないと、他の作家さんとの対談でおっしゃっていますが、これももはや綿矢流なのだろうなと解釈しています。
結局は自分を理解してもらえた主人公ですが、恋はもちろん実らず、付け入る隙がないほど2人の結束は固いと判断したのでしょう。たとえと美雪が高校を卒業後上京をすると言っていましたが、主人公は主人公で自分らしい生き方をして、2人とは今後二度と会うことのないよう生きていくのだと思います。その後については続きが描かれていないため、私の勝手な想像ですが、ここで3人仲良く上京をするという終わり方ではないので、きっと同じように思われた方もいると思います。
たとえと美雪は2人の世界を守りつつ、少しずつでいいから世界を広げていってもらえるといいな、と願います。高校生という設定から、狭い世界での凝縮された出来事は本当に刺激に溢れたものばかりだなあと、年をとった今しみじみ思います。
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